マーケットサマリー

インド株式市場は、昨年2月下旬から3月半ばにかけてコロナショックを受けて急落したが、その後反転し、上昇トレンドをたどっている。ただし足元はスピード調整局面にあり、2月半ば以降は上値の重い展開となっている。

一方、国債市場は2020年7月以降、一進一退の展開が続いている。本年3月からは、インド準備銀行が新年度(2021年4月-2022年3月)も公開市場操作を通じた国債買入れを続ける意向を示したことなどから堅調に推移(利回りは低下)している(4月9日現在)。

トピックス

バーナンキ・ショックの再燃? しかし現在の状況は当時と異なる

米国の大規模財政出動、景気回復楽観論、ワクチン接種の進展、インフレ期待の高まりを受けたこの数週間の米国債利回りの動きは、投資家に中期的な金利上昇と米国債イールドカーブのスティープ化への備えの必要性を喚起するという意味で、2013年のバーナンキ・ショックの再燃を予感させる。

他方、インド政府が2月初めに発表した経済成長重視の2021年度(2021年4月-2022年3月)予算案が示す政府の大規模借入計画とそれに伴うインフレ懸念の高まりは、インド国債市場に重くのしかかっている。

2013年には、米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和策の段階的縮小を示唆したために、新興国資産に対するリスクオフの動きと新興国からの資本流出が起こったが、このバーナンキ・ショックの再燃が、投資家にとって2021年の懸念要因として浮上している。

「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5つの新興国)」(ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコ)の中に組み入れられたインドの資本市場、通貨も2013年5月から8月にかけて打撃を受けた。しかし、当社の見方では、現在の状況は当時と大きく異なり、国内外でいくつかの打撃を軽減する要因が働いていると思われる。

第1に、ハト派姿勢を明確に示すFRBは、インフレ目標に平均値を導入したが、市場とのコミュニケーションにおいては一層の基準値の調整を行うことが見込まれ、リスクセンチメントをうまくコントロールすると見られる。

第2に、主要国中央銀行による金融緩和策の継続と予想される世界同時景気回復が緩衝材となる可能性がある。

第3に、当社では、インド経済の耐性を下支えする海外のファンダメンタルズが、2013年当時と比べると今のほうがずっと強くなっている点に注目している。

インドの経常収支は、2020年度(2020年4月-2021年3月)には、新型コロナウイルスの感染拡大を背景とした輸入の急減と比較的好調な輸出(医薬品輸出の増加が輸出全体を押し上げ)を主因として、著しく改善し、わずかながら黒字に転換した。

経常収支は2021年度には赤字に戻る見込みだが、赤字額の国内総生産(GDP)比は、2013年の4.8%と比べるとはるかに低い1%前後にとどまると予想される。

また、海外直接投資(FDI)については、2020年度にはコロナ禍に伴う投資計画の一時的な停止や世界的に直接投資フローの減少傾向が見られたにもかかわらず、インドへの対内投資が堅調に増えた点は注目される。

当社では、政府による国内産業の競争力強化とインドのグローバル・サプライチェーンへの統合の推進が近年の対内直接投資の増加につながってきたとともに、今後も海外からの投資の増加により経常収支赤字が減少する可能性が高いと判断している。

また、インドの外貨準備高は2020年に大幅に伸びて過去最高を記録し、2013年のバーナンキ・ショックの前後数年を大きく超え、外国為替ショックに対する緩衝材もそれだけ強化されている。

さらに、インド国債の外国人保有率は依然として低いが、2020年にはコロナ要因で外国勢のインド国債保有が減少しており、2021年にはその分、外国勢の売りが和らぐものと考えられる。因みに、インド国債は米国債と比べ依然として高い利回りを維持している。

マイナス面としては、インドの財政赤字は現在、2013年のバーナンキ・ショック当時をはるかに超える規模に膨らんでいる。政府が大規模借入計画を打ち出したため、インド国債市場ではインド準備銀行(中央銀行)による下支えが欠かせなくなっている。

しかし、中央銀行は流動性管理ツール(例えばより積極的に公開市場操作で流動性を供給するなど)を備えているものの、米国債の名目/実質利回りが上昇し、インフレ懸念が高まる状況下では、難しい舵取りを迫られることが考えられる。金融および財政政策はすでに超緩和的なものとなっており、ターム・プレミアム(期間による上乗せ金利)が歪んだ水準にあるため、僅かな資本流出やリスクセンチメントの変化であっても、新興国の債券市場は大きく変動しかねない。

当社では、中央銀行による流動性の過剰供給や債券市場への過度な介入は、特に市場の変動が激しくなれば、何らかの制約を受けると見ている。

インフレ・リスクは今のところ管理可能だが、上振れリスクあり

3月末、政府は中央銀行と今後5年間のインフレ目標レンジを2%~6%で維持することで合意した。合意前には、成長を優先する政府の意向を反映して目標が緩和されるという観測が流れていた。総合インフレ率は2020年に一時高水準で推移していたが、12月以降は中銀目標レンジの範囲内に落ち着いてきた。

しかし、当社では、インフレ率は2021年度のほぼ全期間を通して中銀目標中央値の4%より高い水準で推移すると予想している。短期的には、世界的な原油や商品価格の上昇、広範囲にわたる国内需要回復、一部の製品については企業の価格転嫁によるコスト・プッシュ圧力から、インフレ率の上振れリスクは高まっている。

また、インドの関税率の高さも関連製品の供給面でのインフレ圧力となるほか、食料価格の変動にも引き続き注意が必要である。コア・インフレ率はずっと高い水準で推移している。衣類・履物、家庭用品・サービス、ヘルスケアなどの部門では、店舗での業務が正常化するにつれ、インフレ圧力が顕在化しつつある。

しかし、マイナスの需給ギャップが潜在的な需要圧力を抑制している現状を勘案すると、中央銀行にとって短期的に優先すべき政策はインフレ対策とはならないことも考えられる。通貨供給量の拡大、潤沢な流動性はリスクとなりうるが、それらの効果がインフレに波及するまでには半年から1年を要する。

中央銀行は、オペレーション・ツイスト、満期保有投資(HTM)制限、預金準備率の引き上げなど様々な政策ツールを駆使して、すでに余剰流動性の吸収を進めている。

原油価格の反騰は、供給面でのインフレ圧力、消費者購買力への影響、さらに貿易条件、貿易収支、経常収支の悪化という形で、インド経済にとって逆風となるが、今のところマクロ経済上の大きなリスクにはなっていない。物品税の引き上げについては、政府は原油価格上昇の逆風が吹く時に使うべきバッファーとして、この負担を元に戻せばよいのではないかと当社は考えている。

一方、インドルピーの為替相場が比較的安定して推移し、中央銀行の政策運営が功を奏せば、輸入インフレを防ぐことも可能かもしれない。

株式市場

上昇基調続く、ただし足元ではスピード調整局面

インド株式市場は、2020年2月下旬から3月半ばにかけて、新型コロナウイルスの感染拡大を背景とした世界的な株安を受けて急落したが、その後反転し、上昇基調を続けている。

世界的な新型コロナワクチン普及への期待と世界経済の回復見通し、国内では景気指標の改善、良好な企業決算などが上昇基調の背景にある。ただし、足元ではスピード調整局面にあり、2月半ば以降は上値の重い展開となっている(4月9日現在)。

HSBC投信の株式運用戦略

インド株式市場は、当面は世界および国内の新型コロナウイルスの感染状況、ワクチン普及の状況に強く影響を受けることが考えられる。

当社は中長期的にインド株式市場に対する強気の見方を維持している。インド経済の成長ポテンシャルは高く、構造改革の進展から、長期的に成長率は高まると見られている。与党インド人民党(BJP)が安定した政治基盤のもとで高成長・構造改革路線を継続すると見込まれることも、株式市場にとり強力なサポート要因となる。

インド株式の運用では、持続的な収益成長性を有しながらバリュエーションに割安感のある銘柄を選別する。業種別には金融と不動産をオーバーウェイトとし、一般消費財、生活必需品をアンダーウェイトとしている。またインフラ関連銘柄は、モディ政権が推進するインフラ投資計画の恩恵を受けると見込まれる。

債券市場

3月以降は堅調に推移

インド国債市場は、2020年7月以降、一進一退の展開が続いるが、本年3月からは堅調(利回りは低下)となっている。

FTSEラッセルがインド国債のFTSE世界国債インデックスへの組入れを検討しているとの報道、中央銀行が新年度(2021年4月-2022年3)も公開市場操作を通じて国債買い入れを続ける意向を示したことなどがプラス要因となっている(4月9日現在)。

HSBC投信の債券運用戦略

インド債券市場は、グローバル投資家にとり良好な投資機会を提供している。新型コロナウイルスによる経済的混乱が収束するに伴い、インド経済の優位性が一段と注目されよう。インド国債の相対的に高い利回り水準にも妙味がある。

インド債券の運用においては、引き続きインドルピー建国債に重点を置いて投資を行っている。また、短中期のインドルピー建社債を選好している。一方、米ドル建インド債券には慎重な姿勢を維持する。

為替市場

インドルピーは足元では対米ドル、対円で軟調

インドルピーは対米ドルでは昨年11月以降上昇基調にあったが、本年3月からは米国の長期金利上昇に伴う米ドル高を受けて下落している。対円では本年1月以降、円安の進行を受けて上昇傾向にあったが、4月に入り下落している(4月9日現在)。

インドルピー相場は、長期的には、相対的に良好な経済ファンダメンタルズや高い金利水準、潤沢な外貨準備高などが支援材料となり、堅調な展開が予想される。