SmartNews社の件は何が問題だったのか
では、厚生労働省も適法としている行為で、渋谷区もバックアップしていた「5000人への職域接種」になぜ批判が集まってしまったのでしょうか。私見ですが、鈴木健CEOの「炊き出しの精神」発言が迂闊だったように思います。
「炊き出し」という言葉は「困窮した状況下にある多数の人を対象として、料理やその他の食料を無償提供する一連の行動」を意味します。
スマートニュース社が自費で調達したワクチンを無償提供する場合はかろうじて「炊き出し」に当てはまるかもしれませんが、ワクチンは公費での接種となり、企業側の費用負担はありません。企業が負担するのは「会場レンタルにかかる費用」です。
したがって、スマートニュース社が行ったのは「ワクチンを打つための場所を自費で準備した」というのが正確な表現でしょう。また、「炊き出し」という言葉には、渋谷区の近隣住民を「困窮した状況下にある多数の人」と見なす「上から目線」がぬぐい切れません。
それ以外の要素は「発表のタイミングが悪かったせい」と言ってよいと思いますが、「良いことをしている」という確信があるときほど、迂闊な言葉遣いをしてしまうことがあります。この言葉の選択ミスについては、我々も油断すると陥る可能性があるものです。本件を反面教師として、私自身もより慎重に言葉を選びたいと思います。
参考資料
- スマートニュース株式会社「スマートニュース、新型コロナワクチンの職域接種を7月2日に開始へ 従業員や関係者と同時に渋谷区内の住民や就業者などへ接種を実施」
- 渋谷区「スマートニュース株式会社と『新型コロナウイルスワクチン接種に関する連携協定』を締結しました」
- ソフトバンクグループ株式会社「ソフトバンクグループ、25万人規模の新型コロナウイルスワクチン接種を実施」
- トヨタ自動車株式会社「職域接種におけるコロナウイルスワクチンの誤接種について」
- 厚生労働省「職域接種に関するお知らせ」
- 厚生労働省「職域接種に関する Q&A(令和3年7月8日版)」
- 厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A Q.接種費用はかかるのですか。」
當瀬 ななみ