人には「心理的なお財布」がある

ダニエル・カーネマンのチケット実験というものがあります。自分の好きなショーやライブに行くことをイメージし、以下それぞれの意思決定をしてみてください。

【1】 事前に16,000円のチケットを買い、会場に向かいました。しかし、会場についてからチケットがないことに気づきました。このとき、当日券を買いますか?

【2】 当日券しかないショーだったので、チケット代として別に用意した16,000円をもって会場に向かいました。しかし、会場についてそのお金を落としたことに気づきました。お財布は持っているので、そのまま当日券を買いますか?

この実験では、【1】で購入すると答えた人は10%でした。しかし、【2】の場合は50%以上の人が購入すると答えたのです。状況はほぼ同じであるにも関わらず、買うか買わないかを判断するときの感覚には違いがあることを、明確にイメージできたのではないでしょうか。

経済学者のリチャード・セイラー氏によって提唱された「ナッジ」は、人は心の中でお金を目的別・性格別に分けているという行動理論です。「働いて稼いだお金」と「ギャンブルで得たお金」から受ける印象が違うことは、なんとなく理解できますよね。また、コロナ禍で「家飲み」の人気が高まりましたが、今までは外で3倍くらいのお金を払って同じお酒を飲んでいたはずです。「自宅だと家計費」「外食だと贅沢費」という心理的なお財布の違いが、こうした浪費を許してしまうのですね。