本記事の3つのポイント

  • 毎年1月に開催される米国の家電見本市「CES」では、FPD関連の最新技術も多く披露、展示された
  • 次世代ディスプレー技術の1つであるマイクロLEDではサムスンやLG、ソニーなどが大型テレビなどを披露した
  • スマートグラスの展示も目立った。コロナ禍に伴う遠隔技術をサポートする機器として医療や産業の現場などで進んだが、今後は民生用にも商品展開が本格化する

 

 世界最大の家電見本市「CES 2021」が1月11~14日に開催された。毎年、米ラスベガスで開催されてきたが、今回は新型コロナの影響を鑑みてオンラインで開催され、これにあわせて世界のエレクトロニクス企業が最新技術を展示した。各社のリリースから21年に注目を集めるFPD(Flat Panel Display)関連の最新技術をピックアップしてみた。

液晶テレビのミニLEDバックライトに注目

 21年に流行りそうな製品の1つが、ミニLEDバックライトを搭載した液晶テレビだ。液晶テレビのバックライトには現在、ディスプレーの端面にLEDを並べて導光板で光を全面に行きわたらせるエッジライト型と、ディスプレーの直下にLEDパッケージを全面に敷き詰める直下型が採用されているが、ミニLEDバックライトは直下型でさらに小さなLEDを敷き詰める新方式。ローカルディミングと呼ばれる部分駆動技術で映像に合わせてLEDを発光させると、これまでの液晶テレビよりコントラスト(明暗比)を高めることができ、有機ELテレビに対抗できる新技術と期待されている。

TCLが第3世代技術を紹介

 中国テレビ大手のTCLは、同社として第3世代となるミニLEDバックライト技術「OD ZERO Mini LED Technology」を発表した。OD ZEROとは、ミニLEDバックライト層と液晶パネル層(拡散板)との間の光学距離を指しており、これがゼロで超薄型であることを意味している。光学距離を短くすることで収差の範囲を制御し、コントラストが向上して、光学ハロー効果を最小限に抑制できる。

 TCLはIFA2018で最初のミニLED製品を展示し、19年に世界で初めてミニLEDバックライトを搭載したテレビ「X10」と「8シリーズ」を市場投入。20年には「6シリーズ」を新たに発表した。

 この6シリーズは、パッシブマトリクスのプリント配線板にミニLEDを搭載し、ローカルディミングのブロック分割数を240と少なくして低価格を実現。55インチが700ドル、65インチが900ドル、75インチが1400ドルという低価格仕様で、「ミニLEDバックライトは高価」というイメージを一変させた。これが競合他社もミニLEDバックライトを商品計画に組み込む大きなきっかけになったといわれている。

 OD ZERO技術は、ローカルディミングのブロック分割数について「数千の調光ゾーンを備えている」と説明しており、6シリーズで採用したミニLEDバックライトの上位技術だとみられる。21年後半から適用製品を順次発売していく予定だ。

TCLのミニLEDバックライト技術「OD ZERO Mini LED Technology

韓国企業もミニLEDバックライトを展開

 テレビ市場で大きなシェアを持つ韓国メーカーも、TCLが作ったミニLEDバックライト搭載の流れに乗り、商品展開を本格的に開始する。

 LG Electronicsは、ミニLEDバックライトを搭載した液晶テレビ「QNED Mini LEDテレビ」を発表した。21年は86インチを最大サイズとする4Kおよび8Kモデルを10機種ラインアップする予定だ。QNED Mini LEDシリーズは、最大約3万個のミニLEDでバックライトを構成し、量子ドット技術を組み合わせて、最大2500の調光ゾーンによって高いピーク輝度と最大100万:1の高コントラストを実現する。プレミアム液晶テレビの中のトップライン製品に位置づける方針だ。

 Samsung Electronicsは、量子ドット技術とミニLEDバックライトを組み合わせた新たな製品ライン「NeoQLED」を展開する。採用するミニLEDは、一般的なパッケージタイプのLEDに比べて高さを1/40にし、非常に薄いレイヤー構造になっているといい、輝度スケールを12ビットの4096ステップで表現できる。8Kモデル「QN900A」と4Kモデル「QN90A」をラインアップする予定だが、発売日や価格は明らかにしていない。

マイクロLEDの商品展開も拡大

 マイクロLEDは、液晶、有機ELに次ぐ次世代ディスプレー技術として期待を集めている。「光る半導体」であるLED素子を画素に直接用いる自発光ディスプレーで、高い輝度、優れた色再現性、長寿命といった特徴があるが、数百万~数千万個に及ぶRGBのLED素子を均一に実装する技術など製造プロセスに課題があるため、現状では非常に高価だ。これまで主に商業用途のサイネージなど大型ディスプレーとして製品展開が進んできたが、一部でテレビとして商品化するところが出てきており、今後の製造技術の発展による低価格や汎用化が期待されている。

 Samsung Electronicsは、20年12月に発表した同社初のマイクロLEDテレビを出展した。韓国で先行発売し、21年1~3月期には全世界で販売を開始する。まず110インチと99インチをラインアップするが、年末までにより小さなサイズを追加する予定。110インチの韓国での価格は1億7000万ウォン(約1620万円)とされる。

 LG Electronicsは、163インチのマイクロLEDサイネージ「LG MAGNIT」を公開した。RGBのマイクロLEDチップをパッケージすることなく、0.9mmピッチでプリント配線板上に直接実装するCOB(Chip on Board)技術でユニットを製造し、このユニットをタイリングして163インチ(16:9)を実現する。ユニットにはFull Black Coating技術を施してコントラストを高めた。タイリングで大画面を実現するため、用途や場所に応じて16:9や21:9といった具合に任意のサイズで設置することが可能だ。

 SONYは、モジュラー方式の大型LEDディスプレー「Crystal LED Display System」について、高輝度の「Bシリーズ(ZRD-B12A/B15A)」と、高コントラストの「Cシリーズ(ZRD-C12A/C15A)」を新たに発表した。画素ピッチのサイズとしてP1.26mmとP1.58mmの2タイプをラインアップし、21年夏に発売する予定だ。

 Cシリーズは、企業のショールームやロビーなどへの設置を想定し、ディープブラックコーティングを備えて100万:1の高コントラストを提供。Bシリーズは、明るい環境に最適な1800cd/㎡の高輝度を実現しており、マット仕上げの反射防止コーティングを施して、セットやスタジオの背景などクリエイターやデザイナーなどの制作用途に適する。

SONYのCrystal LED

大型有機ELもさらに進化

 液晶テレビに対抗して、有機ELテレビも進化しそうだ。

 現在世界で唯一、テレビ用の大型有機ELディスプレー「WOLED」を量産しているLG Displayは、画質を向上した次世代の77インチ有機ELディスプレーを公開した。発光層の材料を刷新し、既存パネルよりも輝度を約20%向上した。21年モデルのハイエンドテレビから順次採用し、段階的に採用を拡大していく計画だ。

 また、テレビ用有機ELのサイズラインアップも拡充する。既存の88、77、65、55、48インチに加え、83インチと42インチの量産を新たに開始する。今後は20〜30インチ台の中型ラインアップを大幅に拡大する方針で、テレビに限らず、ゲーム、モビリティー、パーソナル用途を開拓する。

LG Displayの77インチ次世代テレビ用有機ELディスプレー

ARスマートグラスが本格リリースへ

 21年にもう1つ期待される新商品がスマートグラスだ。20年はコロナ禍に伴う遠隔技術をサポートする機器としてスマートグラスの活用が医療や産業の現場などで進んだが、今後はAR(拡張現実)/MR(複合現実)技術を組み合わせた新たなコミュニケーションツールとして民生用にも商品展開が本格化するとみられており、AppleやGoogle、Facebookらも商品化に意欲的だといわれている。

 ARスマートグラスは、屋外での使用も想定されるため、ここに搭載するディスプレーには直射日光下でも視認できる高い輝度が求められる。「最低でも1万カンデラが必要」といわれ、これに対応できる高輝度ディスプレーとしてモノリシック型マイクロLEDディスプレーを採用する動きが出始めており、この本格量産の開始にも注目が集まっている。

Vuzixが次世代グラスとマイクロLEDを融合

 スマートグラス専業メーカーの米Vuzixは、マイクロLEDディスプレーを搭載した次世代ARスマートグラスを発表した。独自の光導波路を組み合わせたマイクロLEDディスプレーエンジンを搭載した小型シースルー3Dディスプレーを備えており、一般的なメガネと変わらない外観を実現した。スマートフォンをポケットに入れたまま、ハンズフリーの音声コマンドやシンプルなジェスチャーコントロールで操作することも可能という。

 これに関連し、Vuzixは中国・上海に工場を持つマイクロLEDディスプレーの開発企業Jade Bird Display(JBD)と共同開発契約と相互供給契約を結んだ。Vuzixの光導波路にJBDのマイクロLEDディスプレーを組み込んだディスプレーエンジンを共同開発し、両社の顧客へ相互に供給していく。開発するディスプレーエンジンは現時点で世界最小をうたっており、光導波路はプラスチックまたはガラスを選択できるという。

 これに先立って、JBDはマイクロディスプレーメーカーの米Kopinと開発契約を結んでいる。契約に基づき、Kopinが設計・提供するシリコンバックプレーン(背面駆動基板)ウエハーに、JBDがマイクロLEDウエハーをボンディングし、モノリシック型の2K×2K(解像度2048×2048)単色マイクロLEDディスプレーを開発・製造する。

 一方、Vuzixは、18年8月にモノリシック型マイクロLEDディスプレーを開発している英Plessey Semiconductorsとも開発提携を結び、19年5月には専用ディスプレーの長期供給契約を締結している。Plessey Semiconductorsは、自社でモノリシック型マイクロLEDアレイの開発・量産体制の確立を進めるのと並行して、シリコンバックプレーンを開発する台湾Jasper Displayや米Compound Photonicsと協業し、LEDアレイとの統合(貼り合わせ)も進めている。

Vuzixの次世代スマートグラス

電子デバイス産業新聞 編集部 編集長 津村明宏

まとめにかえて

 1月に毎年米国ラスベガスで開催される「CES」も今年は新型コロナの影響を受けて、史上初のオンライン開催となりました。CESはエレクトロニクス業界のトレンドを探るうえでも重要なイベントとして認知されており、今年に関してもマイクロLED関連の新技術や次世代スマートグラスなど、各社から意欲的な展示が目立つものとなりました。

電子デバイス産業新聞