2020年の半導体用シリコンウエハー市場は、新型コロナや米中対立などのマクロ環境の大きな変化にもかかわらず、堅調に推移した。300mmウエハーのうち、特に先端ロジックで用いられるエピタキシャルウエハー(EPW)の需要が旺盛で、一部では供給が追いつかない状況にもなりつつある。また、自動車や産業機器市場の低迷で需要が軟化していた200mmウエハーも20年末から状況が一変。需要が急回復しており、半導体メーカーのあいだでは200mmウエハーの確保をめぐって、争奪戦に発展しそうな状況だ。

20年出荷面積は5%増

 業界団体SEMIによれば、20年のシリコンウエハー出荷面積は前年比5%増の124億平方インチと、18年に記録した過去最高水準に迫る勢いとなった。一方で、販売額は横ばいの112億ドルとなり、平均売価は低下したことが見て取れる。19年末からのメモリー市場の軟調を受けて、主にポリッシュドウエハー(PW)を中心に値崩れが発生。スポット価格の下落に長期契約分も引っ張られたとみられる。

 20年の300mmウエハーの需給バランスは需要が約650万枚だったのに対して、供給は約690万枚で推移し、供給過多によって需給ギャップが起こったとみられる。また、海外の一部メーカーが値下げ競争に走ったこともこれに拍車をかけた。

需給均衡には至らず

 ただ、足元では先端ロジック向けEPWの需要が非常に強いほか、200mmウエハーも復調してきたことから、21年以降は需要の回復・拡大に期待が持てる状況となっている。国内大手2社のうち、SUMCOの20年10~12月期業績は、売上高が前四半期比1%増の726億円、営業利益が同23%増の81億円と増収増益を記録。信越化学工業も10~12月期は前四半期比で減収だったものの、引き続き高い営業利益率をキープしている。

 21年の300mmウエハーの需給バランスは現状で、需要が約700万枚に対して供給が約720万枚と、20年に比べてギャップは小さくなっているが、まだ均衡状態には至っていない。主にメモリー向けでのウエハー需要低下が影響しているとみられる。ただ、22年以降はウエハー各社の増産ペースよりも需要が上回る可能性が強まり、「22年1~3月の需給が最もタイトになる」(証券アナリスト)との見方もある。

23年以降は「グリーンフィールド投資」

 20年の地合いが良くなったこともあり、21年の長期契約分はウエハー各社によっては満足いく内容ではなかった可能性があるが、足元の逼迫度合いを考慮すれば22年からの本格的な価格値上げ(値戻し)を目指して、価格交渉に向けた現況は悪くなさそうだ。

 22年までのウエハー供給能力の増強分は、主に既存スペースに生産設備を追加する「ブラウンフィールド投資」で対応できるが、23年以降は建屋建設から行う「グリーンフィールド投資」が必要になり、投資負担は一層重くなる。ウエハー各社にとっても、顧客要請に従って能力増強を行うためにも、「ウエハー価格の適正化」は避けて通れず、21年の需給環境は翌年以降の供給各社の収益性を左右する大きなポイントとなりそうだ。

 対照的に200mmウエハーは供給各社が能力増強に消極的で、既存キャパをめぐって争奪戦に発展している。顧客企業である半導体メーカーとしては、値上げを飲んでも安定在庫を確保するか、300mmウエハーへのプロセス変更も視野に入れなければいけない事態となっており、300mmウエハーよりも逼迫感は強まっている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳