東芝、原発事業で5,000億円以上の損失か

東芝(6502)は2017年1月24日、原子力子会社ウエスチングハウス(WH)が2015年に買収した米原子力サービス会社、CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)に関連する「のれん」の計上額を、2月14日に公表すると発表しました。

損失額は最大で5,000億円以上にもなりそうで、2017年3月期の連結決算に大きな影響を与え、最終赤字は避けられそうにありません。

ところで、M&A (合併・買収)のニュースでは「のれん代」などの表記をよく見かけます。会計の用語で、貸借対照表(バランスシート)にも記載されています。また、「のれん償却」という言葉もあります。

この「のれん」とは何でしょうか。「のれん」を漢字で書くと「暖簾」です。商店の店先にかかっている、屋号などが記された布です。店の信用や格式のことも「暖簾」と言います。

会計の世界の「のれん」は、「純資産で表すことができない、ブランド力や製品開発力」などと定義されます。と言うと、商標権や特許権など、将来利益を生みそうな無形資産をイメージするかもしれませんが、正確には異なります。

M&Aの際には時間や労力が限られていることから、これらの無形資産も含めて「のれん」とする場合もあるのですが、本来は「のれん」と、これらの資産は別の処理をしなければなりません。

「のれん」は、M&Aなどの際の買収額と純資産額の差

「のれん」とは簡単に言えば、M&Aなどの際の買収額と純資産額の差です。一般的に、買収額は企業の純資産額よりも高くなります。

たとえば、純資産100億円の企業を150億円で買収したとすれば、のれん代は50億円です。買収額が純資産額よりも高くなるのは、知名度や技術力など、純資産以外の価値があると考えられるためです。ただし、その価値は絶対的なものではありません。M&Aが入札で行われる場合、金額がつり上がることもあります。

東芝は2006年10月にWHを買収しましたが、三菱重工業や米ゼネラル・エレクトリックなど日米4社の争奪戦の結果、買収額は約54億ドルに上昇、買収額とWHの純資産額との差額(のれん)は約3,500億円にもなりました。「高値づかみ」になると、その後、のれんの償却(後述します)が重くのしかかります。

逆に、グループ会社の完全子会社化などのM&Aでは、買収額が純資産額よりも安い場合があります。この場合の差額を「”負の”のれん」と言います。

多額の「のれん」を抱えている企業は、一気に損失が出るおそれも

M&Aなどの際の、買収額と純資産額の差である「のれん」は、バランスシート上では無形固定資産として計上します。と言うと、保有しているだけで将来何か利益を生みそうな印象を受けますが、前述したように、「のれん」と、商標権や特許権などの資産は別のものです。あくまで数字上の差額にすぎません。

日本の会計基準では「のれん」は買収コストの一つという考え方で、20年間で均等に償却していきます。「のれん」を償却するのは日米欧で日本だけです。国際会計基準(IFRS)では、「のれん」は計上しません。買収先の減損テストを毎年行い、収益力が低下すれば一括で減損処理します。

その意味では、国際会計基準を採用している企業であれば、のれんを償却する必要がないため、数字の上では利益は減りません。会計上のテクニックを使って、減損処理を先延ばしにすることもできます。

東芝は早くから原子力事業の不振が指摘されていましたが、同社はそれを認めず、減損処理を行ってきませんでした。2016年4月にようやく、WHグループの約2,600億円の減損を行うことを発表しました。

冒頭のニュースは、今回、WHの子会社であるS&Wの巨額の「のれん」も計上、さらに減損になる可能性が大きいということです。

M&Aが一般的になるにつれ、「のれん」を抱えている企業が増えています。資産規模に比べて多額の「のれん」がある場合、一気に巨額の損失が出る懸念もあり注意が必要です。

 

下原 一晃