「企業博物館」は企業分析で重要な情報源

私はアナリストという仕事柄、「外部から企業を見て、その企業がどんな会社か」を常に考えています。

アナリストの分析というのは数字ばかりのような印象があるかもしれませんが、その企業が「どこに向かおうとしているのか」を見るためにも、「どのような過去をたどって、現在ここにいるのか」という定性的な情報はしっかりおさえなくてはいけません。

その情報源はいくつもありますが、そのうちの1つに、「企業博物館」というものがあり、重宝しています。

「企業博物館」を運営する企業は強みを持っている可能性が高い

「企業博物館」は文字通り、民間企業が自社の事業を紹介するために運営する博物館のことです(本業とは関係なく収集した美術品を展示する美術館は、ここでは対象としません)。

すべてに当てはまるとまでは言いませんが、次にあげる理由から、「企業博物館」を運営している企業は、何かしらの強みを持っている可能性が高いと考えています。

  • 費用をかけて(たとえ赤字であっても)、事業の歴史や想いなど、人に伝えたいものがあることをきちんと理解しており、自社の競争力の源泉を正確に認識している企業である可能性が高い。
  • 自社の事業だけでなく、業界が発展することを考えて「企業博物館」を運営しているケースが多く、業界における強い存在感があることを意味している。
  • 外部の人に伝えようとするプロセスを通じて、社内でも歴史や事業への想いの共有が進んでおり、その結果、強い組織になっていることが多い。

さらに、「企業博物館」の運営を通じて、企業そのものや、企業が展開する事業に対するファンが増え、事業展開にプラスの効果を及ぼすことも考えられます。

神戸にある「企業博物館」4選

そこで今回は、出張に合わせて神戸で見て回った企業博物館を4件ご紹介いたします(写真は全て筆者撮影)。

竹中大工道具館(公式サイトはこちら

竹中工務店(非上場)は、大阪の陣の少し前の1610年に織田信長の元家臣が創業したという400年以上の歴史を持つ建設会社です。14代竹中藤右衛門が神戸に進出した1899年が創立年とされ、最初に本社を置いた神戸で、建築文化を支えてきた大工道具にフォーカスした博物館を運営しています。

創業時の事業が寺社仏閣の造営ということもあり、唐招提寺金堂の組物の実物大模型が収められるなど、木材という巨大な材料と細かい匠の技の間を取り持つ大工道具への敬意を随所に感じさせる展示となっています。400年の重みを大工道具に込めて伝えているように感じます。


UCCコーヒー博物館(公式サイトはこちら

UCC上島珈琲(非上場)は、上島忠雄氏が1933年に個人商店として創業しました。その10年後には、太平洋戦争によりコーヒー豆の輸入が途絶えるなど、存続の危機に瀕しますが、戦後にいち早くコーヒーの取り扱いを復活させ、1969年には世界初の缶コーヒーを販売するなど、日本のコーヒー文化を創ってきました。

コーヒー業界に長く貢献してきた企業として、日本で唯一と自負するコーヒー博物館では、コーヒー豆の生産からカップに入れて飲むまでを、丁寧に説明しています。飲み比べの試飲もできます。


アシックススポーツミュージアム(公式サイトはこちら

アシックス(7936)の歴史は、鬼塚喜八郎が戦後間もなく創業した鬼塚商会によるバスケットシューズの製造販売から始まります。「オニツカタイガー」を主力ブランドとして成長した後、1977年に、スポーツネットのジィティオ、野球ストッキングのジェレンクとの3社合併によって誕生したのが、現在のアシックスです。

「オニツカタイガー」の頃より、アスリートや監督に直接意見を聞き、シューズの改良を進めながら成長してきたのがアシックスの特徴です。そのため、数多くの有名選手のシューズが展示されていて、アスリートからの信頼感の高さがうかがえます(北海道日本ハムファイターズの大谷祥平選手や、広島東洋カープの丸佳浩選手のシューズもありました)。

また、別のフロアには、100m走の速度や野球の160kmの球速を感じることができるアトラクションがあり、アスリートの身体能力のすごさが体感できます。


カワサキワールド(公式サイトはこちら

川崎重工(7012)が2006年に開設した「企業博物館」で、神戸海洋博物館の内部にあります。なお、白い鉄骨の屋根が特徴の神戸海洋博物館の建物も川崎重工の作品です。

カワサキワールドの展示は、創業の歴史の紹介から始まります。薩摩出身の創業者、川崎正蔵氏は、明治時代初期に東京・築地と兵庫の2カ所に造船所を設立していましたが、払い下げを受けた官営兵庫造船所に集約し、川崎造船所とします。

その後、株式会社化した際に、松方正義内閣総理大臣の三男の松方幸次郎氏を初代社長とし、造船以外の分野にも進出し、総合エンジニアリングメーカーとしての基礎を築きました。

歴代のモーターサイクル、新幹線車両、ヘリコプターの現物など、川崎重工製のいろいろな種類の乗り物が展示されていて、乗り物好きにはたまらないかと思います。

「企業博物館」では思わぬ発見ができるかも

今回は神戸の企業博物館を紹介しましたが、神戸以外でも「企業博物館」は数多くあります。私の経験では、「企業博物館」では思わぬ発見があることも多く、狙って訪れるのもよし、たまたま訪れた地で見かけたので寄ってみるのもよし、ぜひ足を運んでみたいものです。

 

藤野 敬太