本記事の3つのポイント
- スマホにおける有機EL搭載比率が上昇。21年には40%に達し主役に
- 今年から折り畳み可能なフォルダブルタイプが登場、部材にも新たな技術ニーズ
- 従来型には必須だった偏光板を使わないケースも。他部材で偏光板の機能を代用する
有機ELディスプレーは、アップルがiPhoneの2017年モデルに採用すると、スマートフォン市場で急拡大を遂げた。調査会社のOmdiaによれば、21年にスマホの有機ELの搭載率は40%に高まり、メーンストリームになるという。中国スマホメーカーの有機EL搭載台数は、20年の約7000万台から21年は1億台に拡大し、液晶とほぼ同等価格を実現できるようになった、リジッド有機ELの搭載が大きく伸びるとしている。
スマホで採用される有機ELディスプレーには、リジッドタイプ(ガラス基板)とフレキシブルタイプ(フィルム基板)があるが、薄く、軽くできること、筐体の側面もカーブさせてディスプレー化できることなどで、フレキシブル有機ELのニーズが高まっている。また、20年モデルのiPhoneではフレキシブル有機ELパネルが採用されたことから、サプライヤーの稼働率も上がっている。
フレキシブル有機ELにより、次世代デバイスとして期待されるのがベンダブル/フォルダブルスマホだ。折り曲げ可能な(フレキシブル)パネルが登場したことで、近未来的なデバイスの実現がより身近になった。
21年はフォルダブルスマホの元年に
20年はフォルダブルディスプレーの元年になると見込まれていたが、コロナ禍で後ろ倒しになった。調査会社のDSCCによれば、21年はサムスンディスプレー(SDC)が折りたたみ式パネルの提供を開始する計画で、より実用的なフォルダブルスマホの上市が本格化しそうだ。すでにVivo、シャオミー、グーグルが、21年中にSDCのパネルを採用した折りたたみ式モデルを1種類以上発売する計画だという。シャオミーは、3種類の折りたたみ式モデルを21年に発売する計画で、うち2モデルにSDCのパネルを採用するという。
この新しいデバイスには、折り曲げに強い部材が求められることが、既存のデバイスとは大きく異なる点だ。折り曲げる部分の応力に耐える強い部材が求められ、またさらに言えば、折り曲げなければならない部材点数は、少なければ少ないほど良い。このため、これまではディスプレーの必須部材とされてきた偏光板さえも無くした「偏光板レス」化の動きも出始めている。
偏光板は、バックライトの光のON/OFFで映像をコントロールする仕組みの液晶ディスプレーにおいては必須部材であり、2枚必要だ。対して、自発光の有機ELディスプレーは1枚のみで良い。もっと言うと、偏光板は無くても良い。有機ELディスプレー内には陰極があるため、パネル内で反射する(外光が入射して跳ね返る)光を制御する必要があり、その機能を円偏光板(光を円状に反射させる偏光板)が担っているが、この反射する光をコントロールできれば、偏光板である必要はなく、他の部材に同様の機能を持たせることで代用することも検討されている。
偏光板部材に強い日本メーカー
中小型パネル市場では、スマホは有機EL化が進み、今後タブレットやモニターにも搭載されていくと見られている。さらに中国を中心とするスマホブランドメーカーは、フラグシップモデルを有機ELからフォルダブルへシフトする動きも見え始めている。
一方で大型パネル市場(テレビ)では、まだまだ液晶が主流であることから、偏光板が無くなることはない。偏光板を構成する部材は、日本メーカーが強い分野だ。まず、偏光板の主要部材である偏光子(PVA)は、クラレ、三菱ケミカル(旧日本合成化学工業)の2社が市場の8~9割を保持し続けている。偏光子を挟む光学フィルムにはTACフィルム、PETフィルム、PMMAフィルム、COPフィルムがあり、このうち単なる保護の役割をするプレーンTACは、PETやPMMAにより一部置き換えが進められ、6:4(TAC:非TAC)の割合で採用が落ち着いている。PETフィルムは、東洋紡が1社供給している。
PMMAは偏光板メーカーの住友化学、日東電工、LG化学が手がけるが、LG化学は偏光板事業を中国メーカーへ売却。住友化学、日東電工も中国メーカーへの技術供与を進めており、今後中国で偏光板の生産が進んでいく流れだ。
保護だけでなく、位相差などの機能を持つフィルムとしては、TACやPMMA、COPが採用されており、TACは富士フイルム、コニカミノルタが2強で、すでに保護TACの量は追わずに機能フィルム(位相差)への注力展開を進めている。コニカミノルタは新たにPMMAフィルムの「SAZMA(サツマ)」ブランドの展開も図っている。
位相差のCOPは日本ゼオンが1社供給の市場であったが、コニカミノルタが「SANUQI(サヌキ)」ブランドで参入を果たし、2社供給体制が始まりつつある。
さらに、この保護・偏光子・位相差で構成される偏光板そのものを保護するPETフィルムもあり(最終製品には残らない)、こちらも日本メーカーの東レが強い。同社は離型フィルムで高シェアを持つが、先般発表した新製品のOPP(2軸延伸ポリプロピレン)フィルムでは光学部材への参入も視野に入れており、今後プレーンな保護フィルムはTAC、PMMA、PET、OPPフィルムとなっていく可能性もある。
富士、コニカは中小型でも存在感発揮
これら偏光板部材メーカーは、大型だけでなく中小型にも製品を展開している。TACフィルムの老舗でありトップメーカーである富士フイルムとコニカミノルタの取り組みについてご紹介する。中小型市場では液晶→有機EL、薄型化、軽量化が顕著だが、両者は他社が追随できないレベルの高機能光学部材を展開している。
富士フイルムでは、長年培った塗布技術を用いて、10μm以下の薄さを実現する転写フィルムを展開している。有機ELスマホの円偏光板部材として用いられ、すでにハイエンドスマホではディファクトスタンダードだ。「4分の1λ(ラムダ)」と「2分の1λ」の機能を持つこの転写フィルムは、基材とするフィルムに機能を付加するのではなく、機能そのものだけを残すことができるため、10μm以下をたやすく達成できるという。さらに、フォルダブル向けにPVAに変わる薄型機能部材の検討を進めている。これも、塗布技術を用いた超極薄な光制御部材であり、フォルダブルの偏光板レス化に攻め込んでいく。
コニカミノルタでは、フォルダブルの最表面部材を視野に、極薄フィルムを提案していく。延伸タイプのフィルムでは、10μm以下レベルの薄さを実現することは元来困難だといわれているが、同社はこれを実現させる技術力を持つ。
COPフィルムのサヌキについては、大型から中小型向けまですべてに展開する戦略だ。有機ELディスプレーテレビ向けに円偏光板(4分の1λ板)の展開も計画している。また、薄型化も可能なため、中小型偏光板向けで保護/位相差フィルムとして展開を進めるほか、屈曲性も高いという特性から、フォルダブルディスプレーのカバーウィンドウ向けに厚さ13~20μm品を開発中だ。
ディスプレー市場は、コロナ特需という要因を除けば成熟期にあり、右肩上がりの急カーブが見込める市場ではないものの、薄型化、高解像度化、高色域化、有機EL化やフレキシブル化など新しい部材が求められるアグレッシブな変化が常にある。今後、偏光板そのものは中国への生産シフトが進むと見られるが、それを構成する部材については、日本メーカーの牙城は崩れそうもない。また、中小型市場における有機ELディスプレーの偏光板レス化についても、他部材展開を視野に動き始めている。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子
まとめにかえて
韓国サムスン電子がスマホ市場における有機ELの先鞭をつけ、アップルのiPhoneでの採用が市場トレンドの流れを決定づけたといえるでしょう。液晶は廉価モデルなど低位機種では今後も残り続けますが、中~上位機種の主役は間違いなく有機ELです。今後は液晶にはなくて有機ELにある、折り曲げ可能な特徴を生かした製品展開が期待されています。
電子デバイス産業新聞