中国が北極海航路を好む理由は他にもある。それは東アジアと欧州を結ぶ海上貿易路を考えた場合、たとえば、東京ロンドン間はスエズ運河経由では約2万1000キロ、パナマ運河経由では2万3000キロだが、北極海航路では1万6000キロと大幅なショートカットになるのだ。

もちろんブリザードなど北極の厳しい気象条件を考えると決して簡単な道のりではないが、掛かる日数や輸送燃料費などからすると北極海航路が魅力的であるのは事実だ。

日本の海洋安全保障環境を変える中国の北極海進出

しかし、中国が氷上のシルクロード構築に向けて本腰を入れるということは、それは必然的に日本近海を通過することになる。具体的には、九州の北にある対馬海峡から日本海に出て、宗谷海峡や津軽海峡を抜けベーリング海に抜けるルートだ。

また、中国吉林省の最東端に「琿春」という都市がある。ここは中国とロシア、北朝鮮の3カ国の国境地帯で、中国国境の先から日本海までは約15キロの距離にあり、現在北朝鮮とロシアが日本海に面し、中国国境の延伸を防ぐ形となっている。

だが、中国が北極戦略を重視するようなれば、そこが戦略的要衝となり、港の使用権などで北朝鮮へ積極的に根回しをしてくる可能性もある。

いずれにせよ日本海が新たな覇権海域になるのであり、日本の海洋安全保障環境を大きく変える恐れがある。中長期的には、中国が軍を交えて氷上のシルクロード構築に乗り出している可能性も否定できず、日本の国防上も重大な問題である。

和田 大樹