2017年の公示地価発表、住宅地は9年ぶりの前年比プラスに

3月21日、国土交通省が2017年1月1日現在の公示地価を発表しました。それによると、商業地が+1.4%上昇(2年連続のプラス)、住宅地が+0.022%上昇(9年ぶりのプラス)、全用途が+0.4%上昇(2年連続のプラス)となっています。なお、上昇率はいずれも対前年比です。

マイナス金利を始めとする日銀の低金利政策、及び、訪日外国人旅行客の増加などにより、大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)を中心に商業地の地価は堅調に回復しています。特に今回は大阪圏の地価上昇が著しく、商業地の「上昇率」では全国上位5位全てを大阪市が占めました。

仙台市の住宅地が大幅上昇、全国上位10位のうち7地点を占める

今回のトピックは、何と言っても、住宅地の地価がわずかながらとはいえ9年ぶりの上昇に転じたことではないでしょうか。ただ、その回復は鈍く、大都市圏での上昇率は足踏み状態が見られます。

そうした中で、住宅地の地価上昇に貢献したのが中核4都市(札幌、仙台、広島、福岡)であり、中でも突出していたのが仙台市です。上昇率で見ると、全国上位1位~4位を仙台市が占め、さらに全国上位10位以内に仙台市の7地点が入っています。

もちろん、公示地価の絶対価格で見れば、大都市圏には遠く及びません。上昇率第1位の仙台市若林区白萩町が14万6,000円、第5位の東京港区麻布が275万円です(いずれも1㎡あたり)。それでも、全国上昇率のトップ10のうち7つを占めたことは特筆すべき点でしょう。

地下鉄東西線の開業効果が地価上昇の最大要因

今回の調査で仙台市における住宅地の地価が上昇した最大の理由は、地下鉄の開業効果です。2015年12月、新たに市営地下鉄「東西線」が開通しました。それまでは「南北線」1本でしたが、東西線の開通により、沿線住宅地の需要が急増した模様です。

実際、全国の上位10位に入った7地点は、全て東西線沿線の地点でした。もともと仙台市は“住みたい街”ランキングのたぐいでは常に上位に顔を出します。東日本大震災による地価下落が一巡したところに、新たに地下鉄が開業したことで上昇率に弾みがついたと考えられます。

仙台市の地下鉄路線図

地価上昇が著しい仙台市、好景気に沸いているのか?

また、仙台市は商業地の地価も+9.0%上昇しました。2年連続のプラスで、東北地域では群を抜く上昇率です。これは、仙台駅周辺で新規投資が活発化し、オフィス空室率の改善が見られた結果と報じられています。

こうした仙台市の住宅地、及び、商業地の地価上昇を見ると、仙台市は好景気に沸いているような印象があります。確かに、復興需要が一段落した後の反動減に苦しむ東北地域の中では、相応の賑わいがあることは間違いありません。しかしながら、その東北最大の都市である仙台市でも、良いニュースばかりなわけではありません。

駅前一等地の「さくら野百貨店 仙台店」運営会社が経営破綻

2月27日、仙台駅前にある「さくら野百貨店 仙台店」を運営するエマルシェが仙台地裁に自己破産を申請し、破産手続き開始の決定を受けることになりました。「さくら野百貨店 仙台店」も突然の閉店となったのです。

この百貨店は、仙台駅前の目抜き通りである青葉通りにあります。駅前の一等地に店を構える百貨店が営業不振で倒産するのですから、“好景気に沸いている”とは到底言い難いものがあるのは明らかです。

このニュースは、仙台市のみならず、東北地方の景況感が芳しくないことを如実に表すニュースとして注目されました。

自己破産したさくら野百貨店 仙台店

閉店した「さくら野百貨店 仙台店」ですが、テナント入店の一部は営業を継続しているため、外から見ると閉店した印象は薄い気がします。

しかし、中に入ってみると、片付けられたスペースに裁判所からの差し押さえ公告などが貼られるなど、地方としては大きな倒産であることを感じさせられます。昔の賑わいが二度と戻らないことを突き付けられたと言えましょう。

寂しさを感じさせる店内

地価上昇だけでは語れない景況感

今回、仙台市の住宅地を始めとする地価上昇は悪いニュースではないと思われます。しかし、地価の上昇だけでは語ることのできない、厳しい消費環境と回復が鈍い景況感を実感したのは、他の誰でもない、仙台市に住む人々のような気がしてなりません。

(注)さくら野百貨店の「青森本店」「北上店」「弘前店」「八戸店」は、運営会社が異なるため「仙台店」の閉鎖とは一切関係がなく、通常通りに営業されています。

LIMO編集部