「富裕層ビジネス」とは?
「富裕層ビジネス」というキーワードでネット検索してみると、様々な取り組みやサービスが富裕層と言われる人たちに提供されていることが分かります。富裕層に関する定義は色々ありますが、基本的には、自由に使えるお金が多くある人たち向けに商品やサービスを提供するのが「富裕層ビジネス」と言われているようです。
富裕層が求める商品やサービスと言っても、結局は個人の好みや考え方により各人のニーズは大きく異なるので一概には説明できませんが、たとえば、富裕層向けサロンを設けている大手旅行代理店、超高級輸入車のみに特化した販売代理店等は分かりやすい例として挙げられます。もちろん、そのような商品やサービスを好まない富裕層もいます。
富裕層ってどんな人?
筆者は仕事柄、巷で富裕層と言われる方々とお話する機会があります。そうした富裕層と言われる人たちには、富裕層になった理由が存在しています。
個人的に最も尊敬し、父親のように慕わせていただいている方は、一代で、それも短期間で世界的にも賞賛されるビジネスモデルを構築されました。また、由緒正しい武家のお家柄で、莫大な資産を承継しながらその価値の保全に奮闘されている方もいます。筆者と同い年の頭脳明晰な開業医は、プロ野球選手並みの年収を毎年稼いでおり、それが生涯にわたって持続可能な環境を作り上げています。
そのような富裕層が求める商品やサービスは各人各様ではありますが、「本物」を追及する姿勢は共通しています。さらに面白いのが、その姿勢を個人的に仕舞い込むのではなく、周りの人たちとシェアし、喜ばせようという気持ちが強い点も共通しています。本物を追求し、他人を喜ばせようという姿勢は、もしかすると経済的に成功するための十分条件なのかもしれません。
富裕層ビジネスを提供する側には何が必要?
富裕層相手にビジネスをしている人たちともご一緒する機会が多くあります。残念ながら「怪しいな」という人たちもいる一方で、「すごいな」「ワクワクするな」という方たちもいます。
後者の共通点を見つけるために考えをめぐらせていると、スイスの老舗プライベートバンクと同じ特徴、同じ価値観を紡ぎだせることが分かってきました。それは、ビジネスを提供する側も「自らが富裕層」または「富裕層に近い経済状態」であり、「経済的に安定している」ことです。
提供する側が少なくとも富裕層に近い経済状態にないと、富裕層が求める真のソリューションを肌感覚で理解できないということがまずあります。さらに、自分が提供するサービスや商品が、富裕層顧客にとって本当に必要なものなのか、役に立つものなのか、という目線が乏しくなり、自分にとって都合の良い認識をしてしまう傾向が避けられません。
つまり、商品・サービス提供側に「売らんかな」の姿勢が出てしまうと、提供側の創造力や行動力は途端に足かせをはめられてしまい、顧客に対して真に魅力的で責任感のある提案が難しくなるのだと考えられます。
「富裕層に近い経済状態にある」というのは、高年収が必須ということではなく、自分の現在の生活スタイル、今後の収支計画を鑑みて、今の状態でも心地良い均衡状態を形成していることだと、筆者は理解しています。
たとえば、既に十分な資産を持っている人(または承継する予定がある人)、自分や妻(または夫)が十分なキャッシュフロー生成能力を持ち経済的自由を手に入れている人なども「富裕層に近い経済状態にある」と言えます。もちろん、高年収であることを背景に、富裕層が選好する経験を先んじて行うことなどは、富裕層ビジネスでの当事者目線を持つ上で有益なのは間違いありません。
顧客と信頼関係を構築するには?
筆者はこれまで、大きな実績を出してきたビジネスマンの多くが、さらに多く稼ぎたいという呪縛から逃れられず、結果的に経済的自由を手に入れられないまま、心の安定を獲得できない例を沢山見てきました。
傍から見ると、とても経済的に恵まれているように見えるのですが、実は心に余裕のある富裕層になり切れないのが興味深い点です。そのような状態では、百戦錬磨の富裕層顧客と真の信頼関係を構築することは難しいでしょう。
富裕層顧客は、様々な企業からのアプローチや提案を受けている中、真に頼れるパートナーが不在で常に不安を抱えています。お金を使うことは簡単にできますが、守るにはかなりの知恵と労力が必要です。
国際政治情勢も予想とは全く違う展開となっています。また、代表的な資産運用ソリューションである不動産投資も、日本国内の人口減少を背景に今後は慎重にならざるを得ません。
過去の成功体験や前提条件があまり当てにならなくなっている今、富裕層顧客は「不安な時代」を迎えることになります。そのような中、顧客の不安を払拭し信頼されるパートナーがサービス提供側に増えることで、顧客に寄り添い目標追求のお手伝いをしながら、少子高齢化が進む日本の貴重な富を上手く次世代へ繋ぐ一助になると信じています。
小田嶋 康博