日本の製造業を代表する企業である三菱重工の株価が連騰しています。巨額の損失発生懸念があった米国の原発運営会社との訴訟で和解が成立したことから、株価は窓を開けて上昇を続けています。
しかし、三菱重工の株価上昇を素直に喜ぶのは時期尚早かもしれません。原発訴訟が片付いたとはいえ、三菱重工が社運を賭けている小型ジェット旅客機MRJの度重なる量産延期もあり、三菱重工の今後の株価はMRJ次第の面が否定できません。
三菱重工の懸案の1つ、米国原発運営会社との訴訟が和解で決着
原発事業といえば、経営危機に瀕している東芝の負のイメージが付いて回りますが、三菱重工も米国で原発運営会社とのトラブルを抱えていました。
米カリフォルニア州のサンオノフレ原子力発電所で、三菱重工納入の蒸気発生器から2012年1月に放射性物質を含む水が漏洩した事故で、原発運営会社等から合計66億6,700万ドル(1ドル113円計算で約7,500億円)の請求を受け、訴訟に発展していました。
東芝が原発事業で巨額損失を計上していることから、三菱重工の訴訟の行方が注目されていましたが、3月14日に和解が成立。1億2,500万ドル(約140億円)を支払うことで、訴訟は決着し、最大約7,500億円の損失計上の可能性があったものが、結局約140億円の損失で確定しました。
三菱重工は既に約140億円の引当金は計上済みと発表しており、原発事業での損失は最低限にとどめられる形となりました。
和解を契機に上昇した三菱重工の株価
こうして原発事業での懸念を解消した三菱重工の株価は窓を開けて上昇。3月14日以降3連騰することとなり、450円付近の株価が500円一歩手前まで上昇しました。
三菱重工株はこれで上昇トレンド入りかと考えたい所ですが、解決すべき大きな問題がもう1つ残されています。それは同社が社運を賭けて開発している小型ジェット旅客機MRJです。
納期延期を繰り返しているMRJ
三菱重工はANAからの発注を受け、2008年3月にMRJの事業化を発表しています。当初は2013年に初号機の納入を予定していましたが、その後繰り返し納期延期が発生し、2020年半ばにまで納期が延期されています。
ボーイング787の主要航空機部品製造や自衛隊の戦闘機の製造も手掛ける三菱重工ですらMRJの開発に手こずる姿は、航空機開発の難しさを象徴しています。
営業面での懸念も存在
製造面の懸念に加え、MRJには営業面での懸念も存在しています。当初はライバル会社による同クラス航空機の市場投入に先んじることで、先行優位性を発揮する計画でした。しかし、その計画は既に頓挫しています。
三菱重工は今後ブラジル・エンブラエル、カナダ・ボンバルディアと言ったライバル会社と営業面で競り合いながらMRJの受注を競うことになります。
政府の意向等、航空機の営業は様々な要因が絡みあうものです。かつて三菱重工が開発したYS-11は名機との呼び声が高かったものの、世界の航空機会社に対し三菱重工は営業力で歯が立たず、海外では冴えなかったという歴史も存在しています。
現在、開発面で苦戦しているMRJですが、ライバル会社に対し先行優位性を発揮するというのが当初の事業計画だっただけに、今後開発面の目途が付いた際には営業面での懸念が浮上する可能性もあります。
まとめ
三菱重工はMRJの開発に既に数千億円を投じていると報じられています。年間1,000億円前後の当期純利益の三菱重工にとって、数年分の利益を丸々投入している計算となるMRJの開発は、文字通り社運を賭けたプロジェクトとなっています。
これまで三菱重工は「原発事業」、「造船事業」、「MRJ」と3つの懸念があると言われていました。その中で造船事業は大型客船事業からの撤退で止血がなされ、原発事業は和解により止血がなされています。そして最後に残っているのがMRJとなります。
自衛隊機を除けば自国の航空機産業を有していない日本にとって、MRJの成功は三菱重工のみならず、日本のモノ作り活性化の起爆剤としての役割も期待されています。
三菱重工の株価を考える際は、MRJ事業の進展にも注目すべきと思います。
LIMO編集部