マーケットサマリー
インド株式市場は2021年5月以降、新型コロナウイルスの新規感染者数の大幅減少と景気回復期待の高まりを背景に上昇を続けている。一方、国債市場は、インフレ率が高水準で推移する中、5月下旬から軟調な展開(利回りは上昇)となっている(8月31日現在)。
新型コロナウイルス感染症の渦中にあっても、世界の大半の株式市場は2020年3月以来右肩上がりを続けている。しかし、上昇の勢いの強さで現在のインド市場の右に出る市場はあまりないだろう。
米ドルベースで見ると、MSCIインド指数は昨年3月末比でほぼ2倍となり、MSCI新興国市場指数を約50%上回り、さらに米S&P500指数でさえもアウトパフォームしている。
また、インド株式の中で見ると、最近は小型株が大型株を大きくアウトパフォームしていることがわかる。インド株式を時価総額別に見ると、小型株は中型株を15%程度アウトパフォームしており、さらに中型株は大型株を同程度アウトパフォームしている(図表1)。
一部の市場関係者は、小型株人気の理由として株式市場に参加する個人投資家の増加を挙げている。確かに、インド・ナショナル証券取引所(NSE)がまとめた2020年度(2020年4月-2021年3月)の株式売買高の投資部門別比率では、個人投資家が前年度比6ポイント増の45%となっている。この数字は個人部門の過剰な楽観論を示唆しているのだろうか。
大型株に対するバリュエーションの改善
2020年3月のコロナショックによるパニック売りの後、インドの小型株は大型株に対して相当な勢いでアウトパフォーマンスを続けている。小型株ほどではないが、中型株も大型株に対して同様の傾向を維持している。
しかし、一部の市場関係者は、現在の株高の相当部分が個人投資家の買い支えによるものであり、いずれ市場の流れは逆転すると警戒感を持ち始めている。大型株と比較して小型株が実際に買われ過ぎたのであれば、そうした市場の逆転は起こり得るだろう。買われ過ぎの有無を把握するには、大型株に比べて小型株のバリュエーションが具体的にどこまで上昇しているかを知る必要がある。
そこで、当社では株価の推移を2020年から5年遡って調べてみた。その結果、2020年以前の小型株は大型株に対するPER(株価収益率)プレミアムに密接に沿って変動していたことがわかった(図表2)。つまり、2020年以前の小型株の価格は、ほとんどの場合、個人投資家が選ぶ上場企業の業績への期待と不安を反映して上下に動いてきたわけだ。
2020年に入ると、新型コロナウイルス感染の拡大で、金融指標は一貫性を欠く動きに転じた。しかし、同年11月以降、大型株に対する小型株のPERプレミアムは急激に下がり続ける一方、株価は新高値を更新し続けている。小型株のPERプレミアムは現在、5年平均の21%を下回る17%となっている。言い換えれば、大型株と比較して小型株が買われ過ぎているという裏付けはないということだ。中型株についても、小型株ほど明白ではないが、同じことが言える(図表3)。
大型株に対する収益性の改善
上述の通り、バリュエーションの推移を通して、小型株の大型株に対する最近のアウトパフォーマンスが不合理なものではないことが実証された。
次に収益性を検討してみよう。図表4は、自己資本利益率(ROE)の推移で、新型コロナウイルスのパンデミックが勢いを増す中で、大型株に比べると小型株と中型株のほうがずっと大きな打撃を受けたことを示している。しかし、その後の回復過程においては、小型株と中型株が大型株を急速に追い上げたことが一目瞭然である。
図表5は資本(自己資本+有利子負債)利益率(ROC)の推移を示しているが、収益性の面で小型株と中型株の双方がここ数ヶ月、大型株を上回っていることがわかる。これは小型株のアウトパフォーマンスが合理的であることを示すさらなる証と言えよう。
株式市場
5月以降は新型コロナウイルスの感染者数減少を背景に上昇
インド株式市場は、2021年2月下旬から4月にかけて、インド国内における新型コロナウイルスの感染急拡大と経済活動規制の強化を受けて下落した。その後、5月以降は、新規感染者数が減少に転じ、ワクチン接種が加速、経済活動の規制緩和を背景に景気回復期待が高まる中で上昇し、最高値を更新し続けている(8月31日現在)。図表6参照。
HSBC投信の株式運用戦略
インド株式市場は、当面は世界および国内の新型コロナウイルスの感染状況、ワクチン普及状況の影響を受けることが考えられる。
当社は中長期的にインド株式市場に対する強気の見方を維持している。インド経済の成長ポテンシャルは高く、構造改革の進展から、長期的に成長率は高まると見られている。与党インド人民党(BJP)が安定した政治基盤のもとで高成長・構造改革路線を継続すると見込まれることも、株式市場にとり強力なサポート要因となる。
インド株式の運用では、持続的な収益成長性を有しながらバリュエーションに割安感のある銘柄を選別する。業種別には金融と不動産を選好し、生活必需品には慎重なスタンスをとっている。またインフラ関連銘柄は、モディ政権が推進するインフラ投資計画の恩恵を受けると見込まれる。
債券市場
5月下旬から売り優勢の展開
インド国債市場は、2021年5月下旬から軟調な展開(利回りは上昇)が続いている。インド準備銀行(中央銀行)が公開市場操作を通じた国債買入れを続けていることは市場のサポート要因となっているものの、高水準のインフレ率が債券市場の重しとなっている(8月31日現在)。直近7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+5.6%と中央銀行のインフレ目標圏(2~6%)の上限に近い水準にある(図表7)。
HSBC投信の債券運用戦略
インド債券市場は、グローバル投資家にとり良好な投資機会を提供している。新型コロナウイルスの感染が収束し経済活動が正常化してくれば、インド経済の優位性が再び注目されよう。インド国債の相対的に高い利回り水準にも妙味がある。
インド債券の運用においては、引き続きインドルピー建国債に重点を置いて投資を行っている。また、中期ゾーンのインドルピー建社債を選好している。一方、米ドル建インド債券は、米国長期金利の動向を注視しつつ、慎重な姿勢を維持する。
為替市場
インドルピーは足元では対米ドル、対円で反発
インドルピーは対米ドル、対円で、6月から7月半ばにかけて、米国の利上げ前倒し観測などを背景としたリスクオフの流れの中で下落したが、その後は反発している(8月31日現在)。インドにおける新型コロナウイルスの新規感染者数の大幅減と景気回復期待の高まりがインドルピーに追い風となっている(図表8)。
インドルピー相場は、長期的には、相対的に良好な経済ファンダメンタルズや高い金利水準、潤沢な外貨準備高などが支援材料となり、堅調な展開が予想される。