8.5G工場の転換投資が出てくる
では、仮に22年いっぱいで前記の10.5G工場がすべて製造装置の設置を終えると、その後のFPD投資はどうなるのか。筆者は「競争力の落ちたテレビ用液晶パネル工場、なかでも8.5G工場の転換投資が活発化するのでは」と考えている。
10.5Gガラス基板からは65インチと75インチを効率よく取ることができ、55インチの製造効率が高い8.5Gとは得意とするサイズが異なる。だが、家庭用テレビのサイズを80インチ、90インチ、100インチへと今以上に大きくし続ける必要はないため、稼働開始から年数が経過した古い8.5G工場のいくつかは、コスト競争力の点でテレビ用液晶パネルを作り続けられなくなると想定される。
問題は、そうした8.5G工場で「液晶の代わりに何を製造するか」だ。現時点で最有力候補は有機EL。ただし、有機ELを製造するにしても、製造法には選択肢があり、①SDCのQD-OLEDのような新構造の有機EL、②LGDが量産しているボトムエミッション方式のWOLED、そして③インクジェット成膜プロセスを活用したトップエミッション方式の塗り分け式有機ELが候補として挙げられる。
大型有機ELはいずれの技術にも課題あり
①②③には、いずれもまだ技術的な課題がある。
①のQD-OLEDは、有機EL発光層を青色だけで形成し、この青色光を量子ドット(QD)層で色変換して赤色と緑色を作り出し、これにカラーフィルターもプラスしてフルカラーを実現する構造といわれている。QD層を新たに形成する必要があるため、WOLEDよりも装置・材料コストが高くなる、つまりパネルが高価になるといわれている。液晶がこれだけ低価格化したなか、「超ハイエンドテレビ用パネル」としての地位を新たに築く必要があり、マーケティング戦略を含めて売り方に相当な工夫を要しそうだ。
②のWOLEDは、8Kへの高精細化が難しい。ボトムエミッション方式であるため、開口率が下がると画面が暗くなる。現時点でLGDは開発ベースで65インチの8K化を実現しているが、50インチ台で8Kを実現するのは難しいと見るエンジニアが少なくない。もっとも、8Kテレビが今後どこまで市民権を獲得するのか未知数なため気にする必要はないのかもしれないが、いずれにせよWOLEDは現時点でLGDしか量産していないためコストが下がらず、液晶テレビと有機テレビの価格差は開く一方だ。
③のインクジェット技術は、そもそも量産実績がない。日本のJOLEDが5.5Gガラスで医療用やハイエンドモニター用の中型パネルをごく少量生産しているが、テレビ用の大型パネルを商業ベースで量産できるかという技術検証はこれからだ。