早耳情報消失

2016年11月29日の日本経済新聞によれば、証券会社の「業種ごとに配置され、企業の業績と株価を分析するセクターアナリスト」の仕事が今年前半に激変し、「決算前の企業への取材活動を取りやめた」ことから「(業績に関する)アナリスト予想の正確性が薄れ」「決算発表後の株の変動率が上昇し」「決算発表後の数日間だけ売買が膨らむ短期化が顕著」になったと報じています。

このように、いわば“アナリスト不在”になった市場では「コンピューターによる短期取引と株価指数連動のパッシブ運用」が栄えることになると警鐘を鳴らしています。中でも、特に個人投資家への情報が減少することに懸念を示しています。

企業業績の早耳情報は一掃すべき

事の発端は、一部の証券会社で企業決算の未公表情報を一部の顧客に知らせたことの発覚です。早耳情報を選別的に一部の顧客だけに伝えたことが発覚してしまうと、他の顧客や一般投資家はその証券会社から離れていきます。したがって、そもそもそのような行為は合理的に考えれば抑止されるはずですが、現実に起きてしまいました。

この問題は過去から繰り返し起きてきました。そこで今回、証券会社は一歩進んで、決算発表前に決算の着地の感触を探りにいくのをやめました。当然の流れだと思います。

ちなみに、早耳情報の提供をメインとするアナリストと、それを基に利益を稼ごうとする投資家が不在になっても、資本市場はびくともしないと思います。

早耳情報を提供する側の問題はないのか

日本でも、ディスクロージャーに真剣な企業は決算末の直前から決算発表までの期間をサイレントピリオドとし、業績に関する照会には一切答えないというスタンスを取っています。このような早耳情報が存在しない企業は、日本でも既に多数存在します。

既にサイレントピリオド制度を採用している企業がある中で、早耳情報を選択的に提供してしまう企業があることに問題があるのではないでしょうか。たとえば、機関投資家や大口株主などに対しても企業は同様のスタンスを取っているのでしょうか。

これに限らず、早耳情報の抜け穴はいろいろなところにあると考えられます。公平なディスクロージャーを実施するには、情報を発信する側の企業のコミットが何より求められるでしょう。

売買が決算発表後に集中するのは当然の帰結

早耳情報がなくなれば、企業業績のトレンドは決算が出るまでわかりませんので、決算発表直後に株価の変動率が高まったり売買が集中するのは自然な成り行きだと思います。それ自体、特に問題視すべきだとは筆者は考えません。

アナリストの仕事は早耳情報だけではない

また、アナリストの仕事は早耳情報に基づいて業績予想や目標株価を調整することばかりではありません。限られた情報に基づいて、分析対象の企業の将来像を夢を持って語る「語り部」という重要な役割も担っています。

このようなアナリストは、たとえ目先の業績を正確に当てられなくても投資家からの信頼を損なうことはないでしょう。アナリストが早耳情報の収集から解放され、自由で創造的なビジョンを語ることに専念できるようになるのは良いことではないでしょうか。

「30%ルール」を「20%ルール」に変更してみてはどうか

現在、東京証券取引所の有価証券上場規程第405条では、「上場会社は、当該上場会社の属する企業集団の売上高、営業利益、経常利益又は純利益(上場会社がIFRS任意適用会社である場合は、売上高、営業利益、税引前利益、当期利益又は親会社の所有者に帰属する当期利益)について、公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前連結会計年度の実績値)に比較して当該上場会社が新たに算出した予想値又は当連結会計年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして施行規則で定める基準に該当するものに限る。)が生じた場合は、直ちにその内容を開示しなければならない。」とされており、利益については直近の予想値等からプラスマイナス30%の乖離が認められた時に適時開示が求められています。これを「30%ルール」と呼んでいます。

しかし、30%の乖離はかなり大きなもので、突然これが発表されると株価は大きく動くと思われます。そこで、これを上下20%と狭め、より頻繁に業績予想の修正を適時開示し周知徹底するのはどうでしょうか。これであれば早耳情報の介在する余地は小さくなりますし、突然の大きなショックも減ることでしょう。

筆者は早耳情報から解放されたアナリストがクリエイティブに論陣を張って、機関投資家も個人投資家も等しく牽引していく、そんな時代が来ることを願っています。

一方、日本の企業のIR資料はなかなか良くできています。個人投資家も独自に投資判断を行える時代が来ました。アナリストの腕が試される時代です。

 

LIMO編集部