自社株買いとは企業が発行した株式を自社で買い取ること

日本電信電話(以下、NTT)(9432)は2016年12月12日、2017年6月末までに1,500億円を上限とする自社株買いの枠を設定したと発表しました。日本電産(6594)も12月20日、2017年1月26日を期限とする自社株買いの上限を240億円から500億円に引き上げると発表しました。いずれの銘柄も、発表後は買い気配となりました。

このように、企業が自社株買いを行うというニュースを聞く機会が増えています。NTTや日本電産は規模も大きいですが、12月17日に自社株買いを取得すると発表した日医工(4541)は上限2億円、12月27日に自社株買いを発表したトーエル(3361)は上限3億8,430万円と、数億円規模の自社株買いも行われています。

自社株買いは、企業が発行した株式を自社で買い取ることを言います。というと「企業が、自分の会社の株の買い注文を出して、株価をつり上げること?」と思う人がいるかもしれませんが、それは誤解です。

自社株買いの手法には、市場での買い付け、公開買い付け、相対取引での買い付けなどがあります。公開買い付けや相対取引での買い付けは、事前に金額や株式の数が決められます。市場での買い付けについても、相場操縦や相場釘付けなどの行為は禁止されており、買い付け方法についても順守すべき細かなルールが定められています。これに違反した場合は過料などが科せられます。

企業によっては、株価に影響を与えないために、立会外取引を選ぶところもあります。ちなみに、NTTは今回、株式市場から買い付ける予定ですが、昨年6月に行った自社株買いでは、おもに政府保有株を対象として買い付けを行っています。

自社株買いを行うとなぜ株価が上がるのか

「相場操縦をしないというが、一般的に、自社株買いを行うと株価が上がる。なぜか」と感じる人もいるでしょう。ポイントは、自社株買いの目的の一つが「B/S(貸借対照表)上の資本を減らすこと」である点です。

企業は、自社株買いした株式をそのまま保有することができます(金庫株と言います)。金庫株は株式交換によるM&A(合併・買収)などに使われます。一方、当面の用途がなければ、通常は買い付けた株式は「消却」されます。その名のとおり、消却されるとその株式は市場からなくなります。その後、流通することはありません。発行済み株式数も減少します。

ただし、金庫株として保有する場合でも、自社株買いした株式は貸借対照表上の資本には計上しません。つまり、自社株買いを行うと資本が減ります。また、金庫株にする場合でも、発行済み株式総数から差し引かれます。

発行済み株式数が減少すると、1株あたり純利益(EPS)や1株あたり純資産(BPS)が向上します。また、自己資本利益率(ROE)などの資本効率も改善します。これらにより、それに見合った株価の上昇が期待されるわけです。

自社株買いが活発な企業の株価は市場平均を上回る

一般的に、自社株買いを行うと株価が上昇することから、「自社株買いは株主への利益還元」という性格もあります。

「同じだけ配当したほうが手っ取り早いのではないか」と思うかもしれませんが、配当は「配当性向」の目安を示す必要があり、投資家へのコミットメント(約束)と捉えられがちです。無配が続くと経営者や取締役の選任などにも影響が及びます。

自社株買いであれば配当のように定期的に行う必要がありません。また、投資家にとって、配当金にはそのつど税金がかかりますが、株価が上昇しても、売却しなければ税金はかかりません。

コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の導入などをきっかけに、株主還元を強化する企業が増えています。最近では、「配当性向」に加えて、純利益に対する自社株買いと配当額の割合である「総還元性向」を公表する企業もあります。

自社株買いが活発な企業の株価は市場平均を上回る傾向があるとされます。「S&P日本500自社株買い指数」といった指数もあります。自社株買い比率が高い上位50銘柄のパフォーマンスを測定するように設計されているそうです。どんな銘柄で構成されているのか、興味のある人は、見てみるのも面白いでしょう。

 

下原 一晃