「プロジェクトX」とイノベーション
最後に日本のイノベーションについて考えてみます。どうも日本人のイノベーション観に決定的な影響を与えているのは「プロジェクトX」だという気がします。
NHK総合テレビにて2000年から2005年まで放送された「プロジェクトX」は、開発プロジェクトなどが直面した難問を、技術者を中心に血のにじむような努力の末、克服するドキュメンタリーでした。
ただ、現在のイノベーションは、血のにじむような努力は前提としても、その中核にあるのは「気づき」だと多くの人が指摘しています。誰も気づかなかったカテゴリーや、複数の市場を統合してしまうような、誰も思いもつかない技術。
この「気づき」というのは、誰かが気づいてしまえば結構マネしやすいのですが、そんなに簡単に気づけるものではありません。ここで、また唐突に連想してしまうのが“突然変異“の概念です。現代のイノベーションは突然変異に似ている気がします。
生物学の世界では、突然変異は遺伝子や細胞のコピーミスから生じるといわれています。この「イノベーション=突然変異」という、こじつけ話を続けると、結局のところ日本の同調圧力はコピーミスを許しません。正確無比にコピーすることこそが日本の真骨頂ですから。
いずれにしろ、「プロジェクトX」に代表される日本のイノベーション観は、階段を一歩一歩あがっていくような漸進的な印象がどうしても強い。世界との乖離があるのかもしれません。
さて、どうすれば変われるのか。やはり、地道に価値観の異なる人の意見にも耳を傾けるところからでしょうか。気の遠くなるような話ですが。
榎本 洋