本記事の3つのポイント
- 制裁によって苦境に立たされたファーウェイが新しい道を模索し始めている
- 頼みの基地局ビジネスもファーウェイ外しが進むほか、中国国内でも思ったほど導入が進展していないのが実情
- 今後はサーバーやデータセンターなどのエンタープライズ事業、電動車事業、そして自社OS事業に活路を見出すことになりそう
米中の関係悪化が拡大した2019年と2020年、ファーウェイ(広東省深セン市)は2度にわたって米国から制裁措置を受けた。競合社のZTE(中興通訊、深セン市)は罰金と経営層の刷新によって米国との和解の道を選んだが、ファーウェイは米国との徹底抗戦を選んだ。19年は厳しい制裁措置を乗り越え、かえって社内が一致団結した効果もあって、結果的に業績は落ちるどころか拡大した。このことが米国の逆鱗に触れ、20年はさらに厳しい制裁措置が下された。
これは、TSMCがファーウェイのスマホ用アプリケーションプロセッサー(AP)を受託生産することを禁止するもので、ファーウェイにとってはスマホの心臓部品を取り上げられてしまった。さらに、5Gスマホ用チップを他社から調達する道も閉ざされ、20年冬からファーウェイのスマホ出荷は急降下を始めた。21年7月末には延期していたフラッグシップ最新機「P50」をなんとか発表するが、5G版は20年にTSMCに駆け込み発注して確保したAP「Kirin9000」が1000万個しかないものとみられる。米クアルコム(Qualcomm)からもAP「Snapdragon888」を調達したが、これでは4G版の「P50」しか作れない。
300ドルスマホはOVXの餌食に
「いかなる圧力にも屈しない」という姿勢のファーウェイだったが、スマホ事業は今までの計画どおりにいかなくなってしまった。ファーウェイのスマホ出荷台数は、19年がピークの2.2億台。20年は3億台を視野に入れていたが、制裁効果により1.9億台へと3000万台の減少になった。チップ供給が受けられなくなった21年は4000万台へと、1.5億台の超大幅な落ち込みが予測される。これは中国の新興スマホメーカーのvivo(世界5位)の年間出荷台数に相当する。
この落ち込み分の1.5億台は、トップスマホメーカーらによる食い合いとなっている。フラッグシップ級ハイエンド機(富裕層向け)は米アップルのiPhone 12 proシリーズなどに取り込まれたもようだ。さらに、ローエンド~ミドルクラス分野はアンドロイドOSのスマホ陣営が群がる。特に300ドルあたりの機種(Novaシリーズなど)はファーウェイとグループ会社だったオナー(honor、栄燿)ブランドの独壇場で、中国市場においてはシェア6割、残り4割をOVX(オッポ、ビーボ、シャオミー)と他社が奪い合っているという状況だった。21年はこのセグメントでOVXが激しい縄張り争いを展開している。
霧がかった基地局ビジネス
スマホ事業の落ち込みをカバーするには、2番目に大きな事業セグメントの通信基地局設備をテコ入れするのが最も効果が大きい。しかし、これもあやしい雲行きになっている。ファイブアイズ(米英などアングロサクソン系の英語圏5カ国による機密情報共有の枠組み)の5カ国による5G通信設備でのファーウェイ外しが確固たるものとなった。6月中旬に開かれたG7サミットでも、参加国は米国主導の中国包囲網シフトを強く意識した首脳宣言を発表している。海外の5G基地局市場では、ファーウェイが19年の制裁後に考えていたようなシェア挽回がうまく進んでいない。
その落ち込み分は、「中国市場で5G基地局の導入が加速する起爆剤になる」と捉えている人が多いのだが、実は意外にも足元ではそうなっていない。一世代前の4G通信基地局の導入の時は、初年度に14万基、2年目に83万基、15年に104万基とハイペースで導入が進行した。今注目を集めている5G通信は世界的にも特に中国で導入が増えているが、初年度は13万基、2年目(昨年の20年)は64万基と、4Gの時よりやや少ない。
しかし、問題なのは3年目の今年(21年)だ。1〜6月の半年で19万基しか導入されていない。これでは21年は年間60万基かそこらがいいところだろう。4Gの時の3年目は前年比25%増だったが、今回の5Gの3年目は横ばい水準に終わってしまうかもしれない。そうなると、基地局設備市場の大半を持つファーウェイへの業績貢献はあまり期待ができない。
法人向けビジネスを30%増に
ファーウェイは残りの事業セグメントのエンタープライズ(法人向け)事業分野のテコ入れに奔走している。20年の業績ベースでは、ファーウェイの全売上高の11%しかないが、21年はこれを30%増にすると正式発表している。どう転ぶかわからないスマホと基地局設備事業については目標値をまったく言わないが、エンタープライズだけは拡大のためにあの手この手を打ち出している。
法人向け事業の現在の中核はサーバー事業で、アフターコロナとデジタル社会の到来で加速しているデータセンター市場の追い風に乗っている分野といえる。ファーウェイはサーバーも生産しているし、データセンターも運営している。中国政府も「新基建(デジタルインフラ建設)」投資に5年で3.5兆元(約60兆円)の投資計画を発表しており、この分野は将来的な稼ぎ頭に育つのは間違いないだろう。
さらに、スマートカー分野への注力も加速している。21年4月には重慶市の自動車メーカー(小康集団)と共同生産した「セレス(賽力斯) 華為智選SF5」」を発売した。レンジエクステンダー式のEV(電気自動車)で、価格は約25万元(約410万円)。ファーウェイのブランド力の効果で販売を増やしている。次は北京汽車グループとのスマートカーを共同開発し、これもまもなく発売を予定している。
米国制裁が始まった19年にファーウェイのレン(任正非)会長は、第二次大戦の時にどんなにボロボロになっても帰還したソ連の戦闘機「イリューシン2型機」の写真を使って、苦境に耐えた後でファーウェイは必ず復活するというメッセージをよく発していた。この苦境に耐えている状況は、この話題がメディアでよく紹介されていた19年当時というよりはまさに今なのだろう。
あれからたった2年で独自OS「ハーモニー(Harmony、鴻蒙)」を完成させ、今年6月から続々とスマホ機種への導入を始めている。すでに発売していた「Mate40 Pro」や「Mate X2」、「Mate40E」、「nova8 Pro」などでもOS切り替えのためのダウンロードサービスが始まった。これこそが業績低下に喘いでいるファーウェイの反撃の礎となるのではないだろうか。
電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善
まとめにかえて
スマートフォン市場での存在感は低下しましたが、ハイテク産業におけるファーウエイの動きはまだまだ注目の的です。半導体開発・設計の分野でも積極的な人材活用を進めており、中国国内で先端半導体を調達できるよう、プロセス開発の分野にも乗り出しているとの指摘もあります。
電子デバイス産業新聞