日本政策金融公庫(以下、公庫)をはじめ民間金融機関でも新型コロナウイルス対応型の融資制度を拡充しています。公庫の制度は、実質3年間無金利で最大5年間元本を据え置きできるなど大変魅力的なものとなっています。
さらに公庫では、新型コロナ対策資本性劣後ローンという制度の運用が8月3日より始まりました。どのような制度なのでしょうか。
1. 資本性劣後ローンの特長
通常の融資は「借入金」ですので、貸借対照表では負債の部に該当します。負債が増えると自己資本比率が下がり、状況次第では企業の格付けが下がってしまいます。格付けが下がると以後の借り入れが難しくなる場合もあります。
一方で、自己資本として調達しようとすると、株式を発行し、譲り受けた株主に議決権を渡すことになり、会社の意思決定に影響を与えることになります。
資本性劣後ローンは、この両者の問題を一挙に解決できる融資制度です。本来は負債でありながら、融資の審査では自己資本とみなされ自己資本比率を高められます。また、融資ですから他者に議決権を与えることなく資金調達が行えます。
2. 融資限度額
通常の融資制度とは別枠で、7200万円(国民生活事業の場合)を限度に調達できます。事業再建や発展に向け資金ニーズが大きい企業にうってつけです。
3. 元本の返済は最後
資本性劣後ローンは、元本の返済が5年1ヵ月、10年、20年のいずれかの契約期間末に一括返済となります。それまで返済はありません。融資期間中は元本返済を気にしなくてもよいため、資金繰りが好転します。
4. 金利は業績連動
金利は当初3年間1.05%ですが、3年経過後の金利は税引前当期純利益が出たか出ないかで決まります。利益が出れば金利が増え、利益が出ないと金利が減るというユニークな設定になっています。利益に準じて行う配当金と同じイメージです。なお、金利は毎月支払います。
5. 申し込み要件
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた法人または個人企業(個人事業主)の方であって、次のいずれかに該当する方が申し込みできます。
- J-Startupプログラムに選定された企業又は中小企業基盤整備機構が出資する投資ファンドから出資を受けた方
- 中小企業再生支援協議会の支援を受けて事業の再生を図る方
- 原則として認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の指導を受けて事業計画を策定し、かつ民間金融機関等との協調支援により事業の発展又は継続を図る方
協調支援とは公庫と民間金融機関が一緒になって融資をするものです。金融機関はお互いリスクを分散できるため、融資が行いやすいという特徴があります。
6. ベンチャー企業にも使える
これまでの新型コロナウイルス対応型の融資制度は、売上が前年と比べて下がっているかが要件となっていたため、そもそも売上のないベンチャー企業は要件に該当せず、コロナ融資を利用することができませんでした。資本性劣後ローンではそのような規定がないため、ベンチャー企業でも利用することができます。
融資を検討している場合は、融資に詳しい税理士や中小企業診断士などに相談してみてはいかがでしょうか。
中野 裕哲