ここ最近、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)やブルームバーグといった有力メディアで中国経済の先行きを不安視する報道が相次いでいます。

国際通貨基金(IMF)が中国の過剰債務問題について改めて懸念を表明したほか、経済指標も冴えないことから、中国経済の先行きに対しては警戒感を強めたほうがよさそうです。

IMFが再び警告、過剰債務問題で成長率の急減速を懸念

IMFは10月14日のリポートで、中国の信用の伸びは世界的な標準から見て「非常に速い」と指摘し、包括的な戦略を講じて債務問題に対処しなければ、金融危機を招く恐れやGDP成長率が急減速するリスクを高めるとの見方を示しました。

8月に公表した中国経済に関する年次審査報告書でも、企業債務が拡大する問題に早急に取り組むよう促すなど、IMFは過剰債務問題に対してこれまでも繰り返し警鐘を鳴らしてきました。

しつこく警告している背景には、中国政府がこの問題に迅速に対応している様子がうかがえないこと、日本やタイ、スペインなどで発生した金融危機との類似性に着目すると中国の状況は既に臨界点に達している可能性があることがあります。

中国の企業債務残高は2015年末に国内総生産(GDP)の144%となり、150%程度だった日本のバブル期並みの水準に達していましたが、現在では169%と日本のバブル期を追い越した模様で、2021年には210%へとさらに膨らむことが予想されています。

中国の銀行の9月の新規企業融資は1兆2,200億元と、8月の9,487億元から拡大しており、企業債務残高は膨らみ続けています。

IMFは中国政府が迅速に行動した場合、2017年のGDP成長率は一時的に6.0%を下回るものの、中長期的には6.5%を回復できるとしています。

一方、対策を講じない場合、不良債権問題が成長の足かせとなり、向こう5年でGDP成長率は5.0%程度まで低下していくと予想しています。さらに、金融危機が発生した場合には3.0%以下へと急降下するリスクがあるとしています。

3年以内に金融危機が起こる恐れ

IMFのみならず、国際決済銀行(BIS)も同様な指摘をしています。BISは9月18日に公表したリポートで、中国の過剰な与信の伸びが、3年以内に金融危機に陥るリスクを高めていると警告しています。

BISのリポートによると、金融の過熱感を示す早期警戒指標となるGDPに対する総与信(企業と家計)比率と長期トレンドとのギャップが30.1%ポイントとなり、「今後3年間で金融危機が起きる」シグナルとされる10%ポイントを大きく上回っています。

WSJは住宅バブルに警鐘

10月19日付のWSJでは、中国での住宅バブル、特に住宅購入者への安易な信用供与に警鐘を鳴らしています。

新規融資に占める住宅ローンの割合は7-9月期に60%へと上昇、4-6月期の47%、1-3月期の23%から急拡大していますが、この背景として銀行がほぼ無審査で住宅ローンを提供している実態が紹介されています。

平均的な年収の家計が何年で住宅を購入できるかを計算してみると、深センで41年、北京で34年、上海で32年となっており、東京の23年、ニューヨークの15年などと比べて著しく長いことから、住宅ブームが過熱していることを示唆しています。

下げ足を速める人民元を注視

ここ数週間のマーケットの動きのなかで最も警戒が必要なのが人民元の動きです。人民元は9月まで1ドル=6.6元台後半で推移していましたが、10月に入ってからは下げ足を速めており、10月20日現在は6.7元台半ばと、2010年9月以来6年1カ月ぶりの安値圏にあります。

一方、9月の外貨準備高は3兆1,660億ドルと前月比188億ドル減少しました。減少は3カ月連続で、2011年5月以来5年4カ月ぶりの低水準となっています。

外貨準備高は2014年6月の約4兆ドルをピークに、おおよそ2年で20%以上減少しています。人民元を支えるために介入を実施している模様ですが、10月に入り人民元安が加速していることから中国からの資金流出も拡大しているのではないかと不安視されています。

ソシエテ・ジェネラルは18日、人民元が今後1年で1ドル=7.1元に向かうと予想したほか、ドイツ銀行が13日のリポートで2017年末に7.4元、2018年末には8.1元との見通しを明らかにしており、人民元の先安観が広がっています。ドイツ銀行は向こう数カ月は資金流出の勢いが強まるとし、2017年1-3月期のGDP成長率は6.2%に低下すると予想しています。

GDPは安定しているが、輸出は振るわず内需にも不安

中国のGDP成長率は7-9月期まで3四半期連続で6.7%と非常に安定しています。中国政府は今年3月、2016年から2020年までの5年間の成長目標を6.5%以上とすると発表していますが、2016年についてはクリアすることが間違いなさそうです。

問題は来年以降となりますが、過去の高度成長を支えてきた輸出が落ち込んでおり、高い成長の維持を困難にする恐れがあります。

9月の貿易収支は420億ドルの黒字と、予想の530億ドルを下回りました。輸出が前年同月比10.0%減と、予想の3.0%減を大幅に下回ったほか、輸入も1.9%減と1.0%増の予想に反して減少しており、外需と内需がともに弱かったことを示しています。1-9月の累計では輸出が前年同期比7.5%減、輸入が8.2%減となっています。

輸出を支援するために人民元安を放置するのではないかとの見方もありますが、これは中国からの資金流出を加速する恐れがあり、もろ刃の剣と言えるでしょう。

中国政府は住宅価格抑制への動きを本格化させていますので、住宅価格の上昇は早晩頭打ちになることが見込まれていますが、歩調を合わせて不動産投資も勢いを失うことになりそうです。

小型車への優遇税制も年内に終了の見通しで、駆け込み需要から年内の自動車販売は堅調が見込まれる一方で、年明け後は反動減が警戒されています。

中国経済を支えてきた不動産投資や自動車販売の先行きが怪しくなっており、来年以降の見通しには慎重さが求められるかも知れません。

 

LIMO編集部