有機EL材料ベンチャーのKyulux、発光材料の基本特許を譲受

実用化へ36億円超を調達

HFを採用したWiseChipのパッシブ有機EL(左)は既存品より明るい

 有機EL材料ベンチャーの㈱Kyulux(キューラックス)は、九州大学から次世代有機EL発光技術「ハイパーフルオレッセンス(HF)」の基本特許の譲渡を受けることに合意した。譲渡によって製品化を加速させ、競争優位を確保し、企業価値を高める。この実現に向け、シリーズB-Primeラウンドの資金調達で36億2500万円を調達した。

第4世代の発光材料を開発中

 現在の有機ELディスプレーには、発光材料として、赤色と緑色には燐光発光材料、青色には蛍光発光材料が使われている。蛍光発光材料は性能や寿命に優れるものの、理論上、流した電気の25%しか光に変換できない。一方、燐光発光材料は理論上、電気を100%光に変換できるが、材料にレアメタル(希少金属)を使用するため高価なのが課題だ。

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 これらに次ぐ「第3世代の有機EL発光材料」と呼ばれるTADF(熱活性化遅延蛍光)は、高価なレアメタルを用いることなく発光効率100%を実現できるとして期待を集めている。もとは九州大学の安達千波矢教授が開発した材料で、KyuluxはTADFに加え、「超蛍光」と呼ばれるHF技術も開発している。HFは、TADFを発光材料として用いず、既存の蛍光発光材料のアシストドーパント(添加剤)として活用し、すでに優れた寿命や発光波長を実現している既存の蛍光発光材料の性能を飛躍的に高める「第4世代の有機EL発光材料」である。

量産出荷を開始、資金調達で事業化加速

 Kyuluxは2015年に九州大学からHF技術の独占的実施権を獲得し、16年には材料の特許の譲渡を受けて実用化を推進。17年に台湾のパッシブ有機ELメーカーWiseChip SemiconductorがKyuluxのHF技術を用いた成果を披露し、黄色の単色発光パッシブ有機ELディスプレーに採用した。WiseChipはこのパネルを19年11月から量産し始め、Kyuluxは20年4月からHF材料の量産出荷を開始した。

 Kyuluxは、これまでシリーズAとBで計50億円を調達したが、今回は国内外のベンチャーキャピタルと事業会社から36億2500万円を調達した。これに際し、シリーズB-Primeのリードインベスターである中国のベンチャーキャピタルShanghai Pudong Science and Technology Investmentの投資ディレクター、Zou Jun博士が社外取締役に就任した。

 Kyulux代表取締役社長兼事業開発責任者の中野伸之氏は「開発サイドと一体となって早期の顧客獲得、製品の上市を実現するのと並行して、パートナーとの業務提携で将来の量産体制構築を進めていく。Zou Jun博士の加入は、今後注力する中国市場の開拓に大きく貢献する」と述べた。

事業提携で22年に量産採用目指す

 Kyuluxは、20年8月に米国で開催されたディスプレーの国際学会「SID2020」で、HFの開発について最新の進捗状況を公表している。主な性能は半値幅、効率(cd/A@10mA)、寿命(LT95@1000ニット)の順に557nmの黄色=90nm/39/2万700時間、617nmの赤色=44nm/32/3万7000時間、519nmの緑色=31nm/81/9500時間、470nmの青色=23nm/43/250時間としている。

 開発をさらに加速するため、20年10月に化学品大手の日本曹達㈱と新規化合物の共同開発契約を締結した。日本曹達が長年培った高い有機材料の開発力と広く深い合成のノウハウで、TADFの高性能化・高品質・大量生産能力を飛躍的に高めることを目標に、新規中間体の共同開発に取り組む。Kyuluxでは、提携を足掛かりにHF青色発光材料の寿命(LT95)を250時間から早期に700時間まで引き上げる考え。引き続き低分子系でHF発光材料の開発を進め、まずはスマートフォン用有機ELへの量産採用を目指し、21年から量産テスト、22年に量産採用、23年にはIPO実現を目指している。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏

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執筆者
津村 明宏
  • 津村 明宏
  • 株式会社産業タイムズ社 電子デバイス産業新聞 編集長

1995年3月に関西大学経済学部卒。1999年3月 ㈱産業タイムズ社に入社。電子デバイス業界の専門紙である電子デバイス産業新聞(旧・半導体産業新聞)の記者として、2007年より副編集長、2009年12月より編集長。