2020年5月11日に行なわれた、参天製薬株式会社2020年3月期決算説明会の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:参天製薬株式会社 代表取締役社長兼 CEO 谷内樹生 氏\n参天製薬株式会社 常務執行役員 経営管理担当兼 CFO兼 財務・管理本部長 越路和朗 氏\n参天製薬株式会社 執行役員 中国R&Dスーパーバイザー 森島健司 氏\n参天製薬株式会社 中国事業統括 山田貴之 氏

参天製薬の基本理念・基本使命

谷内樹生氏:みなさま、こんにちは。本日は決算説明会にご参加いただきまして誠にありがとうございます。社長CEOの谷内でございます。この度はCOVID–19に伴う外出自粛要請を受け、地元での開催としています。ご理解、ご協力を賜り、あらためてお礼を申し上げます。

それではご説明を開始いたします。3ページをご覧ください。ご存知のとおり、「天機に参与する」という言葉が参天製薬の基本理念です。創業は1890年で、今年は130周年に当たる記念すべき年となります。

新型コロナウイルス感染症に関する参天グループの対応

COVID–19に関する参天グループの対応についてご説明します。弊社は、グループ全体の社員数の過半数が海外に存在しています。グローバルな事業活動を約70ヶ国に対して行なっています。

とくに、中国では全社員の約20パーセントが働いており、中国向けの製品供給、販売活動を行なっています。そのため1月の比較的早い段階から、感染症の拡大に対して基本理念の「天機に参与する」に則り、3つの方針、すなわち「安定供給」「ウイルスの拡散防止」「イノベーションの継続」を最優先事項として明確に定めました。また、社長直轄のチームを作るとともに、1月の末からグローバルに順次展開し、迅速に対応を行ない、事業継続性を確保してきました。

具体的には、中国、日本、アメリカにおける工場や研究所での安全対策の徹底、および原材料や試験薬等の確保、全世界的なテレワークへの移行と出張移動の禁止、講演会等のWebでの開催への移行など、さまざまな分野にわたり変更を行なってきました。また、これによって事業継続性を確保してきています。

私自身ももうほぼ3ヶ月間、すべての業務を在宅で行なっています。引き続き安全確保等、事業継続性に注力していきたいと思います。

役員人事

4月1日よりマネジメント体制を刷新しました。谷内が社長兼CEOとして、執行全体に対し責任を持つかたちとなりました。一方で、これまでCEOであった黒川は、会長として経営の監督ガバナンスを担っていくことになります。また、グローバル化、事業展開の加速化に伴い、新たに執行役員4名を登用し、戦略実行力を高めていきます。

中国事業統括の山田は、2月以降、現地でCOVID対策の陣頭指揮を執っています。後ほど現在の状況についてお話いただきたいと思います。

次期長期ビジョンを7月に発表予定

なお、前回の説明会でも少しご案内しましたが、今年で完了する長期ビジョンの後を受け継ぐ、新しい長期ビジョン戦略をこの7月に発表する予定としています。これは、参天が過去130年間培ってきた組織的な能力をベースに、2030年に向かってどのように成長していくかをまとめたものとなります。詳細はまた7月以降にお話ししたいと思っています。

基本的には、大きく「製薬」というこれまでの枠を越えて「眼科」、眼科全体に対する技術革新、あるいはイノベーションにどのように取り組んでいくのか、そして、眼を通じて、患者さまや社会全体にどのように貢献していくのか、という方針です。すでに、遺伝子治療や細胞治療への取り組み、デジタルヘルスへの取り組みなど、長期的な成長に向けた活動を開始していますが、それらを包含した新しい成長戦略としてお話ししたいと考えています。

2020年度の考え方(新型コロナウイルス感染症の影響)

2020年度の業績についてお話ししたいと思います。全社会的にまだまだ大変な状況ではありますが、参天としては、利益率の向上、増益を目指します。もちろん、疾患や国ごとによってさまざまですが、売上については、COVID–19の影響は受けると思います。それに対し、我々としては、経費の徹底管理、活動の選別を徹底することで利益率の確保と増益を実現していきたいと考えています。

その一方で、長期的な成長につながる研究開発活動、事業開発投資、ならびに設備投資については引き続き継続していきたいと考えています。そして、この2020年度を増益基調で乗り越え、2021年以降の成長に弾みをつけていきたいと考えています。谷内からは以上です。

新型コロナウイルス感染症に伴う中国事業の現状

山田貴之氏:中国の新型コロナウイルス感染症に伴う事業の現状について、中国事業統括の山田よりご説明します。現在、中国の経済活動、ならびに医療活動については、順調に回復してきています。それに伴い、参天の現地の活動も適切に対応し、今後のさらなる成長に向けた活動の準備を順次行なっている状況です。

医療活動については、2月、3月は来院、手術患者は大幅に減少しました。現在もその影響は続いていますが、徐々に戻りつつあります。手術については、私立病院や若年層が多いレーシックなどについては戻りが早いという報告を受けており、我々としてもこの先明るい見通しを見立てています。

参天の状況ですが、先ほど谷内からもお伝えしたとおり、製品供給を第1優先とし、旧正月が明けた2月10日から工場の再稼働をしており、供給のリスクはありません。営業活動についても、4月1日から我々のMRは各施設、各状況に応じて訪問を再開しています。2月、3月においては、Webセミナーなどを80回行ない、適切に活動を続けてきました。

なお、我々の現地での売上の状況について、第4四半期は大きな影響がありました。こちらは、先ほどお伝えしたとおり、外来や手術患者の減少によって引き起こされたものであると考えています。こちらの影響はしばらく続くと見ていますが、上期中には回復すると見立てています。それを踏まえて、従来の重点品目に加えて、新たにNRDLに収載されました「タプロス」を基軸に、さらなる成長を実現すべく活動を進めています。

また、当社の感染症対策に関して、蘇州工場では、出勤時の健康チェックや体温検査、あるいは食堂において間隔を開けて着席して食事をとるなど、万全を期して対策をとっています。山田からは以上です。

2019年度通期業績

越路和朗氏:2019年度の通期業績は堅調な決算でした。売上は第4四半期に新型コロナウイルス感染症の影響は受けたものの、国内外ともに全体では順調に推移しました。コアベースでの営業利益においては、費用の見直し等により増益を確保しています。

2019年度通期 売上収益(前期比)

売上の詳細ですが、日本においては10月以降の薬価改定、海外においては円高の影響がありましたが、ともにそれらを吸収し増収を実現しています。海外では、現地通貨ベースで中国、アジアで2桁の成長、欧州においても8パーセントの増収となりました。

2019年度通期 コア営業利益 (前期比・地域別)

こちらはコア営業利益の詳細です。2018年度からの増益の要因を地域ごとにブレイクダウンしていますが、日本、中国、アジア、EMEA、それぞれの地域において増益を確保しています。

2020年度通期業績予想の前提

2020年度の通期予想の前提です。先ほど社長から説明がありましたとおり、売上は影響を受けますが、その分経費も抑制することにより、増益を目指すと考えています。

2020年度通期業績予想

通期業績予想の詳細については、先ほどお伝えしたとおり、売上は減収になりますが、販売管理費、研究開発費を最適化することにより、コアベースでの営業利益では増益を目指します。

配当

株主還元についてです。前年度の27円から1株あたり28円へ増配を計画しています。

jCyte社提携:網膜色素変性症

森島健司氏:研究開発の現状について、森島からご報告します。参天製薬はjCyte社と網膜色素変性症における細胞治療プログラム「jCell」のライセンス提携契約を締結しました。「jCell」の説明の前に、網膜色素変性症について簡単にご説明します。

網膜色素変性症は視神経、網膜色素上皮細胞が変性することで起こる遺伝性の網膜疾患です。これに関連する遺伝子としては、60種類以上が報告されています。視細胞はカメラのフィルムの部分に相当し、光を電気信号に変換する役割を担っています。この電気信号が脳に伝わることにより、画像を認識します。また、網膜の奥にある網膜色素上皮細胞は、この視細胞に栄養を供給したり、溜まった老廃物を除去する役割を担っており、視細胞の維持に不可欠な存在です。

網膜色素変性症は、その進行速度の個人差が非常に大きい疾患ですが、概ね10代に発症し、夜盲、視野狭窄、視機能低下へと徐々に進行していき、中高年になると失明に至ることが多いとされています。

日本では4,000人から8,000人に1人、アメリカでも4,000人に1人が網膜色素変性症と言われており、世界で190万人の患者がいると推定されています。日本では先天盲の第1位、視覚障害の第2位であり、指定難病に指定されています。現時点で確率された治療法がなく、治療法の開発が強く望まれる疾患です。

jCyte社提携:網膜色素変性症に対する細胞治療プログラム

今回契約を締結しました「jCell」はアメリカカリフォルニアにあるjCyteが開発を進めている、ヒト網膜前駆細胞です。すでにアメリカでフェーズ2bが完了しており、予備的な臨床上のエビデンスが示されています。

網膜色素変性には、遺伝子治療や細胞移植などさまざまなアプローチが進んでいますが、「jCell」は硝子体内注射で投与し、投与された細胞から神経栄養因子や成長因子を分泌し、光を受ける細胞へのダメージを抑制することで病態の進行を遅延させます。

疾患の原因となっている遺伝子変異を修復するものではないため、特定の遺伝子変異の患者さまに使用を限定されるものではなく、初期治療として幅広い患者さまに使っていただけると期待しています。

また、先生方が慣れておられる硝子体内注射で効果を発揮することが特徴で、網膜下投与とは異なり、硝子体手術や網膜切開が不要で、リスクが少ない簡便な治療ができます。

バイオマスプラスチック点眼容器の製品化

また、参天製薬は、点眼ボトルにバイオマスプラスチックでの製品化に成功しました。そもそも点眼容器はガラス容器から始まり、参天製薬で患者さまが使い勝手を追求した結果、日本初のプラスチック容器となり、その後もボトルパック、チップ・アンド・キャップ、患者さまの使いやすさを考えたディンプルボトルを開発してきました。今回、患者さまだけでなく、地球環境にも配慮したサトウキビを出発原料としたバイオマスプラスチックで製品供給を開始します。

まず、日本向けのチモプトールを最初の製品として、このバイオマスプラスチック容器に切り替えていきます。他の製品や海外向け製品への展開は、薬物との適合性やバイオマスプラスチックの安定供給などを確認しながらにはなりますが、順調に製品展開を進めれば、2030年頃には数千トン程度のバイオマスプラスチックを点眼容器に置き換えることができると想定しています。

点眼容器は小さいため、貢献としては大きくはありませんが、事業活動と一体となった環境課題への取り組みを進めていきたいと考えています。

研究開発の現状①

ここでは研究開発の現状について主に変化のあったパイプラインについてご報告します。ただ、新型コロナウイルスによって、とくに臨床試験で影響がありますので、計画が遅くなる可能性があることを事前にお伝えします。

まず「DE–128」は、新型コロナウイルスの影響で申請が当初の予定より若干遅れていますが、この四半期に申請完了できるよう社内で準備を整えています。審査が新型コロナウイルスの影響をどの程度受けるかという不確定要素はありますが、年内の上市を想定しています。また「DE–128」は、3月に韓国でも申請しており、今後もアジア各国で順次申請予定です。

「DE–126」は、今年の夏頃に探索的試験であるP2試験の開始を予定しています。これについても新型コロナウイルスの影響で遅延リスクはあります。

研究開発の現状②

「DE–127」、低濃度アトロピンですが、アジアでの試験は4月にLast patient outしており、7月に学会発表の予定をしていたのですが、この学会が延期されたため、他の学会での情報提供機会を探しています。また、日本で進んでいますP2/3試験は、今のところ計画どおり進んでいます。「DE–122」はすでに発表していますが、P2aで期待した効果を示さなかったため、開発の中止を決定しています。

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