2021年5月17日に行われた、Kudan株式会社2021年3月期決算説明会の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:Kudan株式会社 代表取締役 大野智弘 氏
Kudan株式会社 代表取締役CEO 項大雨 氏
Kudan株式会社 取締役CFO 飯塚健 氏
2021年3月期決算説明会
大野智弘氏:おはようございます。代表取締役の大野智弘でございます。本日はお時間をいただき、ありがとうございます。2021年3月期は非常時の1年間ではありましたが、我々はこれを好機と捉え、技術、組織、市場、顧客、そして財務と、社内が各領域でテコ入れを行った1年でした。
去年は「絶好調」という言い方をしましたが、今年も同じように言えると思います。我々の期待どおりに進捗し、市況にも十分対応できたとまとめられます。技術会社としての鋭さ、深さも順調に進捗しており、将来に向けてより筋肉質になったと自負しています。
少し難しいのは、一般的な技術サービス会社やアプリ、プロダクトを提供する、いわゆるIT会社とは違い、我々はDeep Techの企業です。我々が注力する指針、KPIはかなり異なっていることをご理解いただきたく思います。
我々の顧客市場では、もちろんこの市況で新規技術への投資のブレーキが鋭くかかってしまい、厳しい状況が続いていることには変わりないのですが、自律型の機械の必要性がますます明確になっており、その中で我々のような技術に対する不可欠性も高まってきています。
プロジェクトとしてはいくつかスローダウンしているものもありますが、これらはキャンセルされたわけではなく、延期されたものと考えていただければと思います。市場での需要が確認され、事業開発の圧力が低いこのタイミングを使い、根本的な組織整備や研究開発に注力し、顧客の取捨選択をしたと言ってよいかと思います。
出資したドイツのArtisense社のさまざまな改革もほぼ一巡し、技術、事業の双方の統合も非常に速いスピードで進み、今後の成長に向けた基盤がしっかりとできたと言えます。
それでは、取締役から詳細をそれぞれご説明します。
2021年3月期 業績概要
飯塚健氏(以下、飯塚):数字面について、取締役CFOの飯塚よりご説明します。スライドをご覧ください。2021年3月期の売上高は、1億円から1億6,000万円のレンジに対し、1億2,700万円と、レンジ内で着地することができました。
昨今の新型コロナウイルスの影響や、戦略的に案件ポートフォリオを入れ替えて選別を行なったことによる減収はあったものの、お客さま側における製品化が見えていることによるスケールの可能性であったり、自動運転、ロボット自律走行に関する顧客サイドにおけるニーズをすべて拾うのではなく、技術フィットがある新規案件に絞りました。しかし、グローバルにおいて事業開発が進んでおり、累積案件が前期の53件から当期は108件と加速度的に伸びたことで、来期以降の収益に大きく寄与する体制を整えられたと考えています。
一方、コスト面においては、一種の数年分の研究開発費の費用と言い換えることができますArtisense社に対する投資について、将来の保守的な計画に基づき、約11億円の減損処理を実施しました。こののれん償却の軽減により、事業開発の体制同様、来期以降の収益向上に寄与すると考えています。
業績ハイライトの総括です。Artisense社への投資により、新製品VINSなど、グループ全体の技術的ラインナップが拡充されています。また、米国、欧州、日本における事業開発及び研究開発体制がグローバルにおいて組織的な厚みを増し、事業開発、研究開発双方にとって来期以降の売上高増加のための適切な準備ができた1年と言えます。
Artisense社:持分法による投資損失(会計上評価減)
減損についての詳細をお話しします。先ほど概要でもお話ししましたが、当期2021年3月期において、投資先であるArtisense社に対する投融資に対し、約11億円の減損処理を実施しました。
テクニック論になるのですが、会計処理において、将来のArtisense社の収益性について中期的な事業計画を保守的に据えることで、当該投融資で数年分の一種の研究開発費として一時費用を処理したほうが財務上健全であることを理由とし、会計処理上、減損処理を実施しました。
ただ、来期以降の償却負担軽減によりV字回復に寄与する結果となったと考えています。このあと項からもご説明しますが、今後、Kudanグループの核となる技術であるArtisense社の技術を取り込めたことによる実質的な技術バリューアップは、会計処理への反映が難しい一方で、保守的に処理した次第です。
以上、数字面のご説明でした。
Artisense社:中長期的な企業価値
項大雨氏(以下、項):代表取締役の項でございます。Artisense社についての補足ですが、先ほどの会計評価とは対照的に、買収の本来の狙いであった世界的権威を含む希少人材の確保と、補完的な次世代技術の確保は想定どおりに進捗した1年と言えました。
人材については、AI・自動運転研究の世界的権威であるダニエル・クレーマーズ教授と、彼が率いる世界トップレベルの技術者グループの保留に成功しています。さらには、クレーマーズ教授が首席教授を務めるミュンヘン工科大学の専門人材プールとのパイプラインを確立し、今後も継続的な採用が可能となりました。
また、次世代技術については、ミュンヘン工科大学とArtisenseが独自に発明し、世界で唯一実装に成功した直接法SLAMや、深層学習とSLAMの統合など、当社がターゲットとしていた技術を「Artisense VINS」というプロダクトで製品化に成功し、市場投入しました。
これらは、共同プロジェクトのもとで多くの実証実験を実施し、想定以上に良好な顧客反応を得ており、市場におけるArtisense社の技術の有効性を検証することができました。
このように、本質的な成長力を支えるドライバーは依然として力強いことから、新製品の投入ができた今、会計基準だけでは包括的に捉えることが困難であった中長期的な成長性と、それに支えられた本質的な企業価値はほとんど変わらず保たれていると見ています。
2021年3月期における事業活動ハイライト
続いて、事業活動についてです。当期は前年比で大きな減収となりました。新型コロナウイルスと新製品投入の遅延の影響により、既存案件の進捗が大きく停滞したことが大きな要因となりました。
新型コロナウイルスの影響については、顧客各社のオペレーションの混乱や戦略の調整によって顧客側の研究開発計画の見直しが多く発生し、特に顧客の製品化見込みが不透明な案件に集中して影響が発生しました。
新製品投入については、第2四半期に予定されていた「Artisense VINS」の投入がサプライチェーンの混乱と社内開発の遅れの双方により第3四半期に遅延したことで機会損失が発生しました。
当社は、このような事業活動の停滞を好機と捉え、案件ポートフォリオの見直しに着手し、製品化と継続見込みがより高い案件への入れ替えを狙った案件の取捨選択を行い、より成長性を高めた案件ポートフォリオへの移行を実施しました。加えて、根本技術であるセンサ融合技術やAI統合など、次世代プラットフォームに寄与する技術ラインナップの強化にも大きく注力しました。
その結果、新製品が投入された第4四半期以降は回復基調に戻るだけではなく、前年比でより製品化見込みの高い案件ポートフォリオへの移行と技術ラインナップの拡充を完了することができました。したがって、当期を総合的に見ると、売上の減少に反して、実際にはより潜在的な成長力を高めることができた1年となりました。
事業開発の進捗(累積案件数の推移)
事業開発の進捗を示す累積案件の推移を見ると、売上の減速とは対照的に大幅にペースを加速した1年となりました。特に、Artisense関連案件が24件、Lidar案件が11件と、既存案件の減速を好機として実現した技術ラインナップの拡充の寄与が非常に高くなっています。
同じく、既存案件の減速に合わせて注力した案件ポートフォリオの入れ替えとあわせ、今後の案件拡大と顧客製品化への確度をより高めることができました。
このような案件の着実な積み上げと顧客製品化に向けた進捗は、大規模案件の顧客製品化を目指す当社の中長期戦略の前進を示しており、今期以降も継続していきます。
事業開発の進捗(顧客製品化の見通し)
個別案件の進捗については、売上の減速とは対照的に、各注力市場において市場タイムラインに沿ったかたちで商用化を見据えた評価や開発が進行しています。例えば、中国の自動配送ロボットOEMとは、「Artisense VINS」搭載ロボットのローンチ計画を見据えています。
また、NTTドコモとはARクラウドアプリケーションを開発し、すでに一般公開を実施の上で、今後の商用化に向けて動いています。
北米では医療機器OEMのARヘッドセットの製品化決定に向けた最終評価中であり、マッピングソリューションプロバイダとはすでに商用ライセンスを締結済みの上で、商用化に向けたソリューションを先方で開発中です。
2022年3月期 業績予想及び今後の成長性(短期)
こうした状況を踏まえて、2022年3月期以降の業績予想と成長性についてご説明します。今期は顧客製品化に向けた進捗を推し進めるべく、新規案件の積み増しと継続案件の大型化を中心に足元の回復基調を継続し、売上高を3億円から3億5,000万円と見込んでいます。なお、新型コロナウイルスの影響などが一部不透明であることから、売上高のみをレンジ開示します。
今期以降は、顧客製品化に伴う商用ライセンスの立ち上がりを見込んでいます。加えて、上振れ要因としてはArtisense社との事業開発加速、顧客開発支援の売上拡大と、それに伴う顧客製品化の前倒し、そしてCVC投資の収益などを期待しています。
2022年3月期 業績予想及び今後の成長性(中長期)
中長期については、蓄積した顧客案件の継続的な製品化により、商用ライセンスの拡大を目指しています。加えて、顧客製品の普及による技術の市場浸透を実現し、商用ライセンスの大型化、安定化によって飛躍的な利益拡大を目指していきます。
質疑応答:CVCの投資規模と投資ターゲットについて
飯塚:CVCの投資規模と投資ターゲットについてご質問をいただきました。
こちらは明確に公表していないのですが、基本的に我々はDeep Techの領域にいる会社ですので、人・物・金を大量につぎ込むようなビジネスモデルには投資しません。
一方で、やはり深い技術が必要であり、マネタイズに時間がかかることもよく分かっています。コンピュータビジョンに関係ない領域でアプリケーションレイヤーでも、比較的投資リターンが見込める領域は幅広く見ていこうと思っています。
したがって、投資のスタンスとしては、そこまで多額の投資をする予定はありませんが、投資ターゲットとしてはかなり幅広くIT企業を見ているのが正直なところです。
結果として、我々はコンピュータビジョンという「目」の領域にいますので、点と点がつながる瞬間は、会社の事業としても付加価値になると思っています。
質疑応答:2022年3月期のコストの増加について
「2022年3月期のコストは前期比でどの程度増加するでしょうか?」という数字面のご質問です。
2022年3月期の業績予想に関しては、売上のみの開示としています。新型コロナウイルスの影響があるとは言え、もともと10人、20人と大量に採用する会社ではありません。
よって、優秀な人材は5人程度増やしていく予定ですが、大きな投資は基本的にはArtisenseへの投資以外は考えていません。ご回答としては、今期より販管費が微増するかたちで考えています。2020年3月期から2021年3月期に増えたのと同じくらいのコスト増のイメージを想定しています。
質疑応答:従業員のモチベーション維持について
項:「赤字となり、従業員のモチベーション維持が困難となっていませんか?」というご質問をいただきました。
決算に関しては厳しい赤字となりましたが、ご説明したとおり、我々の事業の進捗としては、いかに製品化につながるか、継続化して大型化できる案件を持っていくかが事実上の内部的なKPIとなっています。したがって、赤字に関しては従業員のモチベーションにほとんど影響を与えていません。
むしろ2021年3月期は、製品化の見込みが不透明だった案件を取捨選択し、より継続性の高い案件に切り替え、技術ラインナップを強化し、より技術フィットのあるプロジェクトへ改善することができたと見ています。より中長期のスケールに近づいた感覚を持っており、従業員のモチベーションも維持している状況にあります。
質疑応答:2030年の売上・利益のイメージについて
飯塚:続いて、管理面の数字についてご回答します。「2030年の累積案件数が200件とのことですが、このタイミングにおける売上イメージ、利益イメージはどれくらいですか?」というご質問です。
スライドに中長期の我々の目指している数字感、規模を表していますが、明確に数字をお伝えすることはできません。目安は「2030年の累積件数が200件になったタイミングで製品化50件以上」です。ライセンスの製品化は大小あると思うのですが、平均が約2億円だとすると、100億円以上の目線感を持っています。
利益イメージとしては、変動費がそこまでかからない会社であり、ライセンスで収益性の高いビジネスモデルを持っていますので、100億円の売上になったとしても、利益率はかなり高く、半分以上の利益になるイメージを持っています。
明確な数字をお伝えできないのですが、私たちの持っている数字のイメージとしてはそのようなかたちになります。
質疑応答:Kudanの買収について
項:続いて、Kudanが「買収されることはないか?」というご質問をいただきました。
まず、グローバルにおいて我々が取り組んでいる技術領域である、コンピュータビジョン、人工知覚においては、近年、各関連会社において買収が積み重ねられてきました。
遡ること2015年から、Apple、Facebook、そして「ポケモン GO」を提供しているNianticなどの会社が、SLAMもしくはSLAMに関連する技術会社を買収し、そこから派生して業界の再編が進んでいます。
現在、KudanはArtisense社を含めて、独立系の会社として圧倒的なプレゼンスをすでに確立し、独立系の中ではオンリーワン企業になっています。したがって、我々としては、このオンリーワンのポジションを今後もキープしていくことを大前提として考えています。
また、他の独立系の会社においても、現在すでに大きなリードを保っていることから、まずはKudanとArtisenseのグループで今の位置を維持することが今後の戦略となっています。
質疑応答:NVIDIAについて
続いて、「NVIDIA関係で売上獲得のパイプラインはあるか?」というご質問をいただきました。
NVIDIA社に関しては、これまでも半導体やセンサ関連の企業とのパートナーシップを拡大してきました。我々としては、パートナーを経由し、共同で顧客獲得を目指す大きな一手となっています。
特にNVIDIA社は人工知能、ソリューションにおいて業界で非常にプレゼンスが高く、我々としては、NVIDIA社と今後の売上獲得のパイプラインにつながるような取り組みができると見込んでいます。なお、個別のパイプラインに関する開示は控えさせていただきます。
質疑応答:「embedded world 2021 DIGITAL」受賞の影響について
続いて、「embedded world 2021 DIGITAL」受賞の影響についてご質問をいただいています。
「embedded world」は、我々が取り組んでいる領域において非常に影響力が高いイベントであり、その中の一番プレゼンスの高い賞をいただけたことは、我々としては非常にマーケティング効果が高く、潜在顧客からの問い合わせ、また、そこからつながるパイプラインに関して大きな広がりを見せています。
我々としては、技術がすでに確立されており、第三者的に大きく評価してもらえるようなステージに上がれたということで確信を持っています。今後も「embedded world」に限らず、グローバルにおいて我々の技術がより広く広まるかたちでさまざまなイベントやマーケティング機会を活用していきたいと考えています。
質疑応答:技術者数の動向と今後の計画について
「Artisense社も含めた技術者数の動向と今後の計画を教えてください」というご質問をいただきました。
現在、KudanとArtisense社を含め、技術者は40名弱となっています。この動向としては、今後とも成長に合わせて増加の計画はありますが、とはいえ、我々が取り組んでいるのはアプリケーションの開発やプラットフォームの開発ではなく、Deep Techのアルゴリズムに相当するものですので、倍の人数をかけて倍のパフォーマンスが出る、もしくは倍の速度になるものではありません。したがって、基本的には少しずつ増やしていくことを大前提として考えています。
以上で、2021年3月期Kudan株式会社の決算説明会を終わります。みなさま、お忙しい中お集まりいただきまして誠にありがとうございました。