京セラは、開発中のマイクロLEDディスプレーの高性能化を進めている。8月に開催されたディスプレーの国際学会「SID Display Week 2020(SID2020)」では、低温ポリシリコン(LTPS)TFTをバックプレーンに用いた3.9インチのフルカラーマイクロLEDディスプレーの開発成果を発表した。
19年に1.8インチ品を開発
京セラは、既存の車載・産業用液晶ディスプレーの次世代技術としてマイクロLEDディスプレーに着目し、17年からLTPSバックプレーンの開発を進め、完成度が高まった18年からLEDメーカーとマイクロLEDディスプレーの共同開発に着手した。ちなみに、LTPSバックプレーンは滋賀野洲工場にある550×650mmラインで開発している。
SID2019では、1.8インチで256×RGB×256画素、200ppiのマイクロLEDディスプレーを初めて発表した。輝度は3000cd/㎡、コントラストは100万対1以上、フレームレート240Hz、Rec2020規格で81%の色域、視野角178度を実現した。のちに、マイクロLED技術を持つ米glo(グロー)社が、京セラにLEDチップを供給し共同開発したことを明らかにした。
3.9インチ品には新技術を2つ採用
これに続きSID2020で発表した3.9インチ品は、480×RGB×360画素(153ppi)でフルカラーを実現した。LTPSをバックプレーンに用い、輝度はピーク3000cd/㎡、全白で2000cd/㎡を実現し、フレームレート240Hzで駆動できる。コントラストは100万対1以上、色再現性はBT2020規格で83%、視野角は178度以上を達成した。マイクロLEDチップに関して、今回はオスラムオプトセミコンダクターズ社製の両面電極構造縦型チップを採用した。
この3.9インチには、①電流駆動とPWM(Pulse Width Modulation)駆動を組み合わせたハイブリッド駆動技術、②輝度を向上するリフレクター構造を新たに採用した。
一般的に、LEDチップは電流値によって色が変わるカラーシフトが発生する。電流駆動だけだと高解像度化には向くが、カラーシフトが起きる。一方、PWM駆動はカラーシフトが起きないが、高フレームレート化には不向きだ。これを改善して色ばらつきを低減し、ユニフォーミティーを高めるため①を採用した。この効果として色度変化を53%低減することに成功し、これを実現するための駆動ICも新たに開発・採用した。
輝度を3倍以上に向上
②については、光の取り出し効率を高めるため、LEDチップ実装前のLTPS基板上にリフレクター構造を作り込んだ。アノード上に絶縁体を形成してリソグラフィー工程を行い、反射メタルを敷いたキャビティーを形成する。
キャビティーの深さとテーパー角について試作や評価を重ねた結果、リフレクター構造がない場合に比べて輝度を3倍以上に高めることができた。リフレクターの材料には一般的なディスプレー材料を用いており、LTPS工程に新たな装置を導入する必要はないという。
今後は大型化とタイリングで大画面実現へ
今後の開発の方向性については、今回開発した①と②の技術をベースに、既存の液晶や有機ELディスプレーとは差別化した製品開発を進めていく。例えば、カスタムな画面サイズに対応できる高精細・高輝度のベゼルレスのディスプレーや、高画質の透明ディスプレーが考えられる。10インチ以下でベゼルレスのディスプレーを作成し、これをタイリングして大型化を目指していく。
また、並行してマイクロLEDチップのマストランスファー(大量移載)技術についても独自に技術の検討・検証を進めていく考え。大量移載技術が最も重要であるため、装置・材料メーカーとの協業を通じて装置や部材の提案を求めていく考えだ。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏