現役世代と退職世代では影響に違いも
新型コロナウイルス蔓延の影響は、現役世代と退職世代ではその度合いや受ける形に違いがあるように思われます。特にお金に関連する点では、収入への影響と資産運用への影響では大きな差が出るのではないでしょうか。
例えば、現役世代にとっては、経済活動が停滞することでビジネスそのものに悪影響が出て年収が減るといったマイナスの影響があることは容易に想像できます。一方で、一時的な金融市場の混乱は、長期的な目線に立てば資産形成にとってはそれほど大きなマイナスにはならないはずです。
退職世代にとっては、公的年金等の収入は比較的安定しており、大きな不安はないでしょう。しかし、まだ勤労所得を必要とする場合には、現役世代よりも収入減の懸念が大きくなるかもしれません。
さらに資産運用面では取り崩しの時期でもありますので、時間をかけた取り崩しで影響を軽減できるとはいえ、相対的には現役世代よりもマイナスの影響が大きくなるかもしれません。
そこで、今回と次回の2回に分けて、その影響を英国での報告書と、以前に行った高齢者の資産取崩しから考えていくことにします。
英国では3割が貯蓄を取り崩す状況に
まずは、英国での状況を紹介することにします。英国では新型コロナ禍で都市のロックダウンが実施されてから、毎週アンケート調査が実施され、マスクの着用状況や出勤状況などの比率が政府(Office of National Statistics)から発表されています。
そのなかには、家計に関する質問も含まれています。7月10日付けの発表では、回答者の「29%が生活費のために貯蓄に手を付けなければならなくなった」と報告しています。
投資ガイダンスへの問い合わせ急増
資産活用世代に目を向けてみましょう。
英国では、2015年から年金制度の引き出し規制緩和に伴って、年金を引き出した人に政府が無償で投資ガイダンスを行う「Pension Wise」という制度がスタートしています。さらに2019年には、この担当機関と他の金融教育機関が統合されて、現在「Money and Pensions Service(MaPS)」という機関になっています。
その機関が最近、新型コロナの影響に関連して報告書を出しました(Corporate Plan 2020/21; Responding to the Covid-19 Pandemic)。
その中で、「ガイダンスへの問い合わせの件数は当初に減少したものの、その後急増した。その際の問い合わせの内容は、確定拠出年金資産へのマーケット変動の影響、退職計画の見直しの必要性、万一の場合の死亡・疾病の保障などが中心だった」と報告しています。
気になるのは、この報告書で記述している今後のことです。「短期的には問い合わせの件数が通常レベルに戻るものの、年末に向けて経済的要因、例えば倒産による企業年金の制度閉鎖などから、再び急増する可能性がある」との指摘です。
単にマーケット変動の問題ではなく、企業年金も含めた退職後年収そのもののレベルに直接影響が出かねない」とすれば、大きな懸念といえるでしょう。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史