いまは空前の「独学」ブームです。教養などの知識を身につけるためだけではなく、不安定な時代を乗り切るための武器として、専門知識の習得や、資格の取得に励む人も増えています。

 その意欲があるのは、若い人たちだけではありません。出世コースから外れ、いつ「早期退職」の候補に挙がるかわからず不安を抱えている中年世代が、新たなキャリア構築のために資格取得を目指すのは、珍しいことではなくなっています。しかし、気力や体力、記憶力が落ちる中年世代ともなると、仕事をしながら資格試験に挑むのは簡単ではありません。私も窓際社員だった40代から社会保険労務士試験に挑戦して50歳で合格しましたが、効率よく勉強するにはコツが必要でした。

 この記事では、拙著『おじさんは、地味な資格で稼いでく。』をもとに、自分のような「凡人」でも資格試験に合格できた勉強法について解説します。

試験合格のための「準備」からはじめる

 試験に合格するには、「モチベーションの低下を防ぐ」「勉強に対する心構えを持つ」「勉強を続ける仕組みを作る」なども必要です。まずはそのための方法を紹介します。

・会社の人には「絶対に内緒」にする

 勉強失敗の最も大きな要因は「モチベーションの低下」です。周りから「いまさら資格を取ったところで役立つの?」と言われ、勉強をやめてしまう人は数多くいます。そのため、「業務命令で試験を受ける」あるいは「業務に関連する資格の取得を会社が奨励している」といった場合以外は、試験を受けることは口外しないことです。

 これは、人員の少ない中小企業で働いているならなおさらです。会社、とくに直属の上司は、目の前の仕事に全力投球する社員を好みます。表面上は励まされても、内心では「本業の手を抜いている」ととられ、最悪、リストラ(退職勧奨)候補者の一人になってしまうかもしれません。

・まずは試験に「体を慣らす」

 多くの人は社会人になると「試験を受ける機会」がなくなるため、久しぶりに試験を受けることに負担を感じて、申し込んだものの、忙しいなどの理由をつけて逃げてしまう人が多いのです。まずは「試験を受ける」体験から始めましょう。

 受験予定試験の直近の申し込みが間に合うのであれば、とりあえず受験してみます。最新の出題情報がわかるので、予行演習となります。ただし、結果は気にしないでください。十分に勉強していない状態で試験を受けるため、当然、不合格になりますし、悲惨な点数を取ってしまうこともありえます。でも、くじける必要はないのです。

・学習計画は「質より量」で立てる

 試験に向けた学習計画を立てるときに重要なのが、「合格に必要な勉強時間をやりきること」です。暗記が主体となる資格試験においては、質より量が重要です。

 多くの試験には、合格に最低限必要な勉強時間というものがあります。「集中して勉強すれば、こんなに時間をかけなくても合格できるはず」と、根拠のない自信で自分を過信してはいけません。そして勉強を始めたら、1日の勉強時間を必ず記録してください。月末にその月の勉強時間を集計し、目標時間に達していなければ翌月以降で補填します。

確実に実力が身につく「教材」の選び方

 続いては、試験勉強のための教材をどう選ぶか、どう使うかという点について解説していきます。

・信頼できる「紙の本」がやっぱり最強

 最近は無料で学習できるコンテンツも増えていますが、個人が作成した無料の学習動画などは専門家によるチェックがないため、誤った情報を覚えてしまうリスクがあります。最初は信頼のおける市販の書籍で勉強するのが効率的です。

「本はネットで買う」という人も多いと思いますが、テキストは実際の書店で現物を手に取り、中身を見てから購入しましょう。通販サイトでコメントが多く評判の良いテキストでも、使ってみると意外と自分に合わないと感じることがあるからです。

 テキストの購入を判断する際は、「目にやさしい紙面になっているか」「図が分かりやすいか」「ボリュームは適切か」「索引が充実しているか」「内容に則した適切な階層化がされているか」といった点を確認しましょう。

・テキストと問題集を「著者買い」する

 問題集や直前対策本などは、使っているテキストと著者が同じもの(出版社も同じであればなおよい)があれば、そろえたほうがよいでしょう。著者が同じであると、内容に関連性や統一性が出ます。テキストで勉強した形式の問題が問題集にも載っていて確認ができたり、解説されている解き方が一致していて理解しやすかったりと、メリットは多いのです。

・試験直前に教材を「浮気しない」

 いざ勉強を始めると、テキストが「いまひとつ合わない」、「解説が分かりづらい」などと感じることはあります。そんなときは迷わず切り替えてください。もったいないからと、自分に合わないテキストを使い続けて試験に落ちるほうが、時間もお金も無駄になります。

 また、メインのテキストと問題集のほかに、不足している分野を補う本を1冊、買い足すのはありです。ただし試験まで1カ月を切ったら、新たな教材を買い足してはいけません。手元にある教材を繰り返し活用して理解度を深めましょう。

筆者の佐藤敦規氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

効率的な「インプット」のしかた

 おじさんにもなると、多くの人が記憶力の低下を感じているのではないでしょうか。ここでは、効率的の良いインプットのコツを紹介します。

・テキストの「目次のコピー」を持ち歩く

 資格試験の勉強では、全体構造を把握してから取り組みましょう。とくに法律関連の学習では、詳細や例外だけに注意していると、「その法律の本来の目的」といった本質的な部分が見えなくなってきます。

 全体像の把握のために効果的なのが、テキストの目次をコピーして持ち歩き、学習した項目をチェックしたり、日付をメモしたりすることです。学習を始める前にも目次に目を通して、今日学習することは全体のどの位置にあたるのか、前回学習したこととどう関係するのかなどを確認します。

・「寝る直前」が暗記のゴールデンタイム

 インプットで大事なのは、「寝る前に行うこと」です。勉強してすぐに寝ると、睡眠中に記憶が整理され、情報が脳に定着しやすくなるからです。

 ただし、演習問題や新分野のテキストを読むといった刺激の強いことをすると、脳が興奮して眠れなくなります。寝る直前はその日にインプットしたことの復習や、演習問題で間違えた箇所の再確認などを行うようにします。

・実戦対策のスタートは「過去問を解く」ことから

 問題集を徹底的に仕上げるのであれば、作り手の主観が入っている予想問題よりも、過去問のほうが効果的です。

 解くタイミングは3回あります。1回目はテキストを一度読み終えたあと、直近の試験をまとめた過去問を解き、使っているテキストが試験の出題範囲を網羅しているかどうかを確認します。その後、分野ごとにテキストで再確認したら、次は分野ごとにまとまった過去問を解き、内容の理解度を確認します。ただ解くのではなく、正解できたかどうかを問題の横に記録していきます。最後は試験の1カ月から2週間前に、過去5年分くらいの過去問を通しで解きます。点数が悪かった分野はテキストを再度読み込み、基礎から確認します。

 もちろん、勉強法にも相性があり、こうしたやり方で必ず合格できるとはかぎりません。私も社労士試験に4回目の挑戦で合格しましたが、失敗するたびに、やり方を変えて、勉強を続けていきました。たとえ一度や二度やってダメでも、自分の可能性を信じ、あきらめずに挑戦し続けることが大切です。

 

■ 佐藤 敦規(さとう・あつのり)
 社会保険労務士。中央大学文学部卒。新卒での就職活動に失敗。印刷業界などを中心に転職を繰り返す。窓際族同然の扱いに嫌気がさし、50歳目前で社会保険労務士試験に挑戦し合格。三井住友海上あいおい生命保険を経て、現在では社会保険労務士として活動。企業を相手に、就業規則や賃金テーブルの作成、助成金の申請などの相談を受けている。資格取得によって収入が200万アップするとともに、クライアントの役に立っていることを実感し、充実した生活を手に入れた。お金の知識を活かして、セミナー活動や、「週刊現代」「マネー現代」「THE21」などの週刊誌やWebメディアの記事も執筆している。

 

佐藤氏の著書:
おじさんは、地味な資格で稼いでく。

佐藤 敦規