本記事の3つのポイント

  • 液晶ディスプレー投資が消滅の危機。現在の整備計画が完了すれば新たな増産投資計画がない
  • 今後は競争力の落ちた8.5G工場を有機ELに転換する投資が活発化する可能性。ただ技術的課題も
  • 「ポスト液晶」をめぐる次世代の大型FPD技術は「有機EL」を本命に、その次の候補に「マイクロLED」が挙がりつつも、まだ混沌

 

 1973年にシャープが電卓の表示装置に採用して以来、FPD(Flat Panel Display)の主役であり続けた液晶ディスプレー。だが、現在浮上している新工場・新ラインの整備計画が完了してしまえば、新たな増産投資計画がないという状況に陥っている。

 新型コロナウイルスの感染拡大に左右される可能性はあるが、現在ある整備計画は、そのほとんどが2022年いっぱいで完了すると目されており、今後新たな計画が出てこなければ、23年以降は液晶の増産計画がなくなるかもしれない。将来のFPD設備投資の方向性を考えてみる。

残る液晶投資の大半は10.5G

 調査会社DSCC(Display Supply Chain Consultants)の予測によると、FPD製造装置市場(FPDメーカーの製造装置購入額)は、20年に151億ドル、21年に112億ドルと推移する見通しだが、このうち液晶向けは年々減少し、22年に約13億ドルが見込まれるのを最後に、23年以降は有機EL向けのみに限られてしまう。

 現在残っている液晶の増産投資計画は、そのほとんどが10.5世代(10.5G=2940×3370mm)ガラス基板を用いた大型テレビ用パネル工場の整備である。10.5G工場は、すべて中国に5工場が整備される予定。BOE(京東方科技)とCSOT(華星光電)が2工場、台湾フォックスコン傘下のSIO(超視堺国際科技広州)が1工場である。

 このうち、BOEの安徽省合肥「B9」、CSOTの深セン「T6」、SIO広州の3工場が稼働済み。残るBOEの湖北省武漢「B17」とCSOTの深セン「T7」の整備が進んでおり、B17は新型コロナウイルスの影響を受けて当初スケジュールから立ち上げ作業が遅れているが、CSOTは4月からT7への装置搬入を開始し、順調にいけば年末までに稼働を開始する予定。また、いったん立ち上げたものの、その後の増設作業が滞っていたSIO広州も、韓国FPDメーカーのテレビ用液晶生産撤退を受けて増設を再開している。

中国政府は新設投資を認可しない

 前記の10.5G工場5つがすべてフル稼働すると、10.5Gガラスで月間50万枚以上の莫大な生産能力に達する。

 液晶業界は、BOEのB9とCSOTのT6が稼働していた19年からすでに大幅な供給過剰状態にあり、テレビ用パネル価格の下落が続いた。こうした状況を受け、韓国のサムスンディスプレー(SDC)とLGディスプレー(LGD)は相次いでテレビ用液晶の生産から撤退することを表明し、SDCはテレビ用液晶工場の一部を新型のテレビ用有機EL「QD-OLED」の量産ラインへ衣替えする投資を推進中。LGDも有機ELシフトを加速し、韓国に10.5G有機EL量産ラインを立ち上げる計画を段階的に実行しつつある。

 DSCCの調べによると、韓国2社のテレビ用液晶の能力削減は21年いっぱいまで続き、テレビ用液晶パネルの世界全生産能力の4%が削減されることになるという。これにより、21年上期ごろにはテレビ用液晶パネルの価格が安定し、FPDメーカーの収益改善につながることが期待される。

 だが、新型コロナの今後の推移や、整備中の10.5G工場の立ち上げ具合によっては、韓国2社の減産の影響を10.5Gの能力追加分が相殺してしまい、再び深刻な供給過剰に陥ってしまう可能性がある。こうした状況を鑑み、中国政府は10.5G工場の新設計画をこれ以上認可しない方針だという。また当然、10.5G以上のマザーガラスを使って、さらに高効率な液晶工場を新設しようという動きも見られない。