現在、多くの美術館では、新型コロナウイルス感染症の影響でそもそもの入館者数が落ちている上に、感染対策のため入場者数を制限せざるを得ない状況にあります。運営資金をクラウドファンディングで集めたりと、各館さまざまな形で経営上の工夫をしているものの、第3波といわれる最近の感染者数増もあり、苦しい状況が続くとみられます。そうした美術館にとって、なんとも言いがたい現象がいま起きています。

美術館といえば、「静かな空間の中で純粋に美術を楽しむ場」という捉え方が一般的でしょう。写真撮影できる場所も少ないですし、話し声どころか足音や衣擦れの音さえ気にする人もいます。そんな中、インスタグラムに「映(ば)える」写真を投稿するために「美術館に赴き、撮影した展示を背景にする」ということが一部で流行しているというのです。また、そうしたことを推奨する、あるメディアの投稿が賛否両論を呼んでいました。

「日本で韓国っぽ空間を楽しもう 『映える美術館』 韓国に行かなくても東京都のおしゃれなスポットで、映える写真をとっちゃおう」(原文ママ)

この投稿では、上記の文章とともに、絵画等の展示と女性が写っている写真を「映える」写真として紹介しています。この投稿に反発し、スクリーンショットをして「怒りのあまりスクショしてたけどこういう焚き付けメディア全部滅びてほしい」とコメントを残したツイートは、6500件以上の「いいね」がつくなど、大きな話題となりました。

「美術館でインスタ映え」への怒りの声

この例に限らず、インスタグラムで影響を受けたと思われる若い客が増えたことで、話し声やシャッター音が絶えないなど、美術館での一般的なマナーが守られていないことに憤る声が、最近ではネット上に数多く上がっています。その中には、特にこうした「インスタ映えする写真を投稿するためだけに美術館に訪れる人たち」を非難する声も多く見られます。

「この投稿で紹介されている展示を見に行ったけど、はしゃいでいる女の子グループがたくさんいて、私の知ってる美術館とは違ってショックだった」
「美術館を「映え」と紹介すること自体がおかしい。美術館で自分の写真撮るとか周りに美術を知らない常識知らずですというようなもの」
「ここ何年かでこういうことする人は増えたように思う 空間そのものにもお金を払っているのにそれを台無しにされるのが嫌だ」
「美術館行くとこういう自分の写真を撮ったりしている人いるけど、世代のギャップを感じる。展示を鑑賞するのが目的ではないという。邪魔でした」

このほかにも、一つひとつの作品には制作者の魂が込められており、その重みの前で作品を「背景」にするのは失礼だといった声も上がっています。

また、冒頭で紹介したツイートにもあるように、こうした行動を煽るようなメディアにも批判が集まっています。

「言葉が全部最悪」
「美術の楽しみ方としてはアリだと思うけど、「映える」美術館って紹介するのは色々な方面の人たちに失礼な気がするぞ」
「まだやってるのかこんなこと」
「こういうのをメディアが煽っていることが残念」

紹介するものが何であるかは問わず、「映える」や「韓国っぽい」といった言葉を短絡的に使って投稿をするインフルエンサーも多く、そのやり方には多くの人が疑問を覚えているようです。

肯定派の中には、否定派をたしなめる声も

一方で、こうした鑑賞者を肯定的に捉えている声も多くあります。

「何がダメなのかわからない。こうした層でも来てもらった方がいいに決まってるじゃん」
「楽しみ方は人それぞれだし、なんの問題があるのか。美術はとりあえず触れてもらうというのも大切だと思う」
「きっかけとしてはいいのではないかと思う。美術を知らないのにくるなという方が危険な思想」

「最近はなんでも入り口はインターネットだから、来館につながるのであればいい気がするし撮影可能も増えている感じがする。迷惑にならないなら、アリだよね」

確かに、収入の大部分を入館料が占めることも多い美術館では、コロナで経営が苦しい中で、きっかけはともかく、来館者が増加することはありがたいことでもあるはずです。また、「教養や芸術を知らないのに美術館にくるな」という主張はスノッブ(上品ぶったり教養があるように振る舞い、そうでない人を馬鹿にする嫌味な人)ではないかという意見もあり、美術館は一部の人間にだけ開かれた場所ではないのだということが指摘されていました。

肯定派の多くの人は、「マナーさえ守っていれば、美術館を訪れる動機はなんでも良いのだ」という見方のようです。

ほかの鑑賞者にも配慮を

それでは、美術館では最低限、どのようなマナーを守ればいいのでしょうか? 多くの人が考えるのは、次のようなものでしょう。

「大きな話し声を立てない」
「展示物には触らない」
「携帯はマナーモードにする」
「飲食厳禁や撮影禁止などのルールがある場合は守る」

こうした基本的なことに加えて、なるべく落ち着いた服装で、音が鳴りやすい革靴やヒールを控える、匂いの強い香水をつけない、といったことまで気にして鑑賞されている方もいるそうです。

多くの美術館においては、今後、入館料収入だけに頼るのではなく、収益を多角化していく必要はあります。ただ、繰り返すように、美術館の短期的な経営にとっては、このコロナ禍のなかで来場者が少しでも増えることは喜ばしいことでしょう。そのきっかけの一つとして、「インスタグラムで知る」ということがあってももちろん構わないのですが、やはり最低限のマナーは守りたいところです。また、当然のことですが、写真は撮影が許可されているところだけで撮るなど、ほかの鑑賞者に迷惑をかけずに作品鑑賞をしたいものですね。

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