現在の日本の時価総額は、嵩上げされたGDPをも上回る
世界的に有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏は、株式時価総額増加率と名目GDP成長率は長期的には収斂する(近づいていく)と主張しています。これをバフェット指標といいます。
このセオリーに従うと、現在の日本株式市場の時価総額560兆円(2016年11月30日時点、日本取引所グループ調べ)は、やや割高ということになります。
というのは、内閣府が2016年12月8日に発表した2015年度の名目国内総生産(GDP)確報値は532.2兆円であるからです。ちなみに、この数字の算出には今回から研究開発費などが加算されたため、約20兆円が嵩上げされています。
もちろん、GDPとその国の時価総額は「長期的」に収斂するのであって、歴史的に常に一致していたわけではありません。よって、現在のオーバーシュート状態(行き過ぎた変動)がしばらく続く可能性は十分に考えられます。
また、政府は2020年頃をめどに名目GDPを600兆円に拡大するという目標を掲げており、それへの期待も一部、株価には反映されている可能性も考えられます。
GDPの大半は消費とサービス
さて、その日本のGDPですが、このうち約6割弱は個人消費が占めます。また、サービス産業については約7割を占めています。したがって、GDPの成長を考える時には製造業よりも非製造業の動向がより重要になると考えられます。
そうした観点で、今回は消費やサービスの足元の動向を示す統計を見てみたいと思います。
日銀の消費新指数は改善傾向
日本銀行が毎月発表している「消費活動指数」という統計をご存じでしょうか。
あまり耳慣れない指標だとお感じの方が多いかもしれませんが、それも無理はありません。実は、この指標は個人消費の動向をより正確に把握するために日銀が新たに開発し、今年5月から公表が開始された比較的歴史の浅い統計なのです。
日銀の新指標の特徴は、商業動態統計、特定サービス産業動態統計調査、自動車の業界データなど供給側の統計のみで作られていることにあります。なお、消費関連では総務省が約8,000世帯の標本調査をもとに「家計調査」を発表していますが、専門家からはサンプルが偏っているという批判があります。
実際、GDP確報値における消費動向に対して、消費活動指数は概ね一致しているのに対して、家計調査はややズレが生じる傾向が見られます。
では、2016年12月7日に発表された10月のデータを見てみましょう。季節調整済の実質ベースの消費活動指数(2010年=100)は104.0と、前月比では+0.7%上昇、前年同期比では+1%の上昇でした。10月のこの指数は、消費税の駆け込み需要があった2014年3月の108.8%に次ぐ高い水準となっています。
また、10月の前月比+0.7%の形態別変動の寄与度をみると、自動車などの耐久財が+0.1%、食品などの非耐久財が+0.3%、サービスが+0.4%となっており、サービスの寄与が大きいことが読み取れます(注:四捨五入のため合計は0.7%になっていません)。
経産省が発表しているサービス関連指標も堅調
消費活動指数ではサービスが好調なようですが、経済産業省が発表している特定サービス産業動態統計調査はどうか見てみましょう。
この統計は、以下の通り「対事業所サービス業」と「対個人サービス業」のそれぞれ10事業を対象としています。
- 対事業所サービス業:リース業、レンタル業、情報サービス業、広告業、クレジットカード業、エンジアリング業、インターネット付随サービス業、機械設計業、自動車賃貸業、環境計量証明業
- 対個人サービス業:ゴルフ場、ゴルフ練習場、ボウリング場、遊園地・テーマパーク、パチンコホール、葬儀業、結婚式場、外国語会話教室、フィットネスクラブ、学習塾
12月9日に発表された10月の速報値によると、10月の売上高は、対事業所サービス業では10業種中7業種が前年同期比で増加した一方、対個人サービス業では3業種しか増加していませんでした。つまり、足元のサービス産業はB2CよりもB2Bが比較的堅調ということになります。
まとめ
これらの指標を見て、皆さんはどうお感じになったでしょうか? B2Cのサービスがやや弱いことが気掛かりですが、日銀の消費活動指数を見る限り、消費の動向に対して過度な懸念は不要なようです。
バフェット指標に従うならば、現在の株式市場はやや過熱気味ということになりますが、いずれにせよ、GDPの大半を占める消費やサービスが今後も堅調に伸びていくのか、見極めが重要であると考えます。
和泉 美治