マクロ経済面からも終身雇用は望ましい

景気後退時に簡単に解雇が行われるようだと、所得を失った人が消費をしなくなるので、景気がさらに悪くなっていくということが懸念されます。それに対し、企業が終身雇用制を採用していると、不況の時も解雇が増えないので個人消費が落ち込まず、景気の落ち込みが緩やかなものにとどまる、 ということが期待されます。

今回の新型コロナ不況に際しても、企業が雇用を維持したことが消費の激減を緩和し、景気の落ち込みをある程度防ぐ効果があったのだろうと思われます。

終身雇用制の変質は長寿化と株主主権が主因に

もっとも、終身雇用制が従来のままの形で続いていくとは考えにくいですね。理由としては、人々が長生きをするようになったことと、企業が従業員の共同体から株主の持ち物に変質したこと、が挙げられるでしょう。

人生100年時代を迎えて、1つの会社に働く期間が定年延長でどんどん伸びていくと言うよりは、ある程度のところで退職をして、その後第二の人生に挑戦する、という動きが活発化していくことが予想されます。今の職場で輝けないなら、自分を必要とする職場を探してみよう、というわけですね。

もう一つは、企業の変質です。企業が従業員の共同体であった時代は、従業員の雇用の確保が最優先でしたが、企業が「株主の金儲けの道具」に変化しつつあるために、終身雇用制を維持したくないと考える企業が増えるかもしれません。

株主のために利益を稼ぐことが企業の主目的だということになると、給料の高いベテラン社員を大勢抱えておくことは難しくなってくる、というわけですね。

給料の高いベテラン社員に関しては、そのまま終身雇用で雇い続けるのではなく、いったん定年退職してもらって安い給料で定年後再雇用する、あるいは別の会社に転職して第二の人生を歩いてもらう、ということが企業側から期待されるようになるのかもしれませんね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義