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日銀の「総括的な検証」が約1か月後に迫ってきました。最近の日銀黒田総裁のインタビューや過去の日銀の公表したレポートから「総括的な検証」で公表される内容を占います。9月の日銀金融政策決定会合で「総括的な検証」に伴い追加的な金融緩和策が公表される可能性も否定はできませんが、物価目標の修正や、市場との対話を重視して政策の整理に重点を置く内容となることも想定されます。

  •  「総括的な検証」とは何か?
  •  総括的な検証の公表時に期待する3つのポイントとは?

日銀の総括的な検証とは:9月の金融政策決定会合の注目ポイントへ

日本銀行は2016年7月末の金融政策決定会合で、次回(9月20~21日)の会合では2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、現在の金融政策である「量的・質的金融緩和」、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うことを表明しました。

そもそも2年で2%の「物価安定目標」は、2013年4月の金融政策決定会合で表明されました。ただ、思うように物価は上昇せず、2015年10月末には量(国債購入額)の拡大を、2016年1月末にはマイナス金利政策を導入しましたが、市場では効果に疑問の声も聞かれます。また、物価が目標に到達していないことから、日銀は物価安定目標の達成時期をズルズルと後退させてきています。

どこに注目すべきか:総括的な検証、サプライズ戦略、実質金利

日銀の総括的な検証の公表を約1か月後に控え、様々な憶測が市場で聞かれます。最近の黒田総裁のインタビューや、過去、日銀が公表したレポートを参考に、以下で「総括的な検証」の内容を占うことを試みます。ポイントは次の3点です。

1点目は、9月の金融政策決定会合で新たな金融政策が公表されるかです。

まず、黒田総裁は産経新聞とのインタビューで「総括的な検証」の結果は、9月の金融政策決定会合の声明文とともに公表すると述べています。過去のサプライズ戦略を改め、市場との対話を重視すると見られる黒田総裁の方針からは、新たな金融政策と「総括的な検証」を同時に発表することはやや考えにくい状況です。

加えて、市場の状況にもよりますが、米連邦公開市場委員会(FOMC、9月20~21日開催、日本時間では9月22日公表)前に、日本が先んじて金融政策の変更を公表することも新たな金融政策の公表を見込みにくいと考えています。

2点目は物価目標の可能性が考えられます。

2013年に導入された現在の「2年程度で2%」という物価目標は、日銀のサプライズ戦略の置き土産とも見られます。この目標の問題点は、物価が上昇しない環境の下では、2年の期限が近づくたびに市場の追加金融緩和期待が過度に高まることです。

たとえば、原油価格下落という日銀の政策では対応が困難な状況での物価下落であっても、「日銀が何かをするはずだ」と期待することで市場の変動が高まるという弊害が懸念されます。したがって、「中長期的に2%の物価上昇率を目指す」といった内容への変更が考えられます。

ただし、仮に目標を変更した場合、市場が日銀は金融緩和姿勢を弱めたと判断するリスクもあり、慎重な対応が必要になると思われます。

3点目は、最近のデータを反映させた量的・質的金融緩和政策などの評価です。

日銀は過去に量的・質的金融緩和の検証を公表しています。たとえば、2015年5月に企画局が『「量的・質的金融緩和」:2年間の効果の検証』を発表しています。量的・質的金融緩和の結果、予想物価がどの程度上昇し、実質金利がどの程度低下したかを推定し、経済への波及効果を試算しています。

端的に結論を述べれば、景気やインフレ率の押し上げに効果があったという内容です。ただし、作成時期の関係もあり、波及効果の計測期間が2013年1-3月期から2014年10-12月期と、為替等が円安であった局面での評価となっています。最近の円高なども含めた幅広い評価が必要と思われます。

2016年の日銀の他のペーパーでも(たとえば「物価・賃金予想と家計の支出行動」など)、緩和策が家計支出や賃金上昇への効果を示唆するなど、概ね好意的な評価です。しかし、市場は量的・質的金融緩和の限界が意識された期間での評価により関心があると思われます。

また、金融庁が銀行収益への影響を試算値で示すなど、評判がよいとは言えないマイナス金利政策への評価も大切と見ています。なぜなら、評判がよくないとはいえ、日銀の金融政策の選択余地が徐々に狭まりつつ(少なくとも市場はそう考えている)ある中、深堀りの可能性があるマイナス金利政策を現時点で否定することは考えにくい状況だからです。

たとえば、先の金融庁の指摘に対し、黒田総裁はインタビューで日本の金融機関の資本は十分なので、大きな影響が出るとは懸念していないという内容の反論をしています。総括的な検証では、より詳しい内容を示す必要があると思われます。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文