本記事の3つのポイント

  •  初の5G対応となるiPhoneが発売。韓国での販売も上々で初日に10万台以上を販売した
  •  19年4月、韓国は世界に先駆けて5Gサービスを開始した。以降、紆余曲折はあったものの、20年9月時点で5G加入者数は800万人を突破し、年内に1000万人の大台突破を目指している
  •  iPhone 12に搭載されている「A14」同様に、5Gスマホのプロセッサーでは今後5nmプロセスを用いた製品が続々登場する見込み

 

 サムスン電子とLG電子が席巻しているグローバル5G向けスマートフォン市場。アップルの参入に伴って、熾烈なシェア争奪戦がスタートした。サムスンとLGに1年程度遅れを取ったアップルだが、世界各国における5Gインフラの構築状況を考えると、アップルに軍配があがる可能性が高いと見通されている。

iPhone 12、初日に10万台以上を販売

 2020年10月30日、アップルの5GスマホiPhone 12がソウル市内で一斉に売り出された。30日の1日だけで10万台以上売れ、韓国市場で上々の滑り出しをみせている。iPhone 12の登場で、それまでロングタームエボリューション(LTE)止まりだったアップルのファンらは、5Gスマホへの買い替えを急いでいる。また、メジャースマホメーカーすべてが主力製品群を5Gにシフトすることにより、世界中の5Gインフラ構築と加入者の増加・拡大にも弾みが付く見通しだ。

 アップルは、iPhone 12シリーズ4種すべてを5Gモデルとして発売した。LTE専用モデルを出荷しないため、新たに販売したiPhone 12全量が5Gスマホのシェアにカウントされる。アップルは、韓国の移動通信3社をはじめ、世界130社余りの移動通信会社と5G関連の緊密な協業を進めている。

 iPhone 12シリーズのコアマーケティング戦略として、5Gの速度を強調し、各国の移動通信会社とのプロモーションを通して世代交代を促す。市場調査機関Strategy Analytics(SA)の資料によれば、アップルはiPhone 12シリーズの出荷を起点に、世界第2位の5Gスマホメーカーに浮上する見通しだ。現状のトップはファーウェイで、サムスンが後を追う。ファーウェイの販売量の大半が中国市場に限られることを考えると、北米とヨーロッパなどの主要市場で大規模な新規需要の確保が可能と、SAは分析している。

 SAは、21年に販売予定の5Gスマホ6億7000万台のうち、1億8000万台がiPhone 12であり、アップルはファーウェイとサムスンを追い抜き、5Gスマホ市場でトップに躍り出ると予測している。現状でiPhoneのシェアが47%に達する北米と、21年に5Gの実用化が本格化するであろう欧州市場で爆発的な成長が見込まれているためだ。

韓国、20年末に5G加入者1000万人へ

 19年4月、韓国は世界に先駆けて5Gサービスを開始した。以降、紆余曲折はあったものの、20年9月時点で5G加入者数は800万人を突破し、年内に1000万人の大台突破を目指している。こうした韓国市場にiPhone 12シリーズが上陸したのである。5Gインフラがいち早く整備された韓国は、アップルにとって一種の前哨基地としての役割を果たすと判断している。

 また、韓国モバイル通信会社間でも5G加入者の獲得競争がさらに熾烈になる見通しだ。韓国スマホ市場の20%を占めるiPhone顧客の5G買い替えを促すために、多様なプロモーションを準備している。

 これに対抗するサムスンとLGは、グローバル5G市場規模の拡大によるシナジー効果に期待を寄せている。韓国スマホメーカーは、市場初期から多彩なモデルを世界にアピールし、蓄積したノウハウをベースにアップルに迎え撃つ。アップルが生産しない中低価の5Gスマホ市場では、依然としてサムスンとLGが高いシェアを維持する可能性が高い。

5nmのAP時代を切り開く

 アップルはiPhone 12の5G性能を強調し、ミリ波(mmWave)に対応していることを売り物にしている。米国販売モデルのみに適用するスペックとして、サブ6(sub6)よりもさらに高速の通信速度と低い遅延率を実現している。

 課題は、iPhone 12で差別化された5Gユーザーエクスペリエンス(UX)とカバレージを提供することだろう。アップルはiPhone12 Proモデルに採用したLiDARカメラと5Gをマッチした拡張現実(AR)サービスを提示したものの、ユーザーが差異を体験できる水準ではまだないと評価されている。とりわけ、カバレージに関して、アップルは使用環境によってLTEと5Gの自動切り替えをサポートする「スマートデータモード」で補完する方針だが、5Gカバレージに対する論争は完全には避けられない見通しだ。

 いずれにせよ、アップルはiPhone 12に初めて5nmプロセスを用いたアプリケーション・プロセッサー(AP)「A14Bionic」を搭載し、「5nmのAP時代」を切り開いた。

 A14Bionicには、118億個のトランジスタが集積されている。前作のA13のトランジスタ数(85億個)から約40%も増加した。人工知能(AI)の機能を強化した優れものである。

 iPhone 12の頭脳の役割を果たすAPが大きく改良された主因は、5nmという最先端の半導体プロセスの採用にある。アップルの新作AP「A14Bionic」の出荷は、これまで7nmプロセスが主流であったAP市場において、5nmプロセスへ切り替わっていく節目になる見通しだ。

 サムスン電子は、ミドルクラスのモバイル向けARM系AP「Exynos1080」を5nmプロセスで生産し、中国メーカー「オッポ」のスマホに搭載すると発表した。また、サムスンの最高スペックである「Exynos2100」は、21年初頭に出荷予定の(仮称)Galaxy S21に採用される。さらに、クアルコムは20年12月に5nmプロセスを用いたAP「Snapdragon875」を公開する予定だ。

 5Gスマホメーカー、移動体通信事業者、半導体メーカーらによる社運を懸けた大競争が、これからまさに本格化することになる。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

まとめにかえて

 スマホ市場ではミッドレンジ(300~400ドル)領域のボリュームが年々増えつつあり、iPhoneのようなハイエンド領域が縮小するという傾向が続いており、半導体・電子部品業界にとってiPhone新機種の売れ行き好調は朗報と言えます。ファーウェイへの制裁によって、その大きな穴を埋めるべく、今後各社がハイエンド機種の販売に力を入れてくる可能性もありそうです。

電子デバイス産業新聞