2021年12月10日に行われた、サイボウズ株式会社「鎌倉投信×サイボウズ IRオープン面談」の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久 氏
サイボウズ株式会社 執行役員 経営支援本部長 林忠正 氏
鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田恭幸 氏
鎌倉投信株式会社 資産運用部長 ファンドマネージャー 五十嵐和人 氏
鎌倉投信×サイボウズ IRオープン面談
青野慶久氏(以下、青野):みなさま、こんにちは。サイボウズの青野でございます。今日はIRオープン面談第1回となります。この記念すべき第1回のスペシャルゲストをお招きしています。鎌倉投信代表取締役社長の鎌田恭幸さまです。
鎌田恭幸氏(以下、鎌田):よろしくお願いします。
青野:そして、資産運用部長の五十嵐和人さまです。よろしくお願いします。
五十嵐和人氏(以下、五十嵐):よろしくお願いします。
青野:鎌倉投信がサイボウズに投資していただいてからかなり経ちますよね?
鎌田:そうですね。7年くらいになると思います。
五十嵐:2015年からです。
青野:6年から7年くらい経ちますね。私が「株価をあまり気にしない」などと言っているため、資産運用会社の方々からは嫌われていると思っていました。
鎌田:そのようなことはないです。資産運用会社と発行体企業で普通のIR面談をオープンに行うのは、おそらく前例がないと思います。どのような展開になるのかはわかりませんが、非常に楽しみにしています。
青野:本日の主旨をスライドでご紹介します。サイボウズは上場していますが、上場企業と資産運用会社がIRの面談を行うことはよくあると思います。
ただし、普通は会議室の中でクローズに行います。「公明正大」をうたっているサイボウズ的には、一部の人のみ情報共有して、世間と情報共有しないのはいかがなものかということで、サイボウズのIRチームが公開したいと言い始めました。乗ってくる人はいないだろうと思ったのですが、いらっしゃいましたね。
鎌田:お声掛けいただき、ありがとうございます。
青野:このように誘われるのは初めてですか?
五十嵐:どちらかと言いますと、私どもからお声掛けさせていただいた節もあります。「オープンならライブでどうですか?」とお話ししたのですが、それが企画になっていて「あ、まずいな」と思いました。
青野:そうだったのですね。今日はサイボウズ側は、代表の私ともう1人います。
林忠正氏(以下、林):財務経理の責任者をしております、経営支援本部の林でございます。よろしくお願いします。
鎌田:最初に今回の面談のお願いなのですが、当社はいつもこの紙を渡しています。今日は主に御社の経営理念や事業内容についていろいろ教えていただきたいと思っています。
いわゆるインサイダー情報の取得を目的とするものではありませんので、そこだけお気を付けくださいという趣旨です。堅苦しい内容で申し訳ありません。
青野:リアルな面談ですね。では、あまり余計なことを言わないようにします。リアルタイムで流れていますしね。
五十嵐:マーケットもまだ開いています。
青野:未公開情報には気を付けながら発言していきたいと思います。
企業理念の社員への浸透度合い
五十嵐:鎌倉投信では、よい会社である限り長くその株式を保有するための材料についていろいろとお話を聞いているのですが、その中心にあるものが企業理念です。「歴史は繰り返す」といわれますが、企業活動の歴史も繰り返しているように私は感じています。
その「繰り返す」は何からくるのかを考えているのですが、多くは企業理念によるところが大きいのではないかと思っています。
現在のサイボウズの企業理念はメディアなどいろいろなかたちで報じられていて、共感する方も多いと思いますが、上場した頃の企業理念はそれほどでもなかったと思っています。
あまり触れられたくはないかもしれませんが、さかのぼります。私の記憶が正しければ、上場した当時の企業理念は「情報サービスを通して世界の豊かな社会生活の実現に貢献します」で、平たくいいますと「情報サービスの大衆化」というお話で「えっ?」と思いました。
部外者である我々がなかなか理解できないのはよくあることかと思いますが、社員はこの企業理念についてしっかりと腹落ちしており、浸透していたのかというところに疑問があります。
何に向かったらよいのかが見えにくかったのではないかと思っているのですが、振り返ってみて印象などありますか?
青野:いきなり厳しいご指摘ですが、そのとおりです。「情報サービスを通して世界の豊かな社会生活の実現に貢献しよう」は、創業した1997年の上場前に前社長の高須賀さんが定めたもので、事業のドメインです。
情報サービスは相当広い分野ですが、高須賀さんは「とにかく広い分野で進んでいくんだ」と決めました。途中で社長を私にバトンタッチしましたが、私も「広いドメインで進んでいくんだ」と決めていました。私が社長になったのは2005年ですが、その時はまだグループウェアしか行っていませんでした。
そこで「もっと広げていこう」ということで、M&Aを行いました。通信会社やコンサルティング会社、ハードウェア会社の買収などいろいろ行いましたが、残念ながら私はどれもうまく経営できず、「理念を掲げてもまったくできないぞ」と思ってひどく落ち込みました。
そこで、できないのなら絞るしかないということで、自分が魂を込めてできる分野は何かを考えた時に、創業時に志したグループウェアに絞ろうと思いました。自分はなぜそれほどグループウェアが好きなのかを考えましたが、みんなが楽しそうにチームワークで行っているのを見るのが楽しく、それまでよくなかったチームの風通しがよくなり明るいチームになっていくのが楽しみでした。
「それをやりたかったんだ」と気がついた時に社員の人たちに相談して、「ごめん。絞らせて」と言いました。買収した会社の経営者にもお話しして、「ごめんなさい。僕がこのサイボウズの社長の間はあまり手広くできないため、グループウェアでチームワークをよくすることだけに絞らせてください。その代わりに、ここに命をかけるつもりでがんばりますので、そこは理解してください」ということを社員や社外の人にお話ししました。
すると、おもしろいものでチームワーク好きの人が集まってきたのです。もちろん離れていく人もたくさんいました。「もっといろいろできると思ったのに、おもしろくない」と言って離れていく人もいましたが、「僕はチームワークが本当に好きなんです」という人が集まってきて、結果的には一体感のある組織になっていきました。
振り返ると、私の至らなさが災いを招いてしまったのですが、今に落ち着いたというところです。
チームワーク
五十嵐:時系列で見ると、2008年は「選択と集中」ということで、グループウェアにリソースを集中してきました。ただし、当時の経営理念は従前のもので、2010年に変化が出始めました。
「グループあるところにサイボウズあり」というようなスローガンが出てきて、「サイボウズはグループウェア事業を通じて顧客のチームワーク向上を提供します」と、ここで初めて「チームワーク」という言葉が出てきました。
五十嵐:2011年には東日本大震災が起こり、そのような時代背景もいろいろと影響して現在の企業理念に至ったのではないかと思います。「選択と集中」を2006年から2008年頃に進めて、そこに魂を入れたのが2010年から2011年頃かと思います。このあたりを振り返って、どのような想いだったのかを教えてください。
青野:企業理念を変えるということで、みんなが最初から納得してついてきてくれたわけではありません。2007年や2008年頃から「チームワーク」という言葉を社内的に使い始めるようになりましたが、最初は「チームワーク? 使い古された古い言葉であまりかっこよくないのですが」と社員に言われました。
しかし、まさに震災などを経て自分たちでこれを反芻している中で、「自分たちが目指しているチームワークってこんな感じかな」とだんだん身近になってきたことで言葉が定着していきました。
そこで外向けに言葉を変え、「これでいくぞ」となりました。そのような変遷で、時間はかかりました。
五十嵐:「チームワーク」の対義語は「成果主義」だと思います。成果主義をどんどん進めていき、おそらく「成果主義の限界」のようなものをみなさまも感じていたのではないかと思います。
その頃から人事制度の変更に着手する会社も現れたことで、「チームワーク」という言葉があらためてクローズアップされてきたように私は思います。
鎌田:確かにそのとおりですね。(規模の経済を追い続ける)資本主義のあり方が問われ始めると同時に震災があり、互いの関係性をもう一度見直すと言いますか、「本当の豊かさとは何か」というようなことを、日本人があらためて問い直した時だったと思います。
まだ深く定義付けられたわけではないかもしれませんが、そのような流れがチームワークを社会的に見直す非常に大きな転機だったのではないかと感じます。
青野:鎌倉投信の設立はいつですか?
鎌田:2008年のリーマンショックの直後です。
青野:ちょうど私たちが方針転換した時で、同じ時期ですね。
鎌田:そうですね。リーマンショックの直後に立ち上げて、ファンドスタートが2010年からですので、まさに震災の1年前くらいで、ちょうど変化の時でした。
青野:おもしろいですね。
歴史は繰り返される
五十嵐:冒頭に「企業活動の歴史は繰り返される」という仮説をお話ししました。2012年だと思いますが、「kintone」の提供開始でマーケットに参入しましたが、我々は9年間の軌跡を見て、この理念のもとに「kintone」が成功しつつあると認識しています。
五十嵐:そのように考えると、この企業理念であれば何度でもよい歴史が繰り返されるのではないかと思っています。次は何が出てくるのかを楽しみにしていますが、チームワークというコアの価値観を中心としたサービスが出てきても、おそらく成功すると思います。
このように歴史は繰り返されていくのだろうなというところで、そこからブレてきたら「おや、そんな判断になるのか」と思うのですが、今のところは我々も非常に共感していますので、引き続き応援していきたいと思います。
青野:やはり理念から見られるのですね。
五十嵐:素晴らしい理念がありながら、従業員に浸透していないと思われる会社もあります。そのような会社は、バランスシートやキャッシュ・フローにも特徴が出てきたりします。その理念の設定と、その実行といいますか、実質性のようなところをいろいろな角度から見るようにしています。
今日は経営者との面談というかたちですが、従業員や取引先との面談で、「あれ? 言っていることが違うぞ」ということがあったら、時間はかかりますが、何度でも確認するようにしています。
相互承認
林:先ほど青野も「理念の浸透に時間がかかる」とお話ししましたが、私がこの会社に入ったのは2013年で、その時には理念がすごく浸透しているとはそれほど感じませんでした。
1年から2年経った2015年頃にはビジネスジャッジする時に、「これはチームワークがあふれることにつながるんだっけ?」ということをみんなが自問自答しながら取捨選択していくことが日常的になってきていました。その過程を見て、「ああ、これが浸透していくってことなんだな」と実感しました。
鎌田:「理念が浸透すること」は、とても難易度が高いことです。その中で、御社は働き方改革の最前線を走っており、働く時間、働く場所、副業を含めて社員が自由に決めています。多様な働き方を互いが認め合うというのは、相互承認のレベルが非常に高くないと実現しない組織風土だと思います。
青野社長がそれを実現するために何に一番エネルギーを割いたのかを知りたいです。人間的には相互承認は非常に難しく、1対1ならまだよいのですが、多対多を相互承認することはものすごく難易度が高いと思います。そこを突破できたポイントがあれば教えてください。
青野:働き方改革を社内では「働き方の多様化」と呼んでいますが、最初に声を挙げてくれたのは働く女性が多かったです。例えば、出産した時に「家事・育児があるため、短時間勤務で働きたい」「在宅勤務で働きたい」などの要望があります。
そのような声を拾っていくと、「あんなに短時間勤務で働かれたら、俺に残業が回ってくる」「この会社は働く女性には優しいけれど、働く独身男性には厳しい」と言う人が出てきます。
その時に、「待って。多様化を目指しているから、あの人にとってはあれでいいんです。それで、あなたはどう働きたいんですか? 人との比較ではなく、残業したくないのに残業しているのであれば、あなたが残業しない制度を作ります。あなたが在宅勤務で働きたいのであれば、あなたが在宅勤務できる制度を作ります」と伝えると、「えっと」と彼も考え始めるのです。
「僕はどう働きたいんだっけ?」「いや、俺は独身だし、まだ残業はしたいよな」「じゃあ、これでいいね」となります。ですので、人を比較して平等に扱うのではなく、できるだけ個人に注目することに意識を向けたかったのです。
鎌田:ある面では、「お前はどうしたいんだ」というのは当人に対して非常に厳しい問いかけですよね。自分が責任を持って働くという自覚を持った時に、人のせいにしないなどの相互承認が生まれるのですね。
青野:自分の軸がなくて自分に不満があると人を攻撃し始めますが、「自分は自分で豊かな人生を歩んでいる。俺はこの働き方を選んだ。俺はこの職種を選んだ」という軸があると、他人がどのようにしていようと構わないわけです。
鎌田:そうですね。すごくおもしろいですね。
青野:ですので、自分で決めさせるというかたちでしたね。
10年後、20年後の世界観
五十嵐:「サイボウズ Office」に関してです。鎌倉投信では使用していませんが、前職で使っていました。頻繁に機能が追加されてすごく使いやすい印象を持っています。
おそらく作っている人が「グループウェアの変態」といいますか、そこだけに集中している方なのだろうと思っていますが、利用してみて、コミュニケーションが非常によくとれるようになったと体感しましたし、サービスの拡大を通じて世の中のコミュニケーション、チームワークがよくなっていくのではないかと感じました。
例えば10年先などの長期目線で、どのような社会を作っていくかということは、鎌田さんが聞きたかったことですよね?
鎌田:そうですね。今「kintone」もどんどん広がっており、日本全国で御社のサービスを使っている法人は10万社ほどになりますが、ここからさらに伸びていくのが見えています。
10年後、20年後に、このようなサービスが広がっていった社会について、青野さんや御社の社員はどのようにイメージしているのか、描いている世界観があれば教えてください。
青野:私目線では、よいグループウェアを作り、世界中の人に使ってほしいです。どちらかと言いますと、作り手としてのエゴのようなものです。「便利」と言ってほしいですね。
「あなたのところのソフトのおかげで、うちのチームワークが高まったよ」と言ってほしいです。今はまだ日本で10万社ほどですが、アルゼンチンなどの日本の裏側まで行った時に、旅行でふと立ち寄ったお店で「君のところのグループウェアを使っているよ」と言われたいです。これが自分たちのモチベーションです。
今のは私目線ですが、社会目線では多様な個性が活かされるチームが増えてほしいと思っています。私たちも短時間で働く人や出社しない人とチームワークがとれるようになってきていますが、それがもっと世界中のいろいろなところで起きてほしいです。
例えば、目が見えない方と足が動かない方がいても、普通にチームワークに参加して「楽しく働いているぜ」「互いに違うけれど、よいチームになっているよね」というチームが世界中に増えたら「なんて幸せな社会なんだろう」と私は心の中で思います。
「どれだけ制限がある人でもチームに貢献できている喜びがある。感謝される喜びがある。感謝する喜びもある」というチームが広がってほしいです。「70億人中何人まで広がるかな」と思っていますが、これが私がイメージしている社会です。
鎌田:そのような意味では、多様性はもっとありますので、御社のアプリケーションの中でもいろいろな機能が追加されて、さらに多様な人たちが使いやすい商品・サービスになっていくという世界でしょうか?
青野:そのとおりです。
鎌田:今は急成長していて、売上で200億円くらいだと思いますが、10倍、100倍の規模感で世界に広がっていくような商品・サービスが展開できたら非常に夢があってよいなとは思っています。
青野:ありがとうございます。
五十嵐:100年後も普及の途上にあるのでしょうか?
青野:100年後は少し都合が悪く、おそらく私が生きていないため急ぎたいですね。できたらその世界を見ながらこの世を去りたいと思っています。
林:3年から4年くらい前に、今の成長率でサイボウズユーザーが広がっていくとどのくらいのユーザー数になるのかを、青野さんが60歳、70歳くらいまでシミュレーションしましたが、「ぜんぜん足りないな」と社内で言っていたのは覚えています。ですので、もっともっと加速していかないといけないと思っています。
シェアについての考え方
五十嵐:今の話に関連して、以前はグループウェアで世界トップシェアを取るという目標を掲げていたと思いますが、最近はシェアという言葉を使わず、ID数を伸ばすことに注力しているように見受けられます。御社にとって、シェアとはどのような位置づけなのか教えてください。
青野:シェアについてはすでにそれほどこだわっていません。なぜかといいますと、ソフトウェアの分野も入り混じってきている中で、例えば、Microsoftが出している「Microsoft 365」は一部競合していますが、ほとんどの機能は被っていないため、比較してシェアを語る意味がなくなってきています。
業界の変化としてそのような点がありますし、他社を意識すると、自分たちが行いたいことが見えにくくなります。我々は自分たちがどれだけのお客さんに貢献できたか、ということに重きを置いています。
もちろん、「他社をまったく気にしていないか?」と言われるとそうではないですし、ちゃんと見ており、競争戦略を取らないといけない時もあります。しかし、我々の軸は、いかにたくさんのお客さまにシェアできたか、ということにあります。
五十嵐:かつてトヨタの社長も「シェアを意識したら駄目になる」というお話をされており、「結果としてのシェアだ」という話と近い考え方なのかと感じます。
取締役の公募
五十嵐:今年話題となった取締役候補者の公募について、具体的な質問が何点かあります。まずは「社員全員が取締役の役割を担う」という方向性は本当に実効性があるのでしょうか? 一般的に取締役の役割は経営の監督であり、それが強すぎるとスピード感が落ちますし、本当に風通しがよいのかどうかといったところも含めて、まだ1年経っていませんが、途中経過ではどのような印象でしょうか?
林:結論からいいますと、おそらくスピード感も落ちていませんし、風通しもよいままなのではないかと思っています。
もともと、サイボウズが目指している組織のあり方として、自律分散型の意思決定ができるようにしたいというところがあります。一部の強力な権限を持った取締役だけで物事を決めて進めていくよりも、みんなが納得感を持って事業を進めていく体制を取りたいということが、理想の根底としてあります。
林:結果として、今回公募して17名が取締役として選任されましたが、この17名の意見だけで決めているわけではなく、重要な意思決定に関しては、常に経営会議の議論の中身を社員に公開し、アドバイスや意見を求めながら決めています。そのスピード感は以前と比べてもあまり変わっていませんし、社員からたくさん意見をいただくことで、経営会議で議論している内容がひっくり返るケースも実はあったりします。
五十嵐:そのようなこともあるのですか?
林:先ほどもお話に出ましたが、プライム市場の選択に関しても、経営会議ではサイボウズの現在のあり方では、プライムではなくスタンダードに、あるいは思い切ってグロースに、という選択肢もあるのではないかとの意見も出ました。
社内で「今、こういうことを考えているけれど、業務の現場で向き合っている現状から、どこを選択するのがいいと思いますか?」という質問を投げかけた時に、かなりの量の助言が返ってきました。企業としての信頼度やお客さまとの関係性も含めて、プライム市場のほうがよいのではないかということで、社員の意見を反映させながら、今回はプライム市場を選択するという意思決定をしました。
林:最近では、「来年の取締役をどうするか」という議論をしていますが、青野から「もう少しジェンダーギャップに配慮したらどうか」といった話もありました。それは「取締役の中に占める女性の比率を考慮する」という世の中の流れを受けているのもありますが、2日間で60件から70件の意見が社内から返ってきました。
「形式的に取締役の比率をいじることよりも、実態としてしっかりとサイボウズの中のジェンダーギャップをなくすことのほうが大事なのではないか」という意見が大勢を占めたため、「それであれば、そこだけを決め打ちして選ぶのはやめよう」といった話になったりしました。
このように社長の一声を、みんなが意見してひっくり返すこともありますし、実態としてスピード感を持って普通に行われています。
鎌田:私たちもいろいろな投資先の会社のガバナンスを見ていますが、やはり100社100通りで、このようなかたちにしなくてはならない、といったことは一切なく、それぞれの会社にあったガバナンスのかたちがあると思います。そのような意味で、林さんがおっしゃった、実質的に大事にしていることを骨子にして、ガバナンスを作っていけばよいと思います。
さらにいえば、それを突き詰めていくと、おそらく「ガバナンス」という言葉すら必要のないガバナンスができるのではないかと思います。御社の今回の取締役公募の挑戦は、ある面でブロックチェーン型の組織づくりともいえるのでしょうか?
林:おっしゃるとおりです。
鎌田:誰も監督せずに相互に管理しあう、というすごく理想的なかたちに挑戦されており、これがうまくいくかどうかは歴史が証明すると思いますが、我々としては「すごくよくやってくださったな」と感じています。この挑戦はぜひ成功していただきたいです。
ちなみに、他の上場企業から 「ガバナンス・コードとまったく違うことをやっている」といった批判などはなかったですか?
林:他の企業から直接そのようなご批判をいただいた記憶はありません。
青野:ネットの書き込みでは、「新入社員に取締役をやらせて、結局自分の言うことを聞くやつを取締役にしているだけじゃないか」「若手に務まるわけがない」といったツッコミはありましたが、そのくらいだと思います。
社外取締役
鎌田:一方で、「社外取締役はいらない」という立場を取っていると思いますが、そこに対する判断の根拠を少し教えていただきたいです。
青野:おそらく「社外取締役を置こう」という流れは、「中で固まった人たちだけで見ていると、見落とすことも出てくるよ」「世の中と乖離しちゃうこともあるよ」という認識からきていると思います。
現在のサイボウズを見てどうかといいますと、中途採用の社員が年間100人くらい入ってきています。そのような外から入ってきた方にも、経営情報から意思決定の過程まで会社の中の情報は相当共有されていますし、また、自由にものが言える環境にありますので、イメージとしては、毎年社外取締役を100名採用していることになります。
鎌田:それは、わかりやすいですね。
青野:5人や10人の採用ではないよという話かもしれませんが、現状ではそのようなかたちです。社外取締役が不要かと言われると、また少しニュアンスが違うのかもしれませんが、我々なりに社外からの目をできるだけ入れようとしている、という感覚です。
五十嵐:その点に関してですが、先般リリースされた改正会社法と社外取締役設置の義務化を受け、社員が推薦する社外取締役を検討するという案は、「非常におもしろい取り組みだな」と思って見ていました。
鎌田:おもしろいですね。
林:現在、検討を進めています。法律で義務付けられていますので、最低限法律で決められている範囲を守りながら、なおかつ、自分たちの理想とするガバナンスと折り合いをつけながら模索しているところです。
青野:これがルールになったため、また少し活かし方を考えて、ルールはルールとして、ロールモデルとなるようなチャレンジをしてみたいと思っています。
五十嵐:先ほどの取締役の公募に関して、鎌田は「支持します」とお話ししましたが、実は社内的には議決権行使をする際に喧々諤々の議論がありました。
議論の対象は2つあります。1つは「取締役は、理想の番人である」という表現について、その「理想」とは何を指しているのかという点です。例えば、形容詞の「理想」では、「最適な」「最善な」という意味ですし、少し判断に迷うなと思いました。この「理想」が「サイボウズの理想」「サイボウズの理想の番人」を指すのであれば納得感があると思いましたが、そこまで言及がありませんでした。
そもそも「理想の番人」の理想とは何でしょうか?
青野:おっしゃるとおり、企業理念のことを指します。私たちの中では、最上位の理想を企業理念に置いており、そこを守っていこうという意味で「理想の番人」としましたが、わかりにくいため少し変えたほうがよさそうですね。
五十嵐:公募に関して最後の質問です。こちらも議論の対象になったのですが、役員等賠償責任保険契約を変更されたということで、一部では取締役の第三者への責任、株主などに対して賠償責任を負う立場にあるため、その役割を果たす仕組みかと思いますが、保険料を会社が負担するとなると、見方によっては利益相反ではないかという議論がありました。
しかし、取締役会の決議があれば認められていることだと思います。この点について、社内ではどのような議論があったのか教えてください。
林:法律が変わったところでもありますし、会社負担にしようという議論はさせていただきました。金額もそれほど多額なものではないため、それほど大きな影響はないというところも踏まえて、法律に従って判断しました。
青野:言える範囲で、どの程度でしたか?
林:数千円、数万円の世界の話になります。
青野:IRらしくなってきましたね。
業績予想
五十嵐:続いては、業績予想であったり、稼ぐ力、投下資本利益率、自己資本利益率といった観点の質問です。
まず、「利益は意見、キャッシュは事実」という言葉が会計の世界にはありますが、どのような会計基準を選ぶのかで経営者の意見が出ることもありますし、どのようなコストの使い方をするのかという点でも意見が反映されるかと思います。その上で、まず質問の1点目は、業績予想についてです。
五十嵐:特に利益予想に関して、2020年12月期は上振れ着地しました。株主から見ると、ネガティブな要素はそれほどありませんが、なぜ、これほど予想が外れたのかというところがあります。こちらに対する意見をお伺いしたいです。
林:一般的な企業では、利益予想は利益目標になっているケースが多いと思いますが、我々はあまりそこに拘束された事業運営を行いたくありません。SaaSビジネスを展開していく上で、事業拡大のためによりよいタイミングで機動的な投資を常に模索する事業運営をしたいと思っています。適宜必要だと思えば使いますし、思っていたより必要ではないと思ったら投資をやめるというケースを繰り返しています。
そのような中で、「いったん直近で見えている事実だけで着地予測をすると、このようなかたちになります」という情報をみなさまと共有させていただいています。これは事実の共有以上の何物でもなくて、そこに縛られない経営をしたいと思っているところが一番大きいです。
林:また、先ほど情報共有という話をさせていただきました。もちろんお話しできない情報もありますが、社内だけではなく、社外とも可能な限り情報格差をなくし、共通の知識のもとでいろいろな議論や対応をしていきたいと思っています。
そのような意味でも、我々が見立てている最新の情報は市場に対しても提供したいと思っていますので、常々、変わるとわかった時にはその都度利益や売上の変更を開示しています。
五十嵐:利益予想からの乖離の一番の要因は広告宣伝投資かと思いますが、どのように決定しているか教えていただきたいです。獲得コストをベースに決めていると思いますが、例えば今期の業績予想を修正した時、「これほどの広告費を使えるのかな?」と感じましたが、その裏側にはしっかりとしたロジックがあって決まっている、という理解でよろしいでしょうか?
林:例えばWeb広告などに投資する時には、ご質問のような考え方での判断が大勢を占めると思います。しかし、マスに認知を広げるためのテレビ広告などでは、認知度の上昇という間接的な指標は当然見ていますが、そこでダイレクトにどれくらい何につながるのかという検証が難しい点もあったりします。そこは自分たちの投資余力の範囲内でどこまでチャレンジできるか、という視点で判断しています。
特にテレビCMは、短期で結果が出るわけではないため、ある程度一定の期間と費用を投資しながら、長期で見ていこうと思っています。
青野:やはり、利益予想の乖離も広告宣伝費のズレも、私たちの実力不足によるところが多分にあります。
もちろん毎年当てにいっているつもりですが、そうはいいましても、それぞれの部門で少しずつ費用が使われずに残り、それが期末になると、「こんなにあったの?」となります。それを毎年繰り返すことで精度を上げようとしていますが、だんだんと組織の規模も大きくなり、さらに当てることが難しくなってきています。
また、テレビCMについては、実は今年が私たちのテレビCM元年です。これほどたくさんの広告費を使ったことがないため、月に何億円もかかり、本当に大丈夫なのかと思いましたし、出した後の効果をきっちり測定してからでないと、次の手が打てないといったところがありました。
結局、上半期は1月と4月しか出せなかったのですが、ある程度いけると踏んだため、実は下半期は毎月出しています。そのあたりのアクセルの踏み遅れが、広告宣伝費のズレを生んだ要因でもあります。
林:もちろん過大な投資になって、我々の屋台骨が揺らぐようなことはないように、しっかりと片手でブレーキをかけながら行っていますし、キャッシュ・フローに支障がないようにコントロールしています。あくまでも自分たちの実力、余力の範囲内でチャレンジしているというかたちです。
五十嵐:今のご回答に関連した質問ですが、稼ぐ力が年々上がってきており、ROEで25パーセントくらい、投下資本利益率(ROIC)で27パーセントくらいと我々は見ています。一方で、資本コストでいいますと、我々の計算ではずっと下がっており、2パーセントです。
予想していたかはわかりませんが、企業理念に共感する投資家が集まり、それが長期投資家となり、資本コストが低下していったのかなと思います。頭ではわかっていましたが、それを実現したサイボウズはさすがだなと思っています。結果として、低い資本コストで高いリターンを回せるため、キャッシュがどんどん残り、使い道がいろいろ出てくると思います。
現在の企業理念であれば、M&Aでまた違う分野に、ということはおそらくないと思いますが、次の新しいサービスは何かなと考えたりしています。御社内では資本コストであったり、稼ぐ力について、どのような理解をされているのか教えてください。
林:資本コストについては、経営判断上は実はそれほど重視していません。稼ぐ力でいいますと、やはりSaaSビジネスのため、座布団で積み上がっていくところのMRRなどを中心に見ています。
そこが順調に拡大し、かつ、その範囲内で投資ができているかというところを、自分たちなりの指標を置きながら、中でモニタリングしています。売上の増加に対して、広告宣伝費が大きくなりそうであるならば、「これは大丈夫なのか?」といった議論や、「このタイミングで人を採るべきか?」といった議論しながら進めていくのがサイボウズの事業展開です。
五十嵐:これはすごく安心感があると思います。
鎌田:五十嵐の質問とは、若干切り口が違いますが、サイボウズの成長の軌跡を見ている時に、この25年の中ですごく大きなターニングポイントが、3つくらいあると思っています。1つ目は先ほど青野社長がおっしゃった「M&Aの失敗から、一気にグループウェアに絞り込んだ」という撤退です。これは非常に大きな決断だったと思います。
2つ目が、こちらも2007年くらいからだと思いますが、グループウェアは競合他社がたくさんある中で、すごく軽いパッケージにしたといいますか、インストールの難しさの壁を突き抜けた技術開発力が非常に大きかったのではないかと思います。
鎌田:3つ目が、まさにスライドのグラフでもわかりますが、2012年、2013年あたりからクラウドへのシフトが始まりました。Garoon(ガルーン)にクラウドをプラグインしたこのあたりの決断が、かなり絶妙だったのではないかと思います。
特に2つ目、3つ目のターニングポイントは、商品のライフサイクルの観点からも、グラフの青色の数字を落とさずに、上に乗せていったことは、かなりのイノベーションだと思います。
もちろん次に何が出てくるかということも気になりますが、個人的にはあの決断のポイントに関心があります。そのあたりについて教えてください。
青野:まず、簡単に使い始められるという点は、実は創業からのこだわりでもありました。それまでのグループウェアは、例えばIBMが当時出された「Lotus Notes」などは、もちろん機能もたくさんあってできることは多いのですが、なによりインストールが大変で、中小企業では専門家がいないと導入できないという状況でした。
そこにWeb技術を用いて、誰でも簡単にインストールして使えるようにしよう、というところはもともとサイボウズが目指していたことです。
現在も残っている共同創業者の畑が、押すだけで簡単にグループウェアが立ち上がるソフトを次から次に作り、まずはそれが起業のきっかけになりました。そして、クラウドのタイミングで、ついにはインストールすら必要ではなくなりました。
お客さまが私たちのホームページから申し込んでくれるだけで、パッとグループウェアができたため、数分後にはすぐ使えるという状態でした。それが私たちとしては、裾野が広げられている1つのポイントかと思います。
2つ目のご質問のクラウドへ転換するタイミングについては、相当悩みました。私も元エンジニアのため、おそらくそのような時代が来るだろうと想像していました。サーバーの性能がどんどん上がっていくと、「お客さまのところにサーバーを置くよりも、自分のところで見たほうがいいのでは?」という、まさに集中と分散の逆転現象がどこかで出るだろうと思っていましたが、そのタイミングが読めませんでした。
鎌田:早すぎても駄目だったのではないでしょうか?
青野:おっしゃるとおりです。私たちが新しい提供方法を始めて、市場を開拓できるほどのパワーもなかったため、そのタイミングをずっと伺っていました。その時に、ちょうどGoogleが「Google Apps」という「Gmail」などのサービスをBtoBで売り始めたのです。
それにはMicrosoftもびっくりして、Googleと戦わないといけないということで、それまではオンプレミスの製品を売っていたにもかかわらず、いきなりクラウドに舵を切り始めました。
Googleが始めて、Microsoftが追従したのを見て、この波に乗り遅れたら我々はもしかしたらもう戻ってこられないかもしれないと思い、必死に食らいついていったのが2011年、2012年くらいです。
鎌田:しっかりと市場調査をして、その準備をしていたということですよね。
青野:そうですね。なんとか運よくというかたちです。
人財育成
五十嵐:次に人財についてですが、従業員の育成に関して何か実施していることがあれば教えてください。
青野:投資は行っています。
五十嵐:仕組みとしては副業OKですし、さまざまな機会も提供し、お金も提供していますよね?
青野:会社側から支給するものとしてはいろいろありますが、例えば、図書費などは比較的自由に使えるようになっています。
五十嵐:どの程度ですか?
林:書籍でいいますと、本人が業務のために必要だというのであれば、マネージャーの最終的な判断は必要ですが、だいたいの購入は認めています。研修も同じで、自分が受けたいと思ったものが業務に必要だということであれば、基本的にはどうぞという話になります。
もちろん、研修を受けてどのようなリターンがあるのかは説明してもらいますし、受けた結果何も変わっていないということであれば、次回、同じような申請があった時に「大丈夫か?」といった話にはなります。基本的には本人発信で、主体的に何かを学びたいのであれば、そこに対しての支援は惜しまずに、チャレンジしたい人を可能な限り応援する体制となっています。
五十嵐:今のお話を聞くと、あまり予算を消化されていないように感じますが、いかがですか?
林:図書費などは、けっこう出ているのではないかと思います。特にエンジニアのみなさんは、最新の技術書などをたくさん買っていると思います。
青野:エンジニアの本などは高額なため、購入をためらうことが多いのですが、気にせずどんどん買っても大丈夫ですし、電子書籍もOKにしています。
林:加えて、IT機器に関してはかなり投資しています。エンジニアではないビジネスサイドの人間も、おそらく最新の高性能なパソコンを使っています。IT面でも頻繁にいろいろなものがアップデートされて、最新のものが提供されるかたちにはなっているため、ストレスなく業務ができる環境となっています。
無形性価値の表現
鎌田:私から最後の質問です。現在欧州などで、無形性の価値、例えば人的資本をIRの中で表現することが加速し始めていますが、御社のように人的関係資本の豊かさを創造していく会社は、そうした無形性の価値をどのように形式化できるものでしょうか?
これは答えのない世界かもしれませんが、数値化することは難しいとしても、社会的アウトカムとしてこのようなものが出てくる、といったアイデアがあれば教えてください。
青野:1つの指標として追っているのが離職率です。
鎌田:そこは確かにありますね。
青野:ある意味、従業員の満足度を見る1つの切り口ではあります。
鎌田:そこにつながるということですね。
青野:ただし、社内では「『指標が5パーセントを下回っていたらOK』と言い始めたら終わりだよ」と伝えています。その5パーセントで辞めていった人たちが、どんな顔で辞めていったのかでまったく違いますよね。
「次はあの仕事をがんばろう。サイボウズありがとう」と言って出ていくのと、「こんな会社に二度と戻ってくるか」と言って出ていくのでは、まったく意味が違います。
鎌田:おっしゃるとおりです。
青野:ですので、私たちはその数字をあまり置かずに経営しているといいますか、縛られたくないといいますか、そこに目がいった瞬間に一人ひとりの無形なものが見えなくなりますので、そのような発想で経営しているところはあります。無形なものを見ようとするところが大事だと思っています。
だからといって、「無形なものを気にしているため、数字は気にしません」というのもおかしな話です。
鎌田:ありがとうございます。
青野:難しいですね。よい回答ができず申し訳ありません。アイデアがありましたらまた教えてください。
鎌田:お互いにですね。
質疑応答:デジタル庁との関連について
青野:それでは、視聴者のみなさまからのご質問にお答えしていきます。
「新型コロナウイルスのワクチン接種のオンライン予約受付システムを提供しているため、デジタル庁との関連での考えを聞きたいです」というご質問です。
新型コロナウイルスの影響で、まず自治体の案件が増えました。他社を批判するわけではありませんが、極端にいいますと、自治体のこのような情報システムは一部の業者と密接に行っているため、私たちは入れませんでした。
ですので、新型コロナウイルスが流行する前までは、自治体や省庁はあまりよいお客さまではなかったのですが、新型コロナウイルスをきっかけに考え方がかなり変わりました。
自治体は「クラウドでスピーディに作らないといけないよね」「そうしないと、本当に便利なものを安く使うことができないよね」というように考え方が変わり、一気にお客さまが増えています。具体的には、神戸市役所、大阪府、東京都、仙台、北九州などで増えており、よい流れだと思っています。
デジタル庁との関係は今のところそれほどありませんが、もちろん私たちなりに貢献できるところがあれば貢献したいと思っています。例えば、サイボウズは1億2,000万人向けのシステムを作るノウハウを持った会社ではないため、自治体などのまとまった単位での導入になっていくかと思います。
質疑応答:東証プライム市場を選択した理由について
青野:「株価にこだわらない社長が東証プライム市場を選択した理由を教えてください」という質問です。
これは社員の熱烈な要望によってです。裏話になりますが、私や山田は「グロース市場でいいのでは?」と言っていました。
正直に言いますとこだわりがなく、どこでもよいと思っていました。「経営管理をしている部門の人たちが楽できる市場がいいな」としか思っていなかったのですが、それを社内の見えるところにある相談所に挙げると、かつて見たことがないくらい、いろいろな人の意見が集まってきました。
「営業している立場から言わせてもらうと、プライム市場のほうが営業しやすいです」と言われて、「そうなの?」と思いました。
林:もちろん、我々も事業成長にはものすごくこだわっています。そのためにどのような環境を整える必要があるのかを考えた時に、みなさまの意見も踏まえて、「プライム市場のほうが、いろいろなところとの対話も含めていいよね」という判断なのかなと思っています。
青野:市場の選択によって、住宅ローンの借りやすさが変わるのではないかと心配する社員も出てきており、「確かに」と思いますよね。
鎌田:それは大事なポイントですよね。
質疑応答:パートナー企業との関係作りについて
鎌田:私のほうからも追加で質問させてください。御社の大きな成長要素には、人と組織以外にパートナー企業との関係性があると思います。パートナー企業だけでなく、パートナーのクライアント、お客さまといいますか、サイボウズ周辺との関係性がものすごくよいと思っています。
これがおそらくリテンションの割合を高めていると思いますし、口コミを含めて広がりを持っているのだと思いますが、パートナー企業との関係作りの中で努力していることはありますか?
青野:おっしゃるとおりです。実は私たちの事業戦略の根幹としてエコシステムという言葉を使っていますが、「パートナーと一緒にビジネスを広げていくんだ」ということを柱に置いています。
なぜかといいますと、私たちがふだん競争している相手は、例えば日本マイクロソフトやセールスフォース・ドットコム、Googleなど、資本的にも人的にもブランド的にも私たちの100倍、1,000倍もある会社です。
ですので、「僕たち単体でできるわけがないよね」「僕らだけで地球の裏側まで広げられるわけがないよね」ということで、私たちはパートナーを中心にビジネスを展開していくのです。
パートナーに付加価値を足してもらい、パートナーと一緒にお客さまに提供していくというモデルについて社内でもお話ししていますし、社外にも伝えています。そうすると、パートナーも信頼しているといいますか、「まあ、弱いから助けてあげようか」と思うのです。
日本マイクロソフトやセールスフォース・ドットコムの場合は、ある日突然買収して大きくなっていきますから、パートナーとしても近寄りがたいところがありますが、私たちはある意味で弱さが強みになります。
弱いからこそ、埋められる余地がたくさんあります。極端な話をすると、企業理念を実現しようと思った時に、私たちが大きくある必要はないのではないかとも思っています。
パートナーがどんどん増えていけば、日本マイクロソフトのように大きくならなくても、地球の裏側までパートナーと一緒に広げられるのではないかと考えています。
鎌田:おもしろいですね。それが弱さとは思いませんが、コンペティターとは異なる立場を、パートナー企業との関係づくりによって強みに換えるという戦略はよくわかります。その発想は素晴らしいと思います。
青野:弱者の戦略です。
鎌田:しかしながら、弱者でも強い関係性の下に多くが集まると非常に強いですよね。
青野:まさに「wisdom of the crowd」で、いろいろな人たちが知恵や力を貸してくれた時の広がりの強さです。コンピュータの歴史の中でも、例えば日本マイクロソフトが出している「Windows」というOSは、日本マイクロソフトが作り込んだすごいOSです。これは世界中に普及しています。
ただし、フィンランドのリーナス・トーバルズが作った「Linux」も今同じように世界中に広がっています。なぜそのようなことが起きるのかといいますと、「Linux」は埋める要素がたくさんあるためです。
「これを組み立てのOSに使ってみよう」「これはサーバーのOSに使ってみよう」「俺はサポート業務をするよ」など、いろいろな人が集まってきて世界に広がっていきました。
私はどちらを取るかといわれたら、後者のパートナーモデルを取ります。それが生き残りの戦略でもあるのです。
鎌田:そうですよね。
青野:今日は1時間にわたりお付き合いいただき、誠にありがとうございました。オープン面談はいかがでしたか?
五十嵐:私はふだんどおりに聞かせていただき、重要情報だけは入手しないようにしました。
青野:私以上に会社の詳細な歴史や転換点をすごく具体的に追っていて、すごく信頼していただいているなと思いました。私自身も株を持っていただいていることをうれしく思っていますので、このような投資家が増えるといいなと思います。
鎌田:そう信じてもらえるように我々もがんばりますので、よろしくお願いします。
青野:それでは、本日第1回目のIRオープン面談は終わらせていただきます。鎌田さん、五十嵐さん、今日はどうもありがとうございました。