この記事の読みどころ
トランプ次期大統領選出後、政策への期待を背景に米国株式市場は上昇しました。一方、過去の主な米国大統領の当選後の株価を見ると様々なパターンがあり、当初の「期待」より、その後の政策に目を向ける必要がありそうです。
米国大統領選挙:株式市場では、トランプ氏の政策への期待を反映した動きが見られる
米国大統領選挙が2016年11月8日に実施されてから、足元まで米国株式市場は約3%上昇しています。セクター別のパフォーマンスは上位に鉄鋼、建設・土木や投資銀行などが顔を揃え、下位には公益などが見られます。トランプ次期大統領の政策への期待を反映した動きが見られます。
どこに注目すべきか:米国歴代大統領、レーガン、オバマ・・・
トランプ次期大統領選出後、財政緩和や金融規制緩和への期待を背景に、米国株式市場の上昇が見られました。過去の主な米国大統領の当選後の株価推移を見ると(図表1参照)、様々な株価動向が見られますが、相対的に当初の「期待」より、その後の政策に目を向ける必要がありそうです。
主な米国(元)大統領と株式市場の動きのポイントは以下の通りです。なお、カッコ内の数字は当選日ベースの1期目と2期目の各4年間の株価(S&P500種)騰落率です。
レーガン氏(在任期間:1981年~1989年、1期目:約30%、2期目:約68%)
レーガン氏は政権への批判票と政治経験の無さ(知事としては実績を積んでいますが)という新鮮さの点で当選後の期待が高いところに、トランプ氏との共通性も見られます。
レーガン氏のスタートダッシュでは株価が上昇しました。前任のカーター氏がイランのアメリカ大使館人質救出に失敗したため、レーガン氏への期待が株価を押し上げたと見られます。ただ、その後株価は軟調となっています。しかし、注目なのは就任期間中、レーガン氏は減税や規制緩和を促進、1987年のブラックマンデーを経験しているにもかかわらず、特に2期目の株価は大幅なプラスとなっていることです。
オバマ氏(在任期間:2009年~2017年(予)、1期目:約55%、2期目:68%)
反対に、運悪く当選後株価が下落したのがオバマ氏です。金融危機(リーマンショック、2008年9月)後に当選、就任直後から後処理に追われています。しかし、オバマ氏の1期目、2期目の株価は共に上昇しており、深刻な金融危機からの回復に道筋をつけた格好です。
クリントン氏(在任期間:1993年~2001年、1期目:約89%、2期目:100%)
ブッシュ氏と競った大統領選挙で「経済こそが問題なのだ、愚か者」というフレーズで有名になったように、経済最優先の政策を推し進めたクリントン氏の任期中は、株価も好調に推移しています。特に、2期目の4年間では株価は概ね倍になった計算です。
ただ、クリントン氏には運が良かった面も見られます。たとえば、当選後の上昇は自らの政策というより、前任の共和党政権が進めた規制緩和等が効果を維持・発揮した可能性もあるからです。また、リーマンショックの1つの要因であるサブプライムローン(低所得者向け融資)を導入したのもある意味クリントン氏で、同氏の経済政策について評価の分かれるところです。
リーマンショックが発生したのはブッシュ元大統領在任中の2008年9月でしたので、サブプライムローンの拡大を見のがしていたのはブッシュ氏の時代という面もありますが、低所得者からの支持獲得にサブプライムローンを導入したのはクリントン氏と考えるべきとの見方もあります。
ニクソン氏(在任期間:1969年~1974年、1期目:約10%、2期目:マイナス29%)
評価が難しい大統領です。ウォーターゲート事件で任期途中に辞任していることや、1973年のオイルショックに見舞われたこともあり、2期目の株価は下落しています。ニクソン氏は株価やウォーターゲート事件による辞任の経緯を見ると、さえない印象です。しかし、同氏の外交政策は輝かしい実績を残しています。
たとえば、曲がりなりにもベトナム戦争を終結させたのは同氏の功績と思われます。また、ソ連(当時)との緊張を緩和させたデタント政策、中国電撃訪問などいずれも歴史の語り草となっています。このような政策の効果は歴史的に評価すべきでしょう。考えてみれば、本来、米国大統領は株価などでは推し量れない面があるのかもしれません。
ここまで4人の米国大統領の業績と株価の話をしてきましたが、最後に、個々の米国大統領でなく、より一般的に大統領と株価の関係をご紹介します。
米国大統領の任期は4年です。そこで、大統領就任1年目から4年目の各1年ごとの株価の上昇率を比べると、3年目の株価上昇率が他の期間に比べて高いことが知られています。3年目は、翌年の大統領選挙(1期目の場合は再選がかかっている)を控え、経済政策を導入することがその背景とする見方もあります。
こうして見ると、米国大統領と株価の動きには何らかの関連もありそうです。ただし、就任当初の動きだけに目を奪われるより、その後の動きに注目する必要がありそうです。