本記事の3つのポイント
- 新型コロナの感染拡大を受けて、オンライン診療の制度が緩和。医療スタッフのリスク低減、時間短縮やコスト削減などのメリット
- オムロン ヘルスケアは、21年4月から高血圧治療における遠隔診療サービスの提供を英国で開始すると発表
- 患者が測定した血圧データを医師と共有し、医師は電子カルテに接続された管理用画面で患者の血圧データを詳しく確認できる
2020年4月に制度緩和
厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の急拡大を受けて、2020年4月、ハイリスク薬、麻薬などの不可といった制限はあるものの、時限的に初診の患者を含め、電話や情報通信機器を用いた診療や服薬指導を可能とする事務連絡を行った。
厚生労働省の資料「令和2年10月~12月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」によると、21年1月末時点で、全医療機関数11万898機関に対し、電話・オンライン診療が実施できる医療機関数は15.1%の1万6718機関。このうち、初診から実施できるとして登録した医療機関数は7089機関、全体の6.39%となっている。これに対し、初診から実施したとして報告のあった医療機関数は、20年11月673機関、同12月632機関、実施件数は20年11月6516件、同年12月7088件にとどまった。
欧米では、新型コロナ対策の第一歩
国民生活センターでは、欧米に比べオンライン診療が少ない理由として、なおも疾患制限と低点数であることを挙げている。一般に、医師や患者による「なりすまし」や処方薬の転売、不適正使用の危惧、誤診の可能性などを指摘する声もあるが、一方でオンライン診療は、医療スタッフ、患者ともに新型コロナウイルスなど感染症に暴露されない、医療機関に赴く時間やコストが削減できる、受診を控えている慢性疾患の患者に対応できるなどのメリットも多い。
欧米では、新型コロナ対策の最初に「新型コロナ感染の疑い」の患者をオンラインで診療することを挙げ、問診と視診、さらに家庭で簡単なバイタルサイン(体温、呼吸、脈拍、血圧)、もしパルスオキシメーターがあれば血中酸素飽和度を測定してもらうことで、十分な診療が可能としている。
こうしたメリットを享受できるところ、適正に運用できる疾病から、徐々にオンライン診療を普及させ、日本におけるPHR(Personal Health Record=個人健康情報管理)を整備しながら、地域医療構想、地域包括ケア体制の構築につなげていってほしいものだ。
前出の厚生労働省の資料では、「医師が医学的に可能と判断した範囲」で上位に上気道炎、発熱、気管支炎、咽頭炎、アレルギー性鼻炎が来ているが、高血圧症はサンプルが非常に少ない。たまたまサンプルが非常に少ないとはいえ、日々の測定が自宅で可能で、投薬により血圧値が安定している高血圧患者の再診は、オンライン診療に適していると言える。また、高血圧性疾患を未然に防ぐことで、医療保険財政への負担軽減も期待できる。
オムロン ヘルスケアが英国で高血圧治療の遠隔診療
オムロン ヘルスケア㈱(京都府向日市)は、21年4月から高血圧治療における遠隔診療サービス「Hypertension Plus(ハイパーテンションプラス)」の提供を英国で開始すると発表した。患者が朝晩に家庭で測定した血圧データを医師と共有し、医師は電子カルテに接続された管理用画面で患者の血圧データを詳しく確認することができる。さらに、患者の属性や血圧レベルに応じて、3カ月分の投薬プランを医師に提案するとしている。英国では、国民の3割が高血圧症といわれている。
日本高血圧学会によると、国の調査では約4300万人の高血圧症の患者がいるとされる。日本人の3人に1人、まさしく「国民病」であるが、このうち約1000万人が診察や投薬を受けているものの、自覚症状がほとんど現れないため、残る3000万人以上の多くは高血圧でも放置しているとされる。
自覚症状が現れないものの、高血圧はサイレントキラーといわれるように、長い時間をかけて動脈硬化を進行させ、脳血管が壊死する脳出血をはじめ、いわゆる脳軟化である脳梗塞、脳底部の動脈瘤の病気、くも膜下出血、心肥大や冠状動脈硬化、狭心症、心筋梗塞などの重大な高血圧性疾患が起こりやすくなる。死に至るリスクもあるが、植物状態や後遺症といったQoLの低下にもつながる。また、高血圧が長期化すると、腎臓障害を併発しやすくなる。
高血圧性疾患の予防で財政負担軽減へ
17年度の国民医療費は43兆710億円で、このうち約4.2%の1兆7907億円を高血圧性疾患が占めた。これを年齢別にみると、0~14歳(2億円)、15~44歳(334億円)、45~64歳(3432億円)、65~69歳(2360億円)、70~74歳(2459億円)、75歳以上(9319億円)となり、他の多くの疾病と同様、年齢とともに医療費が嵩む。
これに対し、降圧剤(保険負担と自費負担の合計)は安いもので月600円、1000円前後のものが多い。日々の測定の記録と定期的なオンライン診療と処方、さらには運動と運動による減量、減塩や食生活の改善などにより血圧値を低下させ、降圧剤の量を減らしたり、服用する必要をなくしたりすることができる。また、運動や食事・生活改善の副産物として、他の生活習慣病の予防にもつながる。
なお、それ以前として、高血圧症でありながら、受診をしない患者への受診促進も重要であることは言うまでもないことである。
厚生労働省による成人の血圧値分類(単位mmHg、収縮期血圧:最大血圧と拡張期血圧=最小血圧)は、正常血圧が120以下かつ80以下、正常高値血圧が120~129かつ80以下、高値血圧130~139かつ/または80~89、Ⅰ度高血圧140~159かつ/または90~99、Ⅱ度高血圧は160~170かつ/または100~109、Ⅲ度高血圧は180以下かつ/または110以下で、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上のⅠ~Ⅲ度が高血圧と診断される。
この数値は診察室での測定の場合で、家庭で測定した場合は5~最大20引き下げた数値が適用される。また、高値血圧は、Ⅰ度高血圧に移行する可能性が高いため、運動や減塩などに取り組む必要があるとされている。
オンライン診療にはバイタルセンサーが不可欠であり、血圧計は数千円あれば精度の高いものが手に入る。また、パルスオキシメーターは数千円~1万円台で、昨年から販売が好調という。今後は、日本でもオンライン診療の普及が徐々に始まると思われるが、オンライン診療が威力を発揮する疾病、また、それに必要なバイタルセンサーなどについて注視していきたい。
電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次
まとめにかえて
コロナ禍でオンライン診療が注目を集めています。患者自身の負担軽減に加え、医療従事者へのメリットも指摘されています。まだまだ普及途上であることから、今後記事にあるバイタルセンサーのようなものが今後より一層求められそうです。
電子デバイス産業新聞