2021年6月19日にログミーFinance主催で行われた、第22回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナー 第2部・アイカ工業株式会社の講演の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:アイカ工業株式会社 執行役員 安全環境部担当 経営企画部長 酒井信禎 氏
元ファンドマネージャー/元ディーラー 坂本慎太郎(Bコミ) 氏
フィスコ マーケットレポーター 高井ひろえ 氏
第22回 個人投資家向けIRセミナー
酒井信禎氏(以下、酒井):みなさま、こんにちは。アイカ工業の酒井でございます。本日はお忙しい中、弊社の会社説明会にご参加いただき、誠にありがとうございます。ようやく緊急事態宣言の解除が決まり、出口が見えてきましたが、依然として不自由な生活を強いられていることと思います。
1日も早く、マスクのいらない日常が戻ることを期待しつつ、本日は短い時間ではございますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願いします。
はじめに
それでは、さっそく資料に沿ってプレゼンを始めます。まず、この2つのグラフをご覧ください。
左側のグラフは、過去10年の個人株主数と当期純利益の推移を示したもので、オレンジ色の折れ線が当期純利益を示しており、概ね右肩上がりで業績を伸ばしてきたことが見て取れるかと思います。
右側のグラフは、個人株主数と1株当たりの配当金の推移を示したもので、オレンジ色の折れ線が配当金を示しているのですが、こちらも12期連続で増配しており、2016年の記念配当を機に、配当性向50パーセントを目線に株主還元を進めています。
しかし、ご覧いただいているとおり、皮肉なことに、個人株主の数は業績を落とした2020年にいったん増えはしましたが、全体的には増えていません。10年前と比べてみても、依然として3割ほど少ないというのが現状です。
これは、ひとえに個人投資家向けIR不足が要因の1つであると反省しており、今回このような機会をいただいた次第です。少しでも、弊社への理解の参考になるところがあれば幸いです。本日は、どうぞよろしくお願いします。
会社概要
それでは、本題に入っていきます。最初に、アイカの会社概要からスタートします。会社の概要は、記載のとおりです。
創業して85年を迎える会社で、歴史を紐解くと、戦前、戦中はいろいろな事業を展開していました。創業当時は、自動車用の点火プラグを生産したり、漁船用のエンジンを生産したり、アメリカ向けにテーブルウェア、いわゆる食器を輸出していた時代もありました。その後、現在のような事業領域に落ち着いたのは、戦後昭和30年代に入ってからのことになります。
資料にも記載したように、当社は、もともと愛知化学工業という社名で、東証に上場している愛知時計電機からスピンアウトしてできた会社が前身です。1966年に、その愛知化学工業の頭文字をとって、「アイカ工業」という名称に変更しています。
事業の系譜①
会社概要のページにも記載しましたが、「化成品」と「建装建材」と呼んでいる領域で事業を展開しており、東証の業種分類は「化学」です。接着剤や樹脂というケミカルな領域で事業を創業し、転じて建装建材にも事業領域を広げ、化成品と建装建材という2つの事業を柱に持つ、非常にユニークな会社です。
事業の系譜②
まず、化成品という事業についてご説明します。あまり聞きなれない言葉かと思いますが、化成品とは、平たく言えば、接着剤や樹脂のことです。
創業以来、合板・木工用接着剤、建築土木用接着剤、工業用接着剤などの幅広い用途で事業を展開しており、その応用展開で、建物の外壁や床の仕上げ用の塗装材を用途とした事業を行ったり、自動車や電子材料といった非建築分野に使われる樹脂を事業化したりして、着実に事業領域を広げています。
事業の系譜③
続いて、建装建材事業です。こちらは、主に建築に使われる仕上げ材を事業としています。樹脂の会社が建材を手掛けるのは、一見すると飛躍した事業に転じたように思われるかもしれませんが、非常に深い関係があります。と言うのも、建装建材事業の中核商品である「化粧板」は、木材の板ではなく、特殊な紙に樹脂を浸み込ませて、それを何枚も積層しプレスしてできており、樹脂がないと作ることができない製品です。
その化粧板を皮切りに、住宅や非住宅の空間に使われる商材を一つひとつ増やしていき、今の建装建材事業が構成されていきました。
沿革
その結果、どのように成長していったのかを示したのがこちらのグラフです。ここ30年ほどの会社の売上と利益を、それぞれ青い棒グラフと赤い折れ線グラフで示しています。
参考までに、日本の新設着工統計の推移も示していますが、1980年代後半にピークアウトした新設着工は、その後徐々に減少していき、直近の新設着工はピーク時の半分にまで減少しています。
一方で、弊社の業績は1980年代以降、3つのステージにわけることができます。高度経済成長の波に乗って業績を伸ばした第一次成長期、その後にバブルがはじけて業績を落とし、再び成長軌道に乗った第二次成長期、また、リーマンショックで業績が再び悪化し、今度は海外に活路を見出して成長軌道に乗った第三次成長期です。
そして、コロナ禍でみたび業績が悪化し、今また会社の真価が問われています。弊社は、このように大きな経済不況のたびに業績を落としてきましたが、ご覧のとおり、そこから必ず這い上がって成長してきた会社だと言えます。
アイカの事業①
ここからは、アイカ工業の2つの事業領域について、もう少しご説明します。まず、化成品事業についてです。
化成品事業の多くの製品は、家具などの木材加工現場や、建築や土木の工事現場、そして、自動車や電子材料をはじめとする工業製品の製造工程や、日用品の製造工程において、幅広く使用されています。主力製品は、そのような場面で使われている各種接着剤や樹脂などです。
そして、「建設樹脂」という製品カテゴリーには、住宅などの外壁仕上げ材として使う塗り壁材や、工場や倉庫などの床に使う塗り床材、さらには、コンクリートなどで作られたトンネルや橋などの補修補強材といった製品があります。
また、「機能材料」という製品カテゴリーには、自動車や太陽光パネル向けのホットメルトという接着剤や、スマートフォンなどの電子機器向けUV硬化型樹脂、そして、化粧品向けの有機微粒子といった商品があります。
アイカの事業②
続いて建装建材事業についてのページです。こちらは文字どおり建築材料を扱う事業で、建物の壁材やインテリアの仕上げ材として、多彩な素材をラインナップしています。
商業施設やオフィスビル、保育園や学校などの教育・文化施設、駅や空港などの交通施設、医療・福祉施設、ホテル、倉庫や工場、そして、戸建ての住宅やマンションなど、ありとあらゆる建物で使われており、空間に彩りと機能を与えています。
主力商品を資料に写真で掲載しています。素材に近いものが多く、イメージがつきにくい商品もあるかと思いますので、次のページでは、具体的な空間写真をお見せしながら、弊社の製品がどのように使われているのかを説明します。
これもアイカ
こちらは、「グランスタ東京」という東京駅の地下通路、「ムスブ田町ステーションタワーN」というオフィスビル、「さくらがわ地域医療センター」という病院、そして、「大野台こども園」という育児施設の写真です。
壁面材やカウンターに弊社の製品が採用されています。トイレブースや洗面カウンターにも多く採用されており、写真のような、子どもの体格に合わせた小さなサイズの製品なども展開しています。
あれもアイカ
続いて、「シンガポール無印良品」や「ドトールコーヒーショップ アリオ上尾店」といった商業店舗、「KIARAリゾート&スパ浜名湖」という宿泊施設、そして「セキスイハイム近畿」の住宅モデルルームです。先ほどのスライドと同じように、弊社の製品は、建物の壁に非常に多く採用されています。また、店舗などの什器や家具の仕上げ材としても非常によく使用されています。
最近では、新しいタイプの内装に使う床材も開発し、販売を始めています。今まで「アイカ工業」という社名をご存じなかった方もたくさんいるかもしれませんが、このように、実は身近にあるさまざまな空間に存在していることを、この機会に知っていただけたら幸いです。
アイカの強み ~化成品~
ここからは、当社の強みについてご説明します。当社の化成品事業の強みは、一言で言うと、豊富な接着剤や樹脂と、用途に応じた高い樹脂合成技術を持っていることです。
あまり聞き慣れないかもしれませんが、工業用・繊維板用樹脂としては、フェノール樹脂やメラミン樹脂、建設樹脂としては、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂、そして、機能材料樹脂という特殊な樹脂を使っており、ホットメルト、シリコーン、UV硬化型樹脂などの技術を持っています。
さらに、これらのコア技術と開発を担っているR&Dセンターや、地産地消でタイムリーに供給できる国内外の生産拠点や販売網が、社会課題を解決する独創的な商品を生み出しており、化成品事業の強みを支えています。
アイカの強み ~建装建材~
一方、建装建材事業の強みは、高いデザイン力と機能性の融合です。本当は大理石や無垢の木材といった天然素材をふんだんに使いたいが、予算が高く、加工や工事は大変で、現代社会で快適に過ごそうと思うと、少々扱いにくい一面があります。また、天然素材の採掘や伐採などは環境破壊にも繋がりかねません。
弊社は、そのような天然素材を使わずに、精巧なデザインで本物そっくりに仕立て上げることが得意な会社であり、それがアイカのデザイン力の源泉にもなっています。
また、創業当時から培ってきた化学技術を活かし、さまざまな機能を商品に付加しています。表面に付着した特定ウイルスを99パーセント以上減少させる抗ウイルス建材などは、その一例です。
また、資料の右側に、キッチンの写真を掲載していますが、これは、弊社のデザインと機能が融合した、最も象徴的な空間です。キッチン収納の表面に使われているメラミン化粧板や、燃えにくい素材でできたキッチンパネル、そして、ワークトップに使われている「クオーツストーン」と呼ばれる高級人造石は、いずれも国内シェアナンバーワンを誇っている商品群です。
売上高・経常利益・当期純利益の推移
ここからは、弊社の財務情報についての説明です。このグラフは、過去5年間の業績と今期の業績予想です。2020年3月期までは、売上10期連続増収、営業利益・経常利益11期連続増益と好調でしたが、記載のとおり、2021年3月期は大幅減収減益という結果に終わりました。
要因は、ひとえにコロナ影響であり、上半期前年同期比でマイナス40パーセント落ち込んだことが大きく起因しているのですが、幸いにして、下半期からは業績の回復が見られ、下半期だけを見れば、営業利益・経常利益ともに過去最高でした。
今期の足元は、新型コロナウイルスが再び猛威を振るっているエリアもあり、予断を許さないところではありますが、前期下半期からの好調を概ね維持しており、順調に推移していけば、売上高2,000億円、経常利益214億円、当期純利益130億円を予想しています。
当期純利益・ROE・ROAの推移
当期純利益・ROE・ROAの推移です。成長戦略を描いて、業績をしっかりと伸ばして利益を稼ぎ、それを株主さまにしっかりと還元していくという基本方針のもと、ここ数年はROEで10パーセント前後、ROAで7パーセント前後の高い水準を維持しています。前期はこのように数字を落としてしまいましたが、今期については、まずはコロナ禍以前の数字まで戻していく方針です。
海外売上高・比率の推移
このグラフは、昨今の弊社業績をけん引している海外事業の推移です。海外売上高比率は、ここ5年ほどで30パーセント台から43パーセントまで上昇してきました。M&Aによる成長投資が大きなドライバーとなっています。
例えば、2019年3月期には、台湾や中国に事業基盤を持ち、ウレタン樹脂の高い合成技術を持ったEvermore社を買収しています。また、2020年3月期には、中国やタイに生産拠点を持ち、アジア全域で化粧板ビジネスを展開している、世界ナンバーワンブランドのWilsonart社のアジア部門を買収しています。
他にもシナジーが期待できる案件を、中国やタイ、ベトナムなどで実行しており、今期以降も引き続きM&Aに注力していく予定です。
売上構成
左側のグラフは、セグメント別売上構成表です。化成品と建装建材の事業規模は、ほぼ拮抗しています。製品別では、全体の約3分の1が接着剤で、メラミン化粧板、ボード、セラール、不燃建材といった建築の仕上げ材でだいたい3分の1、それ以外で約3分の1というような構成です。
右側のグラフは、地域別売上構成です。日本が全体の約6割、次いで中国、タイ、ベトナム、インドネシアといったアジアでの売上で構成されています。
アイカ10年ビジョン(2018/3期-2027/3期)
続いて、「アイカ10年ビジョン」という長期の経営計画、そして、今期から始まった中期3ヶ年計画、ならびに今期の事業計画についてご説明します。
4年ほど前に制定したアイカ10年ビジョンでは、創立90周年を迎える2027年3月期に 売上高3,000億円、経常利益300億円、ROE10パーセント以上、海外売上高比率45パーセント以上という目標を立てました。
化成品事業では、アジアのトップメーカーを目指しつつ、非建設分野で躍進していること、また、建装建材事業では、ありとあらゆる壁をおさえて、さまざまな空間をデザインし成長していることを、10年後のあるべき姿、ありたい姿として定義付けています。
アイカ10年ビジョンと新中期経営計画
現在は、アイカ10年ビジョンのほぼ中間地点に位置しており、第2次中期経営計画の1年目にあたります。コロナ禍によって、1年のビハインドを背負うことになりましたが、最終年度のゴール地点を下方修正することなく、成長志向で計画を加速させていきたいと考えています。
新中期経営計画 基本方針
その中期経営計画の基本方針が、「成長事業の創出・拡大」「利益基盤の強化」「経営基盤の強化」の3つです。それぞれの方針について、次のページで説明します。
①成長事業の創出・拡大
まずは、「成長事業の創出・拡大」です。社会課題を解決する独創的な商品を「Aica Solution」、略して「AS商品」と呼んでおり、日本国内においては、そのAS商品の拡充を成長ドライバーに位置付けています。
例えば、ウイルス・抗菌対策の重要性が増しているこの時代にふさわしい抗ウイルス化粧板や、 施工が簡易で、工事現場の職人不足を助ける粘着剤付化粧フィルム、そして、輸送コスト削減にも寄与する軽量化した化粧パネルや、省エネルギーに貢献する外断熱工法、また、老朽化するトンネルや橋といった社会インフラの長寿命化を手助けする補修補強材などを、AS商品として位置付けています。
右側の図のように、大きな成長ドライバーとして、海外と非建設分野も位置付けています。前中期経営計画で築き上げたグローバルなプラットフォームのもとで、中国をはじめとしたアジアの経済成長を事業拡大につなげていきます。また、機能材料事業が有する樹脂技術を、自動車や電子材料などの非建築分野に振り分けて、成長を加速させていく計画です。
②利益基盤の強化
2つ目の「利益基盤の強化」については、攻めと守りの両面でのアプローチを考えています。攻めは、売上を最大限伸ばして増販益を確保すること、守りは、デジタルトランスフォーメーションの活用や生産性を高めたコストダウンなどにより、コストアップ要因を最大限打ち消すことです。この攻めと守りにより、最終年度には235億円の営業利益を創出する計画です。
③経営基盤の強化
3つ目は、「経営基盤の強化」です。昨今では、社会のサステナビリティが重視され、財務が企業価値のすべてではない時代が到来しています。今回の中期経営計画は、財務と非財務を統合した計画となっているため、マテリアリティも大幅に刷新しています。
例えば、気候変動対応として、温室効果ガス排出量の具体的な削減目標を設定しつつ、2050年のカーボンニュートラルな社会の実現に向けたロードマップの策定にも着手します。それ以外にも、多様な人材が活躍できる職場環境の整備や、デジタル技術を活用した生産性の改善、50社を超えるグループガバナンスの強化、そして、お客さまの満足度向上に貢献する質の高い商品サービスの提供に取り組んでいきます。
新中期経営計画の財務目標と投資計画
この3つの方針のもとで、ROE10パーセント、経常利益240億円、売上高2,400億円を、第2次中期経営計画の財務目標として掲げています。もちろん、その目標を推進するエンジンとして、ここに記載した先行投資や事業投資や研究投資も、並行して進めていく予定です。
2022/3期 財務計画
以上が、アイカの10年ビジョンおよび中期経営計画に沿った今期の事業計画です。計画数値としては、概ねコロナ禍以前、つまり前々年と同水準もしくはそれ以上を設定しており、計画どおりに推移すれば、売上高・営業利益・経常利益ともに過去最高となる予定です。
なお、実際の業績は、新型コロナウイルスの感染状況や、国内外の景気動向、為替や原材料の推移などのさまざまな要因によって変動する可能性があります。今後、業績見通しに関して、開示すべき重要な事象などが生じた場合は速やかに公表します。
2022/3期 計画(国内事業方策)①
今期の計画を遂行する上で、重要な役割を担っている製品をいくつか紹介します。まず、化成品セグメントでは、気候変動問題や脱炭素社会に貢献する商品として、外断熱工法の「パッシブウォール」に注力します。躯体の外側に断熱材を設けることで、省エネや建物の長寿命化につながる商品です。
コロナ禍の巣ごもりで、ネットショッピングの需要が増え、物流業界では大型倉庫の建設や改修が相次いでいます。いろいろなハイテク機器が走り回る倉庫の中では、静電気で火災が起きるリスクがあり、それを低減する帯電防止性能を備えた塗り床材の販売も強化していきます。
また、橋やトンネルといった社会インフラの老朽化が、近年大きな社会問題となっており、樹脂をコンクリートの表面に塗ることで剥がれ落ちることを防ぐ工法を拡販して進めていきたいと考えています。
2022/3期 計画(国内事業方策)②
建装建材セグメントでは、引き続き、特定ウイルスを減少させる抗ウイルス建材に注力していきます。「グッドデザイン賞」や「iFデザイン賞」を受賞するなど、世界からも注目を浴びている商品です。
テーブルや家具、内装の壁などによく使われるメラミン化粧板には、傷がつきにくいという大きな特徴があるのですが、専用の工具や接着剤が必要なため、慣れた職人でないと加工や施工が難しいという一面もあります。これに対し、はさみやカッターナイフで簡単にカットでき、裏面に粘着剤が付いているため簡単に貼ることができる粘着剤付メラミンシートを拡販し、簡易施工に対応していきます。
ユニバーサルデザインにも注力します。保育施設の増設に対しては、子どもの体格に合わせたサイズの「キッズ洗面セット」や、車いすに乗ったまま使える医療福祉向け洗面カウンターなどの、ユニバーサルデザインの販売にも力を入れていきます。
2022/3期 計画(海外事業方策)
海外事業の今期のトピックスです。先ほどの、エリア別の売上高のスライドでも少し触れましたが、弊社にとって、中国は最重要市場の1つです。ただし、近年は非常に環境規制が厳しくなっており、ビジネスリスクと隣り合わせの一面もあります。
一方で、環境にやさしい製品が市場ニーズにフィットすることで、大きなビジネスチャンスを生み出しているのも事実です。例えば、弊社の中国の事業会社では、フェノール樹脂を製造していますが、その樹脂と竹材を組み合わせた建材の需要が急激に増えています。
と言うのも、竹は木と比較して短期間で成長するため、「環境にやさしい建材」と言われています。中国政府は、環境にやさしい商品を後押ししており、竹を細かく細断した後に弊社のフェノール樹脂を浸み込ませた人工木材を作り出し、スライドに掲載したような空港の天井材や遊歩道などに使っています。
フェノール樹脂の将来性を見据えて、中国の竹の産地である福建省に新会社を設立しました。この中期経営計画期間中に、総額で約100億円の設備投資を計画しているところです。
株価情報
最後に、株価と配当関連についてです。あらためて、弊社の株価情報です。証券コードは4206、単元株式数は100株です。現在の株価の水準は、昨日の終値でちょうど3,900円です。
株価推移
株価の推移です。長期的なトレンドで見ると、当社の株価は、ここ10年で約1,000円から4,000円へと4倍ほど上昇しています。今後も株主のみなさまに評価いただけますよう、しっかりと中期経営計画を推進していきます。なお、弊社の株式は、8年連続で株価指数「JPX日経インデックス400」の構成銘柄に選定されています。
また、ESG投資の代表的な指標の1つである「FTSE4Good」および「FTSE Blossom Japan」のインデックス銘柄にも選定されており、引き続き、社会から信頼される会社として企業価値向上に努めていきます。
配当
配当の推移です。当社は、株主のみなさまへの利益還元と会社の持続的な成長の両方を実現するため、業績の結果や見通し、配当性向および内部留保などを総合的に勘案し、配当を行っています。その結果、2021年3月期までは12期連続で増配しており、23期連続で減配していません。
2021年3月期は、新型コロナウイルスという特殊要因により減益となりました。しかし、先ほどもお話ししたように、足元の業績は回復しつつあり、前期下半期の経常利益と営業利益は過去最高を更新していることを踏まえ、1円増配し、107円とする予定です。そして、今期も配当性向50パーセントを目処に安定的な株主還元を進めていく予定で、前期比1円増配の108円を計画しています。
以上をもちまして、アイカ工業の会社説明を終わらせていただきます。ご視聴いただきまして、誠にありがとうございました。
質疑応答:アイカ10年ビジョンの経常利益の減少見込みについて
高井ひろえ氏:酒井さま、ありがとうございました。それでは、質疑応答へ移ります。まず、坂本さんからの質問をお願いします。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):アイカ10年ビジョンについて聞きたいと思います。まず、経常利益率が2017年3月期から見ても落ちる見込みになっていますが、利益率を伸ばすより、売上のほうにウェイトを置くお考えなのでしょうか?
現在、建装建材セグメントの利益率が高いため、そちらを等分に伸ばしていくと利益も伸びそうなのですが、競合が成長していくということなのか、それとも著しい需要が見込めないということなのかを含めて教えてください。
酒井:21ページに記載した、アイカ10年ビジョンの経常利益率の変化についてのご質問かと思います。ご指摘のとおり、2027年3月期の経常利益率は、2017年3月期と比べると若干下がっています。
その要因の1つは、海外建装建材事業です。現在、弊社の主力製品の化粧板などは、日本においてはダントツの市場シェアを有していますが、ひとたび海外に出ると非常に多くのメーカーが参入しており、熾烈な競争環境にあります。
弊社は、価格競争の厳しいローエンドではビジネスを展開していませんが、ミドルエンドやハイエンドであっても競争できる価格帯はある程度あり、日本と同じように高利益なビジネスを確保することは難しい状況です。
とは言え、長期的なスパンで見ると、日本市場だけに依存していては成長は望めず、むしろ地盤沈下していく可能性もあり、海外市場は避けて通れない道だと認識しています。それゆえに、規模と収益をバランスよく取りながら成長を目指していくのが、アイカ10年ビジョンの1つの流れだと思っています。
坂本:海外で競合が多いというところですよね。
質疑応答:海外の建装建材事業の伸び率と中国のフェノール樹脂事業の概要について
坂本:続いての質問です。御社が得意とする建装建材は、アジアを中心とした所得の伸びを勘案すると、高価格帯がもう少し伸びてくると思うのですが、10年ビジョンのため、2027年3月時点ではそのフェーズに入っていないのでしょうか?
もう1つは、資料の31ページでご説明のあった、竹を使ったフェノール樹脂への大きな投資計画についてです。2022年11月からの操業開始となっており、投資金額や中国での需要を考えると、結構な増益要因になるのではないかと思っています。こちらも中計に入っているのでしょうか? 中計にどのくらいの影響があるのかを、話せる範囲で教えてください。
酒井:まず、海外の建装建材事業の伸び率についての質問だったと思うのですが、確かに、アジアの所得や購買力は伸びており、日本と比べると経済成長率も遥かに高いです。その成長率こそが、アジアの市場を狙っていく上での一番の魅力でした。
弊社が身を置く建築、建設業界の市場の成長率は国によって多少ばらつきはありますが、年率換算で概ね5パーセントから10パーセントくらいは伸びるだろうと見ています。
一方で、弊社の前期の海外建装建材事業の売上は約140億円です。中期経営計画では3年かけてそれを220億円まで持っていく計画ですので、年率換算では15パーセントから16パーセントくらいの成長を見立てています。海外建装建材事業については、市場の伸び以上にストレッチをかけつつ、伸ばしていこうという計画です。
もう1つのご質問は、31ページに記載した、中国のフェノール樹脂事業の概要についてですね。今の計画では、来年11月に操業を開始しますので、中計の最終年度に業績として寄与してくる計画です。
中国での竹材用フェノール樹脂は、年間売上で20億円強の事業規模です。新しい会社が立ち上がって操業を始めた中計の最終年度では、だいたい売上規模にして30億円強くらいと予想しています。
また、アイカ10年ビジョンの最終年度となる2027年3月期には、さらに倍の約60億円くらいの規模まで伸ばそうという計画ですので、売上としては相当な規模の貢献があるだろうと思っています。
一方で、利益に関しては、設備投資もそれなりの金額になるため、減価償却のことを考えると、今回の中計への貢献は、それほど大きくはないだろうと思います。ただし、その次の中計、つまりアイカ10年ビジョンの最終年度にはそれなりの寄与は見込めるだろうと考えています。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問1:中国工場の建屋増設や移転を行うべく103億円を設備投資される計画がありますが、目先、中国企業からの接着剤の大口受注はあったのでしょうか?
回答1:大口受注や特需ではございません。中国のフェノール樹脂市場は需要が伸びております。竹用フェノール樹脂をはじめフェノール樹脂全般において、持続的な需要の伸長が期待できるため、設備投資を計画いたしました。
<質問2>
質問2:海外展開について、欧米ではなくアジア中心である理由を教えてください。
回答2:結果論です。欧米も、過去にチャレンジいたしましたが成就しませんでした。選択肢として排除しているわけではありませんので、今後も機会や案件があれば可能性はゼロではございません。
<質問3>
質問3:海外は中国や東南アジアがメインのようですが、現在の事業環境について教えていただけないでしょうか?
回答3:海外事業の現状は、インドネシアなど一部地域は前期上半期のコロナ影響からの回復が遅れておりますが、全般的には回復傾向です。中国や東南アジアの経済成長率は中長期的に高水準を維持すると見込んでおりますので、今期計画や中計でも海外事業は牽引役および成長分野としております。
<質問4>
質問4:化成品事業の利益率が建装建材事業の半分程度となっていますが、化成品事業の利益率を上げる施策はありますでしょうか?
回答4:国内建装建材事業が特殊であり、化学品業界の水準から見ても、弊社の化成品事業が特段低いわけではございません。とはいえ、利益率の向上は常に取り組むべきことではございますので、P25にあるような施策(原材料コストダウン、生産効率向上、ロスコストの削減、物流網の最適化、業務のデジタル化)などにより、利益率の向上を図ってまいります。
<質問5>
質問5:2050年カーボンニュートラルを目指した抜本的な温室効果ガス排出削減を目指していくとのことですが、これにより設備などの固定費に影響はないのでしょうか?
回答5:まだ、ロードマップを策定している段階です。詳細の削減方法や設備投資の有無・規模などは、今後の検討課題です。
<質問6>
質問6:竹材の建材は中国固有のものでしょうか? 日本でも流行る可能性はありますか?
回答6:この竹材・建材は人工木材に分類されますが、人工木材としてのクオリティの高さから着目されております。中国が竹の一大産地であることから、製造は中国固有となっておりますが、販売は世界に広がっております。日本でも市場が広がりつつありますので、今後、流行する可能性はございます。
<質問7>
質問7:社会問題として、人材不足や物流費高騰などが懸念されていますが、AS商品拡販の施策について具体的にどのようなことに取り組まれるか教えてください。
回答7:工事職人不足の解決策として簡易に施工できる粘着剤付化粧フィルムや粘着剤付メラミン化粧シートがございます。輸送コスト削減の観点としては、軽量化した化粧パネルがございます。このような省施工型商品、軽量化商品の拡充・拡販に取り組んでおります。
<質問8>
質問8:コロナ影響を受けたにもかかわらず、下半期の営業利益・経常利益が過去最高を更新できた背景について教えてください。
回答8:まず、コロナで停滞していた市況が回復に向かったことで国内の業績が上向き、工場の操業度が改善し、生産利益を確保できたことが大きな要因の一つです。もちろん、コロナの影響で働き方や業務改善も進み販管費の抑制などもみられました。 もう一つは、新規連結効果です。新しく新規連結に加わった会社として海外のWilsonartという化粧板の会社がコロナによって上半期は業績を大きく落としましたが、下半期から業績が回復し、全体の業績向上に寄与しました。