本記事の3つのポイント
- ロームが5カ年の中期計画を発表。過去最高売上の更新を射程に捉える
- 成長のカギは車載と海外市場の拡大。車載ではSiCデバイスの拡販などに力を入れる
- 一部で外部アウトソースを使いながらも、基本的には自社でのものづくり強化の方針は不変。前・後工程の能力増強にも力を入れる
京都の半導体メーカー、ロームは5月11日に2021~25年度の中期経営計画を発表した。20年来の悲願であった過去最高売り上げの更新を射程に収め、さらなる成長を目指していく。
25年度に売上高4700億円(20年度実績3598億円)、営業利益率17%(同10.7%)を目標に掲げる。過去10年間に取り組んできた民生から車載への注力市場シフト、SiCパワーデバイスに代表される戦略商品の育成といった成果をバネに、飛躍を遂げようとしている。長年越えられなかったハードルをクリアできるのか、注目される。
「過去の壁」の突破が長年の悲願
ロームは半導体の業界関係者には知られた企業だが、大手電機メーカー傘下ではないデバイス専業のため、一般的な認知度はそう高くないかもしれない。そこでまずロームの紹介から入ろう。
ロームは1954年に創業、58年に設立され、抵抗器メーカーとしてスタートした。社名は抵抗器のブランド名に由来し、抵抗を表すRと単位のΩ(ohm)を組み合わせたものである。60年代後半には半導体に進出し、ダイオードやトランジスタ、ICを製品化した。現在では半導体が全社売上高の約85%を占めるが、センサーモジュールやタンタルコンデンサー、そして創業製品の抵抗器もラインアップに残っている。
本紙がまとめた19年度の国内半導体メーカーランキングでは、売り上げ規模でトップ5位に位置する。ほかの上位メーカーが、主要事業の1つとしてイメージセンサーを手がけるソニーや、東芝のメモリー事業が分離したキオクシア、三菱電機・日立・NECの半導体事業部門が統合したルネサス エレクトロニクスと、いずれも電機メーカーを出自としているのとは異なる。初めからデバイスメーカーとして誕生した、インテルなど北米の大手半導体メーカーらと似たルーツを持つのが特徴だ。
早くから半導体メーカーとして地位を確立してきたロームは、90年代のPCや携帯電話の普及拡大を背景としたIT産業の勃興により大きく成長を遂げ、99年度には過去最高売り上げとなる4093億円を記録する。ところが、この記録はその後の20年余りにわたり、壁として立ちはだかり続けることになる。
ITバブルの崩壊により落ち込んだ業績は、デジタル家電へのシフトで2000年代後半には回復に向かったが、リーマンショックと東日本大震災、タイの洪水という相次ぐ災厄に見舞われ、12年度には売上高が3000億円を切り、営業赤字に陥った。その後、注力分野を成長市場である自動車や産業機器にシフトし、17~18年度には4000億円弱の水準にまで売り上げを回復させたが、米中貿易摩擦や新型コロナウイルスにより業績が落ち込み、過去最高の更新は果たせずにいる。
今回発表した中期経営計画では、2年以内(23年度まで)に過去最高売上高を更新するとの目標を明らかにしている。いよいよ悲願達成を射程圏内に捉え、それを越えた先にまで確実に到達するのだという強い意欲を示したと言えるだろう。
成長のカギは車載
新中計において、成長を牽引する分野に位置づけられているのが車載事業だ。ロームは主力領域であった民生市場での苦戦を背景に、10年前から車載・産業機器市場へのシフトを打ち出して比率拡大を図ってきた。20年度の全社売上高に占める車載の比率は35%、産業機器は13%で、10年間に車載は15ポイント、産業機器は5ポイント高まった。
近年の電動化進展、自動運転技術の高度化で車載デバイス市場は順調に拡大しているが、今後もその勢いは止まらない。ロームは車載半導体市場の20~25年度までの年平均成長率を9.4%と見込んでおり、この市場にフォーカスすることで高成長を目指す。また、車載には及ばないものの、産業機器市場も年平均成長率3%弱と堅調な成長を見込んでいる。
売り上げ拡大を目指すもう1つの領域は海外だ。言うまでもなく半導体需要の中心は海外であり、ロームはこれまでも海外売り上げの拡大に注力してきた。新中計期間にはその取り組みをさらに加速させ、20年度に38%だった海外売り上げ比率を25年度に45%以上に引き上げる。新たに海外営業本部を設置し、これまで各拠点に個別に行っていた営業活動を一括で管理して全体最適化を図る。また、顧客への提案力を強化するためのシステムソリューションエンジニアリング(SSE)本部を置き、営業本部と連携して顧客ニーズに応じた商品の提案、技術サポートを行う。
SiCでシェア30%目指す
ロームの半導体ラインアップは、トランジスタやダイオード、パワーデバイスといった半導体素子と、PMICや各種ドライバーICなどのLSIに大別できる。半導体素子のなかでも成長牽引役に位置づけられるのが、長年育成に取り組んできたSiCデバイスだ。
SiCはシリコンと比べて高温、高耐圧特性に優れ、オン抵抗が低いことから従来の限界を超える省エネを実現可能な半導体材料として、パワーデバイスへの実用化が進められてきた。ロームはSiCデバイスの研究開発において先駆的な役割を担ってきた半導体メーカーの1つであり、10年にSiCショットキーバリアダイオード(SBD)の量産を開始した。同年には世界初となるSiC-DMOSFETの量産も開始している。さらに15年には技術的なハードルが高かったトレンチ構造のSiC-MOSFETの量産化にも成功しており、競合他社をリードする成果を挙げてきた。車載向けSiCデバイスの投入においても先行し、12年には車載準拠のSBD、18年にはトレンチMOSFETを世界で初めて製品化している。
当初エアコンや太陽光発電用パワーコンディショナーなどから採用が始まったSiCデバイスは、近年になって鉄道や電動車用充電器などの車載、産業機器分野にも広がってきた。車載向けでは19年、米テスラの「モデル3」のインバーターにSiCデバイスが搭載されたことが話題になり、いよいよ自動車の駆動系にもSiCを本格的に搭載する動きが加速してきた。
ロームは独コンチネンタルグループのヴィテスコや中国のティア1であるUAESらとSiCの車載応用で協業しており、車載向けの拡大に注力している。MOSFETは現在、第3世代品を量産しているが、21年には第4世代品の投入を計画する。オン抵抗を前世代品比で約30%低減できる。以降もさらに低抵抗化に向けた開発を進め、25年には第5世代品を投入する予定だ。
また、材料からの一貫生産体制を採っていることも特徴である。ウエハーメーカーである独サイクリスタルを傘下に持ち、ウエハー、デバイス、パッケージやモジュールのすべての領域をカバーして、顧客ニーズに応じて供給できる。サイクリスタルは、20年に欧州のSTマイクロエレクトロニクスとSiCウエハーの長期供給契約を締結した。また、現行の6インチから8インチへのウエハー大口径化にも取り組んでいる。ウエハーとデバイス双方の生産能力拡充により、SiCの供給能力を19年度から24年度の5年間に5倍以上に拡大する計画だ。これらの取り組みで技術的な差別化と供給能力拡大の両方を実現し、SiCデバイス市場でシェア30%の獲得を目指す。
IDMとして自社モノづくり力を強化
ロームは半導体の設計から製造、販売までを自社で一括して手がける垂直統合型(IDM)の企業であり、設計開発のみで製造を外部委託するファブレスや、一部製品、プロセスを外部委託するファブライトが広まるなかで自社製造にこだわってきた。内製する範囲はデバイスのみならず、特定の部材や製造設備に及んでおり、高品質で安定した製品供給を支えている。近年は急激な需要変動への対応やBCPの観点から外部委託も活用する方針を打ち出しているものの、自前でのモノづくりを重視する姿勢そのものに変わりはない。
前工程では21年1月にSiCデバイスの主力生産拠点であるローム・アポロ筑後工場(福岡県筑後市)に新棟を建設した。生産設備導入を経て22年の稼働を予定している。新棟の設備は将来的な大口径化を想定し、8インチウエハーに対応している。既存工場も含めてSiCデバイスの積極的な増産に取り組む方針だ。シリコンでは注力デバイスの12インチでの生産を進め、ウエハー枚数を拡充していく。25年度に19年度比で倍増させる計画だ。
後工程はタイやフィリピンなど東南アジアに量産拠点が点在しているが、自動化を推進して生産性を向上した新規フレキシブルラインを開発して国内マザー工場に導入を計画している。21年4月から汎用デバイスの量産に適用し、22年度にかけてLSIやパワーデバイスなど生産品目を増やしていく。23年度にかけて国内マザー工場に増設して多品種少量生産体制を構築し、災害時にも対応可能なサプライチェーン強靭化を図る。23年度以降には海外拠点にも展開して、大量量産デバイスの生産性向上を実現する。
また、新商品や新ライン開発を担うモノづくり開発拠点を設立し、国内マザー工場での検証を経て海外拠点に量産適用を進めていく。国内外の拠点で連携体制を築き、生産ラインの自動モニタリングや材料供給、部品交換などの自動化を進めて、人手に頼らず不良を作らない完全無人・自動化ラインの実現を目指し取り組んでいく。
25年度以降の成長加速に向けて仕込み
ロームは25年度までの中計期間を「成長軌道へ戻す5年」と位置づける。過去最高売り上げの更新を経て、その先へと成長していく道筋を確かなものとしたい考えだ。中計期間においては、25年度以降を見据えた成長の種の仕込みも行う。
例えば、新材料半導体としてSiCに続いて普及拡大が見込まれるGaNデバイスの量産を22年に計画している。21年4月には、通信基地局やデータセンターなどをターゲットとしたGaN-HEMTのゲート耐圧を業界最高に高める技術を開発した。高周波動作に優れるGaNの特徴を活かし、SiCを補完するパワーデバイスとして展開していく予定だ。ほかにも自動運転技術を支援するモジュールなど、将来的に求められる新製品の開発により中長期的な成長を目指していく。
リモート需要の伸長や自動車電動化、自動運転化により、半導体産業への注目が高まっている。日本においても半導体産業を振興させようという機運が強まるなかで、デバイス専業メーカーとして独自の地位を築いてきたロームが果たせる役割は大きい。日本を代表する半導体メーカーの1社として、さらなる飛躍が期待されている。
電子デバイス産業新聞 大阪支局 記者 中村 剛
まとめにかえて
2010年代以降、売上が伸び悩んでいたロームですが、今回の中計ではそれを成長軌道に戻すべく、力強いメッセージが込められています。カギを握る車載分野ではSiCパワーデバイスに加えて、シリコン系デバイスのIGBTなどの事業拡大も大きなポイントとなりそうです。また、昨今の半導体供給不足を受けて、生産戦略をどう構築していくかも大きな関心を集めそうです。
電子デバイス産業新聞