2020年7月28日に行なわれた、日産自動車株式会社2021年3月期第1四半期決算説明会の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:日産自動車株式会社 取締役 代表執行役社長兼最高経営責任者  内田誠 氏\n日産自動車株式会社 取締役 最高執行責任者兼チーフパフォーマンスオフィサー アシュワニ・グプタ 氏\n日産自動車株式会社 執行役最高財務責任者 スティーブン・マー 氏

2021年3月期第1四半期決算説明会

内田誠氏(以下、内田):本日はお忙しい中、当社の2020年度第1四半期決算発表にご参加いただきありがとうございます。今年度の第1四半期は、世界各国で新型コロナウイルス感染拡大の影響が広がった結果、全体需要が前年の約半分の水準まで減り、当社の販売台数も合わせて大幅に減少しました。

また、世界の多くの工場で稼働停止を余儀なくされ、稼働継続をした工場においても販売の減少に伴い大きく稼働率が低下するなど、非常に厳しい経営環境となり、業績にも大きな影響がありました。

まず、2020年度第1四半期の事業報告および決算結果についてCOOのグプタよりご説明した後で、私の方から今年度の通期の見通し、ならびに「NISSAN NEXT」についてお話します。最後に、みなさまからのご質問をお受けしたいと思います。それでは、グプタの方から説明します。

2020年度 第1四半期 販売実績

アシュワニ・グプタ氏(以下、グプタ):本日はご参加いただき誠にありがとうございます。まず、グローバルな全体需要と当社の販売実績についてご説明したいと思います。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、主要なマーケットにおいて、四半期の業績に支障が生じたことについては言うまでもありません。1月から3月における中国の台数を含む、会計年度ベースの2020年度第1四半期のグローバルな全体需要は、前年比で44.5パーセント減の1,249万台となりました。

そのような中、当社のグローバル販売台数は前年比で47.7パーセント減の64万3,000台となりました。4月から6月の中国の台数を含む、より現実的なセールス期間で見ると、世界各地でロックダウンや新型コロナウイルスの感染拡大による市場の低迷等、販売に大きな影響がありましたが、当社の販売台数は82万7,000台となり、アメリカのレンタル向けを除いた市場占有率は5.4パーセントを維持しました。

このような状況において、日産は何よりも従業員の健康・安全を第一に考え、事業運営を行なってきました。当社が置かれている状況を正しくご理解いただくために、3つのキーとなる項目についてご説明したいと思います。第1に生産の状況、第2に販売店の稼働状況、そして第3に新型車の生産開始です。

生産状況

こちらが、第1四半期の生産の状況です。国内では、需要が低迷したことに加え、輸出台数が大きく落ち込んだ結果、当社の生産台数は前年を割り込みました。6月に入ってからも国内の生産台数は前年比61パーセント減となっています。

中国では、1月から3月までの生産台数は、前年比51パーセント減に留まったものの、4月から6月にかけては急激に回復し、前年を8パーセント上回りました。

北米の工場は、徐々に操業を再開しつつあるものの、6月は前年に対し60パーセントに留まっており、欧州ではいまだ20パーセントです。日産は、従業員の健康・安全を最優先に、慎重に工場の操業再開を行なっています。その結果、グローバルで工場の稼働率は低下しています。

販売店の稼働状況

次に、販売店の稼働への影響についてです。国内の販売店はすべて営業を継続していましたが、来店されるお客さまの数は最大で6割落ち込みました。中国でも同様に全店舗が営業していましたが、来店されるお客さまの数は減少しています。北米および欧州でも、営業再開した店舗は増えていますが、来店されるお客さまの数は大きく落ち込んでいます。

しかしながら、新型コロナウイルス感染症が拡大する中、当社はオンライン販売のプラットフォームの拡充を加速してきました。すでに11パーセントのお客さまにデジタルで車をご購入いただいています。「ショップ・アット・ホーム」というシステムを使った販売など、デジタルセールスのイニシアチブを開始し、よりスムーズなカスタマーエクスペリエンスを提供しています。

生産停止および減産を余儀なくされる一方で、営業している販売店やオンラインで販売を継続することで在庫を削減し、今後の販売の質の向上にもつなげていきます。

新型車の生産開始

続いて、新型車の生産開始についてです。在宅勤務中においても、予定どおりの新型車の生産立ち上げを実現してくれた国内外の従業員に心から感謝します。スケジュールどおりに生産を開始し、販売の勢いを維持できたのは、彼・彼女らのおかげです。

生産を開始した新型車の具体例を挙げると次のとおりです。2月にはメキシコで「セントラ」の生産がはじまりました。3月には「キックス e-POWER」の生産をタイ工場で、日本・アジア諸国向けに立ち上げました。6月には国内でアメリカ向けの「新型ローグ」の生産を立ち上げました。

ご存知のように、このパンデミックは、当社のオペレーションに重大な影響を与えましたが、この環境のもと、社員のケアをしながら事業が確実に継続できるようにしてきました。

コアマーケットにおける販売実績

3つのコアマーケットにおける販売状況ついてです。まず日本では、4月から6月にかけて、月次マーケットシェアは8パーセントを切る水準から11パーセントを超える水準まで回復しました。6月には軽自動車の販売が功を奏し、前年同月比でも改善しました。軽自動車については、3月に新型「日産ルークス」を発売し、市場占有率を大きく伸ばしました。登録車においても市場占有率は改善傾向にあります。

とくに6月末に販売した小型SUV「日産キックス」は、おかげさまでご好評いただいており、1ヶ月で1万台を超える受注をいただきました。これにより、登録車の市場占有率改善も今後さらに進むと見込んでいます。

中国では、当社の販売台数は着実に回復し、市場占有率も継続的に伸長しています。とくに4月から6月にかけては、販売を前年から4パーセント伸ばしました。「シルフィ」と「アルティマ」の好調が販売の勢いを支えています。

アメリカでは、収益性の高い小売販売に集中し、事業改革を進めています。小売の市場占有率を前年の4.9パーセントから5.4パーセントに拡大し、同時にフリート販売を前年の5分の1のレベルまで減らすことで、結果的に台当たりの売上高を前年比で約700ドル改善しました。

また、最近発表されたJ.D.パワーの「日本自動車商品魅力度調査」において、お客さまから4車種の日産車がセグメントでトップの評価を受けました。アメリカでは依然として新型コロナウイルスが猛威を振るっていますが、第1四半期の業績への同市場の貢献は着実に回復しています。とくに、新型「セントラ」や新型「ヴァーサ」、「タイタン」がその中心となりました。

2020年度第1四半期 主要財務指標①

続いて、財務実績についてご説明します。グローバル市場の低迷と販売台数の減少に伴い、連結売上高は前年比で50.5パーセント減の1兆1,742億円となりました。連結営業損失は1,539億円、当期純損失は2,856億円となりました。営業外損失には、持分法適用会社による投資損失847億円が含まれています。

特別損益のマイナス723億円には、新型コロナウイルス感染拡大による操業停止等に伴う一時的な損失影響がネットで332億円、事業構造改革費用が401億円含まれています。自動車事業のフリーキャッシュフローは、新型コロナウイルス感染拡大に伴う収益の減少や工場の稼働率の低迷が大きく影響し、マイナス8,157億円となりました。

2020年度第1四半期 主要財務指標②

こちらは、営業利益の増減分析です。為替変動は35億円の増益要因となりました。台数・構成・部品販売および連結販売会社の収益悪化は、2,322億円の減益要因となりました。販売費用は359億円の増益要因、モノづくり・固定費・その他項目は、生産固定費や一般管理費の削減効果を、工場の低稼働による生産変動費の効率悪化が一部相殺し、373億円の増益要因となりました。

重要なことは、固定費削減や販売費の圧縮をしなければ結果はさらに悪化していただろうということです。「NISSAN NEXT」による結果が実証され、持続可能な成長に向けての基盤が構築されていることを示しています。当社が直面している課題に対して、適切なタイミングで適切な計画により対処しなくてはなりません。

流動性の状況

流動性については、2020年度第1四半期の自動車事業のフリーキャッシュフローは大幅なマイナスとなり、その結果、ネットキャッシュは2,352億円となりました。ネットキャッシュは減少したものの、当社は引き続き、1兆2,000億円を超える自動車事業のキャッシュを維持しています。6月から7月にかけて、1,824億円のコロナウイルス感染拡大対応の資金調達を確保したほか、700億円の社債発行も行ないました。

また、約1兆9,000億円のコミットメントラインを、6月末現在は未使用のまま維持しています。当社は新型コロナウイルス感染拡大の状況を注視し、必要に応じて即座に対応できるように準備しています。

いま一度、優先領域について強調します。まず、継続的に固定費の削減を徹底していきます。さらに、新型車の販売の質向上に向けた取り組みを実施し、収益性の伴う市場に向けての市場占有率を拡大します。そして、営業活動におけるキャッシュフローの管理および十分な資金調達で流動性を確保していきます。

2020年度は、直面する課題のスケールや市場環境が不安定であり続けることを経営陣は重々承知しています。長期的な視点で持続可能な収益ある成長へと回復させるよう、引き続き取り組んでいきたいと思います。私の説明は以上となります。

2020年度 販売台数見通し

内田:私の方から、2020年度の通期業績見通しについてご説明します。2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響ですべての市場で全体需要が前年を下回り、グローバルでは前年比で16.0パーセント減の7,204万台になると予想しています。

日本や中国は前年比で7パーセントから8パーセント前後の減少と想定していますが、欧米やその他市場は前年比で2割前後の減少となる見通しです。現時点においても市場の見通しは依然不透明であり、第2波によって、さらに市場環境が悪化する可能性もありますが、その影響を見通すことは現時点では難しく、引き続き市場動向を注視していく必要があると思っています。

そのような市場環境の中で、弊社の2020年度の販売台数は前年比で16.3パーセント減の412万5,000台を見込んでいます。日本と中国では、全体需要を上回る販売台数を見込んでいますが、それ以外の地域では下回る見通しです。

これは、米国市場でのフリートミックスの見直し、インセンティブの適正化など、これまでの課題であった「過度に台数を追うこと」をせずに、販売の質の向上に向けて取り組んでいることが主な要因です。グローバルのマーケットシェアは5.73パーセントと前年レベルをキープします。

2020年度 業績見通し

今年度の業績見通しは次のとおりです。今年度の中国を除いた販売台数は、前年比で21.7パーセント減の見通しとなっていることを反映し、連結売上高は前年比で21.0パーセント減の7兆8,000億円と予想しています。

連結営業損失は、4,000億円の見通しです。持分法投資益の悪化や、昨年度末に計上できなかった事業構造費用も盛り込んでいることから、当期純損失は6,700億円となる見込みです。

また、配当についてですが、今年度は収益力の向上に向けた事業構造改革に取り組んでいる最中であることに加え、新型コロナウイルス感染拡大による大きな影響もあり、収益、フリーキャッシュフローともに非常に厳しい1年になるため、お支払いは見送らせていただく見通しです。一刻も早く、安定的かつサステイナブルな株主還元を再開できるよう、全社を挙げて収益改善に向けて事業構造改革に取り組んでいく所存です。

2020年度 業績見通し 営業利益増減分析

続いて、営業利益の増減分析をご説明します。為替は、ドル円レートを中心に400億円の減益要因となっています。新型コロナウイルス感染拡大に伴う全体需要の落ち込みによる新車の台数・構成の悪化に加え、部品販売や連結販売会社の収益悪化により、4,250億円の減益を見込んでいます。

貸倒引当等基金計上を含む販売金融事業の収益悪化と、リマーケティング費用と呼ぶ米国を中心としたリース車両の残存価値低下に伴う費用は、合わせて850億円の減益要因となっています。

モノづくり・固定費・その他の費用は、生産の停止に伴う稼働率の低下によって効率性が悪化した生産変動費や、商品性向上の費用の増加を固定費や購買コストの削減による増益でオフセットし、1,205億円の増益要因となる見通しです。

5月に発表した、2020年度に2018年度対比で3,000億円の固定費を削減する取り組みは計画どおり進んでおり、今年度も減価償却費や広告宣伝費、一般管理費を中心に1,500億円を超える削減を実行します。

NISSAN NEXT のゴール

最後に、事業構造改革「NISSAN NEXT」について触れたいと思います。この取り組みは、2023年度までの4年間で、会社を成長軌道に戻し、その先10年を戦っていくための十分な体制を再構築することです。過度な販売台数の向上は狙わず、収益を確保した着実な成長を果たすこと、自社の強みに集中し、事業の質、財務基盤を強化すること、そして新しい時代の中で「日産らしさ」を取り戻すこと、この3つが大きなポイントです。

持続的な成長に向けた新しいロードマップ

事業規模の最適化に向けては、先ほどご説明したとおり、2020年度末までに2018年度対比で固定費を3,000億円削減するという目標を計画どおり達成する見込みです。加えて、2023年度末までに生産能力の540万台規模への最適化、そしてグローバル商品ラインナップの効率化と競争力の強化に向けた取り組みを進めていきます。

また、選択と集中により、コアマーケット、コアモデル、コアテクノロジーに持続的にリソースを投入することで、確実なリカバリーと着実な成長を目指しています。これらの改革を実行する支えとして、品質重視やお客さま志向、そして、私たちのビジネスパートナーであるサプライヤー、ディーラーとの連携が必要不可欠であることは言うまでもありません。

新車攻勢:12の新型車を投入

また、今後18ヶ月の間に少なくとも12の新型車を投入し、商品ポートフォリオの若返りを図る計画についても着実に進行しています。米国では、最も売れている日産車である「ローグ」を一新することに加え、「パスファインダー」と「フロンティア」、そして「インフィニティ」2車種を投入し、販売の質とブランドをさらに向上させていきます。

日本国内では、日産ならではの電動パワートレインである、e-POWERを全グレードに搭載した、新型「キックス」を発売しましたが、今後、e-POWER搭載車をさらに拡充し、「アリア」と併せて電動化率を60パーセント近くまで引き上げ、さらなる攻勢をかけていきます。また、当社の強みであるC、D、EV、スポーツカーのセグメントにおいて、今後もラインナップの刷新と商品力の強化を積極的に進めていきます。

日産の歴史の新たな扉

先日発表しました「アリア」は、日産の新しい顔として、新ブランドロゴとともに、日産の歴史の新たな扉を開きました。日産の強みのすべてを結集させたクロスオーバーEV「アリア」は、すでに世界中から2万人を超えるお客さまから、購入に関心を示していただき、EVのフロントランナーとしてブランドを牽引していくものと期待しています。

本日発表しました2020年度の見通しは、いま置かれている厳しいビジネス環境と自社の事業構造改革の取り組みも相まって、大変厳しい内容となりますが、私は「NISSAN NEXT」を確実に実行していくことで、マイルストーンとして掲げた、比例連結ベースで2023年度に営業利益率5パーセント、マーケットシェア6パーセントというレベルの達成は実現できるものと確信しています。必ず成長軌道に戻し、再び輝ける日産の復活に向けて妥協せず、覚悟をもって取り組んでいきます。私からは以上です。

質疑応答:足元の市場情勢および業績見通しについて

質問者1:業績に関連した質問です。新型コロナウイルスの影響を大きく受けている足元の各主要市場の経済情勢をどのように見ていますか? 今回発表した業績見通しの赤字幅は想定内だったのでしょうか?

内田:5月末に「NISSAN NEXT」についてご説明した際に、当社は2019年度の全体需要が前年度対比で約15パーセントから20パーセント落ち込むことをお伝えしていました。

このような中で、2019年度期内の結果と、また2020年の見通しを策定して、2021年度には全体のCOPが2パーセント以上ということをお伝えした経緯があると思っています。したがって、そのような面では、この第1四半期の実績ならびに見通しは、非常に厳しい内容になっていますが、これは想定していたことです。

ただ、地域別に見ると、やはり足元ではこの2か月間でアメリカの状況が非常に厳しくなっていると思っています。今回発表した内容、「NISSAN NEXT」の取り組みを確実に実行していけば、2023年度までには会社を再び成長に戻せると確信しています。我々は妥協することなく、覚悟をもって全社一丸となって事業改革に取り組むことが一番重要だと思っています。

もう1つお伝えすると、地域によって新型コロナウイルスの影響が非常に不透明になっています。このような面では、今後状況を注視しながら、各地域ごとに「NISSAN NEXT」に基づいた戦略を確実に実行するということに尽きると思います。この点に関して、我々経営者層と全社でもって一丸としてやっていくということでごす。

質疑応答:第2四半期以降の業績における日産特有のマイナス要因について

質問者2:第2四半期以降に、世界の自動車需要が徐々に回復していくという市場の予測が多く、日産も同様の見通しを持ってると思います。ただ、営業利益ベースで見ると、日産は第2四半期以降も回復のスピードは非常に鈍いというか、回復の兆しがあまりない状況に見えるのですが、新型コロナウイルス以外の日産特有の理由があるのでしょうか? どういった要因があるのか背景の解説をお願いします。

内田:先ほど申し上げたとおり、当社は、販売台数が中国の事業を除いたベースで22.5パーセント減少していることに加えて、部品販売の減少も伴っています。また、連結販売会社収益の悪化、そして先ほどの増減分析で説明したように、販売金融事業の貸倒等引当金の追加計上を含む収益の悪化、工場の稼働低下による効率の悪化、このような影響を含んで、数値的には非常に大きなレベルの減少を2020年度見通しとして見ています。

もう少し中身を言うと、今後、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を注視しながら、卸売へのプレッシャーをかけずに、在庫レベルの管理を通年を通して徹底していく計画にしています。

このような中で、事業構造改革で申し上げた固定費の削減については、2018年度対比で3,000億円を確実に行なえる計画を織り込んでいます。このような内容で、「NISSAN NEXT」に向けて、確実に我々の成長に向けた活動を、この年の中で進めていくという内容になっています。

全需で言うと、ご指摘いただいたとおり、まだまだ新型コロナウイルスの状況は不透明ではありますが、遅くとも第4四半期には全年度対比で少しプラスになるという前提の計画として数値自体は織り込んでいます。

質疑応答:営業利益率の目標達成の見込みについて

質問者3:「NISSAN NEXT」の中で、来年度に営業利益率2パーセントを見込んでおり、2023年度には5パーセント以上という計画ですが、今年度はかなり厳しい内容の決算になっています。足元の新型コロナウイルスの状況も不透明になる中、本当に来年の2パーセントや、2023年度の5パーセントを達成できるのかが少し気がかりなのですが、そのあたりの達成の見込みとその根拠を教えていただけますでしょうか。

内田:当社で努力できるコストのゾーン、「NISSAN NEXT」の中で申し上げた固定費3,000億円の削減に関しては、確実に実行していきます。それを進めつつ、先ほど申し上げたとおり、新車に関しても、今後どんどん随時マーケットに投入していきます。その中で、やはり新車における売上や利益を着実に出していくことが一番重要だと思っています。

また、今回の2020年度見通しは、「NISSAN NEXT」の時点である程度見込んでいた数値でもありますので、確実に新車において我々の売上を伸ばしていく、利益を拡大していくことを実行していければ、必ず2021年度に掲げた2パーセントの収益は出せると確信しています。したがって、当社が過去に過度なストレッチをしていた台数に関しては、新型コロナウイルスの影響を見ながら確実にコントロールをしていくことが重要だと思います。

既販車で卸売を無理なかたちでやらないということと、確実に新車の台数を伸ばしていくことの2つを実行していけば、固定費でコストの部分を補い、2021年度には我々が計画している数値が達成できるということです。

質疑応答:アメリカ・中国・日本市場の状況について

質問者4:アメリカ市場についてです。とくに、小売りのシェアやフリート構成比、在庫はどうなるのでしょうか? また、台当たりの売上高を上げるというのはどうなるのか、インセンティブはどうなるのか聞かせていただきたいです。販売奨励金であるインセンティブが、これらの他の課題に対してどう影響するのかということです。

また、アメリカだけではなく、御社の他の重要な市場である日本と中国で同じ取り組みを進めているのでしょうか?

グプタ:まずはアメリカからご説明したいと思います。アメリカは、当社にとって極めて重要な市場です。そして、アメリカ市場では事業改革計画を実施しています。

事業改革計画は5つの重要な柱に基づいています。1本目の柱は、商品ラインナップの刷新です。アメリカでは、いまの平均車齢は5.4歳です。初車種の新型車は向こう28ヶ月で投入し、車齢を3.3年まで下げます。まずは「セントラ」を投入して、新しい「ローグ」、そして「フロンティア」「パスファインダー」などを入れていきます。この商品戦略を支えるのは、当社の技術戦略です。技術戦略は、最新の先進技術、例えば「プロパイロットアシスト」など、安全装備を搭載していきます。

事業改革の2本目の柱は、どちらかというとセールスパワーについてです。つまり、ディーラーエンゲージメント、ディーラーとの関係の良化です。2月に包括的なディーラーエンゲージメントプランを実施しました。これは、ディーラーの財務的な健全性と中期的な事業の関係を構築するというものです。これは正しい方向に向かっています。

3つ目の柱はブランドパワーです。ブランドパワーについては、土台づくりを行なっています。J.D.パワーのアピールのスコアで、4つのセグメントで評価されました。J.D.パワーのIQS(自動車初期品質調査)では、日系ブランドで2年連続1位です。しかも、7車種がコンシューマーレポートで推奨いただきました。また、レピュテーションも最高のスコアを獲得しました。つまり、お客さま、そして格付け会社、評価機関は、私どもの商品と技術を信じ始めているということです。

4つ目の柱は固定費です。私どもの生産能力は、スマーナ工場とキャントン工場で見直し、固定費を削減しています。また、5つ目の柱は企業の文化です。企業の文化を台数から価値志向にしています。

ご質問にお答えしますと、小売の販売は大きく伸びている一方、フリートの販売は大きく下がっています。その結果として、アメリカでは、賞味売上高が台当たり700ドル改善しています。5つの柱を実施しつつ、新型「ローグ」も投入しますし、他にも新型車を入れていきますので、採算性がある成長を果たしていけると思っています。

次に中国についてですが、2桁台の市場占有率を獲得していますし、利益も獲得していますので、事業戦略はもちろん中国中心で進めていきます。ただ、中国では初めて買うファーストタイムバイヤーから2台目を買う人が増えており、市場占有率がもともとは2桁台の成長を果たしていたところ、1桁台で成長しています。

日産自動車は新しい技術を商品に搭載しています。プロパイロットアシストやe-POWERを搭載することによって、中国の2台目を買うお客さまの期待にお応えするためです。ここで中国は成長させていきます。そして2桁台の市場占有率を狙っていきます。

最も重要なのは国内市場、ホームマーケットです。日本では強みがあります。第一に、ブランドパワーが素晴らしいです。日本国内では日産は技術のブランドとして評価されています。だからこそ、自動運転技術ではプロパイロットも評価されています。電動車両e-POWERも採用されていますし、電気自動車も評価されていて、コネクテッドカーも認められています。これらのブランドパワーや力強いディーラーとの関係を活かして、新型車をどんどん入れていきます。

国内では、この34か月間、登録車の新型車を入れていないため、なかなか登録車のシェアが上がりません。ただ、新型「キックス e-POWER」を投入するほか、7車種の新型車も投入を控えていますので、ブランドパワーならびにセールスパワーも活かし、新商品を入れ、車齢も平均で4歳未満になっていきます。以上が、日米中の話です。ビジネス戦略もありますが、これらの3つの市場に集中していきます。

質疑応答:新型コロナウイルス収束の見込みについて

質問者5:内田社長に質問です。新型コロナウイルスの影響がいつ収束すると見ているか、もう少し教えていただきたいです。とくに、2020年度の全需の回復について、四半期ごとにかみ砕いてどのように推移していくと見ているか教えてください。

内田:非常に難しいご質問だと思います。先ほどお伝えしたように、足元、この2か月でも地域別に大きく状況は変わっていると思いますし、先々が非常に不透明であることから、少なくとも我々がどういったレベルの想定で今回の事業計画を作っているかお答えします。

今年度第1四半期は、全需が前年対比で約44.5パーセント落ちています。我々は、第2四半期、第3四半期にかけて、地域差は当然ありますが、ここから徐々に回復して、第4四半期には全体で前年対比プラスに転じるかと見ています。

ただ、第1四半期の落ち込みが、先ほど申し上げたように44.5パーセントと非常に大きいために、年度では16.3パーセントのマイナスとなる見通しです。地域差が非常に大きくあると思っていますので、その地域に関しては、我々はいろいろなかたちで想定したものをベースに、今回の見通しの数値を作り上げています。

質疑応答:ネットキャッシュの減少要因およびキャッシュフロー健全化の見込みについて

質問者6:資金面について質問します。ネットキャッシュは、1年前に1兆円以上あったのが、現在は2,300億円強と減少していますが、その要因についてあらためて教えていただきたいです。資金策については、社債の発行等がリリースに書かれていますが、本当にその資金は大丈夫なレベルなのでしょうか? また、キャッシュフローが健全化するのはいつ頃になると見ていますか?

スティーブン・マー氏(以下、マー):プレゼンでご覧いただきましたように、フリーネットキャッシュポジションは1兆円から2,352億円に下がっています。それは、フリーキャッシュフローが第1四半期で8,157億円下がっているからです。フリーキャッシュフローが一番大きな要因となっています。

どうして減ったかと言いますと、コロナ影響で売上が減っているためです。我々は、プロダクションで過去に行なわれたものには、サプライヤーに対して払わなくてはいけないということで、支払い分が出ている一方、入ってくる分は少ないということです。これは、生産が立ち上がってくると回復するであろうと思っています。

ただ、グプタのプレゼンで言いましたように、現時点において、いろいろな施策を取っています。COVID-19対応のため、追加の1,824億円を含めて8,950億円以上の資金調達をしています。また、未使用のコミットメントラインが約1兆9,000億円あります。ですから、いまの時点では流動性は問題なく、我々の懸念ではありません。

キャッシュフローがいつ黒字になるかということですが、生産と台数も改善し、ブレイクイーブンになるのがこの年の後半になると思います。もちろん状況は注視しますが、今年度後半に期待をかけています。

質疑応答:研究開発費や投資の優先順位について

質問者7:日産自動車は研究開発費用をどれくらい使うのでしょうか? 投資について、どのように優先順位をつけられるのですか?

内田:「NISSAN NEXT」でもご説明したように、合理化する中でも成長のための投資は欠かせません。投資は続けていきます。数字については、CFOのマーから前年に対してどれくらい支出したのか公表しましたので、今年度はどれくらいの水準になるのかご説明しますが、メッセージとしては、必要な投資を行ない、当社が成長の軌道に乗せるべく進めていきます。

マー:大雑把に言うと、5,300億円ほどの研究開発費用を想定しており、この数字は前年並みです。前年度は5,440億円から5,450億円でしたので、為替影響をいれますと、前年並みということになります。

設備投資については、大雑把に言うと4,400億円ほどです。前年は5,190億円ほどでしたので、前年よりもやや少なくなります。コア市場やコアの商品について、きちんと予定通りに立ち上がるように取り組んでいます。現時点では非常に慎重に、投資と研究開発費用については、コアモデルやコア市場に集中できるようにしています。

質疑応答:新車種の投入について

質問者8:商品軸について質問です。中期経営計画で打ち出されたように、「キックス」をはじめ、4車種を立て続けて発表されました。新車種のうち、「ローグ」は今年の秋、「アリア」は1年先の発売ということで、効果はまだ少し先になるかと思いますが、商品計画の業績の押し上げ効果について教えてください。

中期経営計画の新車構成で、「1年半で12車種」と打ち出されていますが、コロナ禍で足元の業績が厳しい中で、今後の商品計画で何にフォーカスしていくのか教えていただけたらと思います。また、新型コロナウイルスの影響による商品計画の遅れや、需要減の影響なども、どの程度見ているのか教えていただけたらと思います。

ちなみに、「アリア」について、「2万人が関心を示している」というお話があったと思うのですが、これはハンドレイザーのことかと思います。この手ごたえについて、一言教えていただけたらと思います。

内田:「アリア」は、おかげさまでご好評をいただいており、はやくもハンドレイザーが2万人のレベルになっています。我々は、日産の技術を結集したこの車、日産のイメージにもなる車を、いかにお客さまに届けることができるかということで、ハンドレイザーをはじめ、これから大切にお客さまを育てていきたいという思いからやっています。このような面で、すでに2万人の方々からご関心をいただいたということは、我々の励みにもなっていますし、今後の「NISSAN NEXT」につながることですので、期待しています。

そして、商品の投入については、このコロナ禍の厳しい中で、当然各市場の動向を見ながら、適切なタイミングで商品を投入していくということを日々計画しています。今後、新型コロナウイルスの状況に応じて、そのタイミングを含めて、各地域と連携して進めるということを1つの方向としています。具体的な内容について、グプタの方から少し追求してもらえればと思います。

グプタ:先ほどアメリカと中国、日本の話をしましたが、もちろん多くの市場で新型車を投入していきます。そのような中で、アメリカと中国、日本はコア市場のままです。とくにアメリカ、日本については、新型車が持続可能な成長を支えます。

だからこそ、いろいろと厳しい環境がある中、コロナウイルスがある中でも、日産としては引き続き新型車の開発に集中してきました。そして、「キックス e-POWER」を立ち上げ、新しい「ローグ」を立ち上げ、「セントラ」を立ち上げることができました。向こう数ヶ月間で、新型車の投入は予定どおり推進していきます。さまざまな厳しい環境でも、アメリカと日本を中心に進めていきます。

質疑応答:業績回復に向けた取り組みについて

質問者9:もう少し幅広いテーマについてお聞かせください。全体需要が新型コロナウイルスの影響の中でどのように回復するのかという話です。先ほどのお話では、コストカットは順調に推移していますが、売上高も確保しなければいけません。

コロナウイルスの中で「セントラ」を予定どおり2月に立ち上げていますが、販売は60パーセントほど下がっていると思います。何があれば全体需要が業績を支えるようになるのでしょうか? つまり、業績回復のために、コストと売上高のバランスをどのようにとろうとしているのでしょうか?

グプタ:「NISSAN NEXT」を発表した際に、最初にやったことは固定費の削減です。固定費を削減する唯一の理由は、門構えを見直して生産能力を売上高に合わせたということです。6パーセントの市場占有率を前提に、540万台への生産能力の削減を2023年度に達成します。

どうして540万台の生産能力にしたかというと、きちんとロジック、理屈があります。2023年度までに、世界市場は9,000万台に戻るという予想です。そして市場占有率を6パーセント目指すのでしたら、前年度は5.7パーセントで、そこに新型車を投入しますから、6パーセントは達成可能です。9,000万台の6パーセントは540万台ということです。したがって、第一の目標は、コストを540万台に中期的に合わせていくということです。

次に、2020年度は新型コロナウイルスの影響を受けています。新型コロナウイルスの影響で、各市場、中国込みでいうと前年に対して全体需要は17パーセント減少しています。中国を除くと、全体需要は大雑把に言うと22パーセント下がります。つまり今年度は、当社が売上高にチャレンジするということです。だからこそ、固定費の削減に取り組んでいるのです。実は、固定費の削減は加速化しています。そうすることで、できるだけ今年度は門構えを見直そうとしているのです。

今後のことはわかりませんが、来年度は、グローバル全体需要が大雑把に言うと5パーセントほど、2019年度よりも下がると考えています。2022年度になりますと、ほぼ2019年度並みに戻ると想定しています。2023年度は2018年度並みに戻ると考えています。つまり9,000万台になるということです。

ただ、厳密に言うと、当社は固定費の削減をさらに加速化します。そして生産能力と組織の門構えを短期の売上高と中期の売上高に見直していきます。その一方で、引き続き新型車と新技術に投資を続けることによって、持続可能な成長が実現します。その戦略を実行しています。第一に固定費の削減、そして第二に種まきとして、新型車や新技術に投資していくということです。

質疑応答:サプライヤーとの関係改善について

質問者10:5月末の決算発表で、内田社長がサプライヤーとの関係改善に取り組むとおっしゃっていましたが、具体的にどのようなことを行なっていくのか、また、すでに取り組みを開始したことがあれば教えてください。

内田:今日も「NISSAN NEXT」のご説明の中で、我々はビジネスパートナーシップの強化を進めるということを、再度お伝えしています。これにはもちろん、今後の厳しい状況の中で、我々とサプライヤーがいかにお互いに成長できるかということです。

具体的な取り組みは、CEOのグプタからご説明したいと思いますが、大きな考え方としては、今後の時代を踏まえて、いままでのやり方から変えるということで、すでにサプライヤーとの間の話も購買部門を中心に着手しているということだけは、私の方からお伝えしたいと思います。

グプタ:私が強調したいのは3点あります。パートナーとの関係、サプライヤーとの関係において、1つ目は透明性です。我々は、事実を受け入れなければいけません。我々のサプライヤーというのは、日産のグローバルプランについてくるわけです。したがって、日産が抱えているチャレンジ、すなわち、固定費が高いということ、キャパの稼働率が低いということは、サプライヤーにとっても同じ問題になるのです。「NISSAN NEXT」は、利益中心ということで、台数中心ではありません。

サプライヤーともそれを共有します。彼らにもそれを考えてもらわなければなりません。彼らの中期経営計画も「NISSAN NEXT」に平仄を合わせなくてはならないということが透明性ということです。

持続可能な関係を持つために、2つ目に重要なことがあります。それは、我々は新しい技術、新しい商品を世界的に展開するということです。私が信じているのは、サプライヤーはいろいろなよいアイデアを持っているだろう、そしてそれは、我々の商品の競争力を高めてくれるだろうということです。したがって、我々は早めにサプライヤーを巻き込み、我々と一緒にやってもらいます。新しい技術についても、コストについても、品質についても、デリバリーについてもそうです。最も競争力のあるものを出していきたいと思います。

3つ目も非常に大事なことです。日本語で「原価削減」という言葉がありますが、サプライヤーと一緒にコストを改善したいと思っているのです。これは、本当のモノづくり活動です。まずは透明性を確保し、そして短期・中期の関係性を構築し、早めにサプライヤーを巻き込んで我々の新商品・新技術を開発する、そして原価削減ということで、本当の意味でモノづくり活動をするということで、ヘルシーなサプライヤーとの関係ができると思います。以上です。

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