新型コロナウイルスの流行によって、勤めている会社の業績が落ち込んでしまい、「このままいまの会社で働き続けようと考えていた未来に、暗雲が立ち込めている」という中年ビジネスパーソンも多いかもしれない。とはいえ、転職しようにもアピールできるスキルや誇れるキャリアがともなわず、身動きがとれない人も多いのでは。

「そんな悩める中年ビジネスパーソンでも人生を挽回できる方法は、『地味な資格』を取ることです」と語るのは、『おじさんは、地味な資格で稼いでく。』の著者であり、自身も窓際族同然だったサラリーマンから50歳で社会保険労務士の資格を取得し、年収を200万円アップさせたという佐藤敦規氏。

 中年ビジネスパーソンの人生挽回戦略として、「地味な資格」を解説してもらった。

苦境に立たされる「現代のおじさん」

 現代の中年ビジネスパーソンには、いくつかの「壁」が立ちはだかっています。

 まず「退職金の減少」。厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、大卒社会人の退職金は1997年の2871万円をピークに右肩下がりとなっています。2018年では1788万円と、この20年間で1000万円以上もダウンしました。私は社会保険労務士として企業の賃金制度の相談に乗ることも多いのですが、1788万円という金額は、一部上場の大企業が底上げしている印象もあり、大半の中小企業ではこの金額に達していないと思われます。

 次に「AI導入による人員削減」です。マニュアルに従うだけの働き方をしている人は、機械やロボットに仕事を奪われやすく、銀行の融資担当者などの高度専門職と呼ばれる人ですら、影響を受けるおそれがあります。実際に、大手企業を中心にAI技術の導入による人員削減は進んでいて、みずほフィナンシャルグループは「2026年末までに全従業員の3割にあたる1万9000人を削減する」と発表しました。

 最後に「黒字リストラ」です。新型コロナウイルスの感染流行によって企業の業績は悪化し、人件費の高い「おじさん社員」への逆風はさらに強まっています。しかし、それ以前から、業績が好調にもかかわらず中高年の社員に希望退職や早期退職を促す企業が増えていました。東京商工リサーチによると、2020年の上半期には上場企業41社が早期・希望退職を実施し、その半数が黒字企業であったようです。「給与も高く、時代の変化についていけない中高年社員を減らし、プログラミングや語学に堪能な優秀な若手社員の採用にコストを割きたい」と考える経営者は多いのです。

「冴えないおじさん」はどうすればいいのか

 中年社員が苦境に立たされている現状をお伝えしましたが、課長や部長として活躍している人は、いまのところ、こうした危機感はあまり持たずに済んでいるかもしれません。不安を抱えるのは、そういった役職に就いていない人でしょう。そして40代になって課長以上の管理職経験がない人は、転職で苦労してしまうのも事実です。

 かといって、いまから仕事に打ち込んで出世を目指すというのも、不可能ではないですが、実際のところは難しいでしょう。40代や50代で役職に就いていない人は重要なプロジェクトや顧客から外され、大きな成果を見込めない仕事や顧客を担当させられたり、若手社員と同じような立場や働き方であったりすることが多いからです。このような状況で会社の評価を覆すような実績を挙げることは難しく、それに自分のモチベーションも長くは続きません。

 転職もだめ、出世もだめ……。「じゃあ、いったいどうしろというんだ」と思われる方は多いでしょう。

 そこで、打開策としてみなさんにおすすめしたいのが、「地味な資格」を取ることです。ここでいう「地味な資格」とは、「世間の知名度は低いけど、法人に必要とされ、案外稼いでいる人が多い資格」を指しています。社会保険労務士(社労士)や行政書士、土地家屋調査士などの士業がこれに該当します。では、なぜ「地味な資格」を取るのがおすすめなのでしょうか?

「地味な資格」の3つのメリット

「地味な資格」を取ることによるメリットを3つ紹介します。

(1)働きながら取得できる

「資格」と聞いて、「難しい」「面倒だ」「どうせ無理だ」と思う人もいるでしょう。たしかに弁護士や税理士などの難関資格はその印象に当てはまりますが、中年から人生挽回するためにそれら難関資格を取る必要はありません。それに、合格しても、若いうちからその仕事に就いている人たちと競い合うのは難しいでしょう。

 一方で、社労士や行政書士といった「地味な資格」は、それら難関資格よりは難易度としては低く、働きながらでも十分に合格を狙えます。これがメリットの1つ目です。実際に、2020年度の社労士試験の合格者の分布を見てみると、合格者の約6割が会社員です。そして年齢別分布を見ると、こちらも約6割が40代以上。つまり、合格者の多くが中年のサラリーマンなのです。

(2)法人相手で安定する

「地味な資格」は、弁護士や医師のように知名度が高いわけではありません。それは、個人よりも法人を相手に仕事をすることが多いからです。ところが知名度に反して、実は法人を相手にする資格のほうが、個人相手の資格よりも収入が安定します。その理由は次の3つです。

・契約が長く継続することが多い
・単価が比較的高い
・契約先が新たなお客さんを紹介してくれる

 個人を相手にする資格は、ビジネスを持続させるのが大変です。常に競争にさらされ、広告や設備投資、営業が必要になります。一方で、社労士や行政書士といった法人を相手にする資格は、うまくいけば顧問契約をもらうこともできます。そうすれば、競合との競争に巻き込まれることなく、安定した収入を得られます。これが2つ目のメリットです。