オーバーローンの場合の不動産の処理について

夫婦の共有財産がオーバーローン状態の不動産(不動産の価格よりも住宅ローンの金額の方が大きい場合)のみである場合には、夫婦が築いた財産はないので、財産分与の申立ては認められません。マイナスの財産だけを分ける財産分与は、認められていないためです。

しかし、不動産が夫婦の共有名義である場合などに財産分与として、登記を一方の単独名義に移転するなど、積極財産の帰属を求める場合には、そのような財産分与請求は、必ずしも不適法となるわけではない、とされています(松本哲泓「改訂版 婚姻費用・養育費の算定」(新日本法規)・137頁)。

オーバーローンの不動産について、一方が相手の共有持分を取得する場合、相手が負担している住宅ローンについてどのように処理するかが問題となりますが、最終的に物件の共有持分を取得する者に債務を負担させることが公平とされています。

元妻が元夫にオーバーローンの不動産の財産分与を求めた事例であり、現在、不動産には元夫が居住しているが、元夫には、住宅ローンを支払い続ける資力、収入はなく、元妻が不動産の取得を希望し、住宅ローンも自らが全部負担する旨を申し出ていたという事情がある場合において、裁判所は以下のように判示しました。

「本件不動産は元妻に分与し、かつ、住宅ローンについても元妻の負担とするのが相当である。元妻が、本件不動産の所有権を取得するとともにその債務を負担するとすれば、オーバーローンの部分を負担することになるが、本件不動産に居住を続けることができるという現実の利益があり、他方、元夫は、本件不動産から退去しなければならないという不利益が生じるもので、その均衡を考えれば、住宅ローンの全部を元妻の負担としても不当なものではない。」(大阪高裁平成21年2月20日判決)。