サウジアラビアもアラブの盟主の立場から簡単にはそうできないだろうが、脱石油経済を重視するムハンマド皇太子からすれば、イスラエルのハイテク技術と成長経済は魅力的であることは間違いない。

しかし、サウジアラビアがそうすれば他のアラブ諸国の国交正常化も加速化し、イランを巻き込んだ中東の緊張が高まる可能性がある。

一方、イラン核合意への復帰など米国が再びイランへ歩み寄ることになれば、イスラエルやサウジアラビアは独自でイラン強硬姿勢をエスカレートさせる恐れがある。

間接的な衝突はすでに始まっている?

米国の対イラン姿勢が変わることを察知してか、サウジアラビアのサルマン国王は11月12日、世界各国に対してイランの核開発に断固たる対応を取るよう呼びかける声明を発信した。

また、イエメンの親イランのシーア派武装勢力フーシ派は11月23日、サウジアラビア西部の都市ジッダにある石油関連施設に向けて、ミサイルを発射したと発表した。

イエメンからジッダは800キロは離れており、フーシ派の高い発射能力を改めて証明することになった。フーシ派は以前から、イエメンとの国境に近いサウジアラビア南西部や首都リヤドに向けてミサイルを発射している。

一方、イスラエルは11月18日、シリア南部でアサド政権軍とイラン革命防衛隊の先鋭部隊「コッズ部隊」の拠点を狙って空爆を実施し、コッズ部隊のメンバー5人が犠牲になったという。この空爆について、イスラエルは同国が支配するゴラン高原に爆発物が仕掛けられたことを理由に挙げた。

イスラエルとサウジアラビア、イランが直接的に軍事衝突する可能性は低いが、バイデン政権下では、上記の親イランのフーシ派によるサウジへの空爆、またイスラエルによるシリアで活動する革命防衛隊、親イラン勢力への空爆などが激しくなる可能性はある。

3カ国とも直接の衝突はリスクが非常に高いことから、こういったシリアやイラクなどを舞台にした“代理戦争”的な手段をこれまで以上に使用する恐れもある。

イラクやシリア、イエメンやレバノンにはイランが支援する組織が多くある。中東を舞台とする小規模な空爆や衝突の連鎖が大規模な緊張に発展することは避けないといけない。中東では不穏な動きが現れているようにも見える。

和田 大樹