井阪新体制で発表された中期計画とは
セブン&アイ・ホールディングス(3382)は2016年10月6日、2017年度(2018年2月期)を初年度とする中期3カ年計画を発表しました。カリスマ経営者であった鈴木敏文氏からバトンを受け継いだ井阪隆一社長が、就任後「100日プラン」と名付けた抜本的な事業の見直しを行い、満を持して発表した待望の事業戦略になります。
株主・投資家からのプレッシャー
同社は日本で断トツのコンビニ事業を運営し、米国でのコンビニ事業にも力を入れています。セブン銀行を核とする金融事業も順調です。しかし、グループ祖業のイトーヨーカ堂、後に買収したそごう・西武を始め、グループ内には資本コストに対して十分な収益を上げていない事業が多く存在し、資本・人材などの経営資源が生産的に活用できていませんでした。
このため、同社は株主・投資家から改善を求められてきました。その象徴的な例が米ファンドのサードポイントです。井阪社長はこうした声にしっかり答える必要がありました。では、この中期計画の中身を点検してみましょう。
2019年度の数値目標
3カ年計画の営業利益目標は4,500億円(2017年2月期会社予想3,530億円)、ROE目標10%(2016年2月期実績6.9%)、配当性向40%とされました。達成時期には若干の前後はありますが、おおむね順当な目標と思われます。
増益の柱は主に2つあります。1つは国内のコンビニ事業の強化と北米コンビニ事業の拡大加速です。つまり、成長事業にしっかり投資をするということです。もう1つの柱は構造改革です。
構造改革1:イトーヨーカ堂の脱GMS化
イトーヨーカ堂の店舗は2016年2月期に182店舗ありましたが、2020年までに40店舗閉鎖の既定路線を踏襲して142店舗まで減らします。このうち、いわゆるGMS店舗は107店舗になりますが、これをさらにアリオへの転換、テナント誘致、マンションへの建替えと低層への食品館出店などを進めます。
簡単に言えば、食品以外のビジネス(衣料など)で自前主義を縮小していくことを意味します。
構造改革2:百貨店事業の首都圏特化
すでに、そごう柏店、西武旭川店が閉店しましたが、2017年2月には西武八尾店、西武筑波店も閉店が決定しています。
さらに、中期計画の発表と合わせて「関西ドミナント戦略」を推進し、百貨店・GMS・食品スーパーを展開するエイチ・ツー・オー リテイリング(以下、H2O)との資本業務提携を発表しました。セブン&アイ側から働きかけた案件であり、そごう神戸店、西武高槻店、そごう西神店の譲渡が予定されています。また、H2Oの運営するSポイントを関西のセブン-イレブン・ジャパンの店舗で利用できるようにもなる予定です。
この結果、同社は首都圏の店舗に特化を進め、地域一番店として生き残りを探ることになります。
サードポイントは納得する?
さて、この計画に投資家はどう反応するでしょうか。サードポイントはどうでしょう。
井阪社長は今回の計画を「すべてのステークホルダーを納得させるもの」と評しています。事業ポートフォリオを、収益性と成長性の両面で最も期待できる日米のコンビニ事業に集中させる、そのために、これまで正直なところ抜本策が出てこなかったイトーヨーカ堂と百貨店事業に新しい方向付けを示したのは大きな前進だと思います。
とはいえ、仮にサードポイントが100%納得していないとすれば、それは構造改革対象事業の将来性に関する認識の差にあるでしょう。GMS事業と百貨店事業を外科手術的に完全に切り出してしまうわけではありませんので、業況が想定以上に悪化した場合に井阪社長の手腕が問われます。
変革はイトーヨーカ堂創業の北千住店から
ちなみに今回、イトーヨーカ堂の不動産開発と食品館出店の例として掲げられたのは、イトーヨーカ堂の1号店だった旧北千住店(閉店済)でした。改革の象徴がこの店舗であることに、何か因縁を感じてしまいます。
LIMO編集部