家を出て「駒」ではない人生を歩む

その後、恵さんは家を出ることを一番の目標として考えるようになり、高校卒業と同時に家を離れ、新しい土地での生活をスタートさせました。「母親に相談したら、自分の好きな道を歩めばいいと言ってくれたので、私が一番望む未来ってなんだろうともう一度、じっくり考えた。そしたら、“家を出たい”という願望が真っ先に浮かんだので、仕事は選ばず、とりあえず家を出てみようと思って。」

四六時中、父親の目を気にし、暴言に怯える生活から解放されると、恵さんの心に初めて怒りが湧いたのだそう。「父親といる時に悲しい、悔しいという気持ちはよくこみあげてきましたが、怒ることはできなかった。諦め、嫌いながらもどこかで愛してほしいと願っていたのかもしれません。」

現在、恵さんの父親は肝臓を悪くし、入院中。しかし、彼女は一度も見舞いに行っておらず、これからも行く気はないと言います。「あの人にとって私は駒。親子じゃないと言われたも同然。だから、行こうとか行きたいとか思わない。正直、死んだとしても泣けないと思います。」

そう語る恵さんは今、駒ではない人生を生きています。

古川 諭香