この記事の読みどころ

中国の4-6月期GDP(国内総生産)成長率は、数字上は目標をクリアしています(中国の2016年通年の成長率目標は6.5~7%)。また、2016年後半は長江流域における洪水の復興投資などが見込まれることや、金融緩和姿勢の維持を想定すれば通年でのGDP成長率目標の達成期待もあると見られます。しかし、数字が達成されたとしても、何点か注意は必要です。

  •  中国当局は個人消費を下支えする対策(減税)なども行っているが、その効果は?
  •  投資から消費へと構造転換を進め、成長の主体をシフトさせている中国。現局面では「投資」も成長の下支え要因の1つとなっているが、その中身は?
  •  成長とのバランスを取りつつ、過剰債務の問題に進展はあるのか?

中国4-6月期GDP:政策支援を受け、成長率は前年同期比6.7%増と市場予想を上回る

中国国家統計局が2016年7月15日発表した4-6月期のGDP(国内総生産)は、前年同期比6.7%増と市場予想(6.6%増)を上回り、前期(1-3月期)の6.7%増に並びました。

また、同日に発表された6月の工業生産と小売売上高も堅調で、工業生産は前年比6.2%増と市場予想(5.9%増)、前月(6.0%増)を上回りました。小売売上高については前年比10.6%増と市場予想(9.9%増)、前月(10.0%増)を上回りました。

一方、1-6月の固定資産投資は、年初来前年比9.0%増と市場予想(9.4%増)、前月(9.6%増)を下回り、勢いの鈍化が明確となりつつあります。

資金調達に目を向けると、中国人民銀行が発表した6月の経済全体のファイナンス規模は約1.63兆元と、市場予想(約1.1兆元)を上回り、資金調達にも回復が見られました。

どこに注目すべきか:小型車減税、インフラ投資、地方政府債券

中国の4-6月期成長率は、数字の上では目標をクリアしています。また、2016年後半は長江下流の洪水の復興投資などが見込まれることや、中国当局の金融緩和姿勢を仮定するならば2016年通年での成長率目標の達成期待も高まります。ただし、次の点に注意が必要です。

1点目は小売売上が回復を示すなど、景気の下支え要因となった個人消費における注意点です。

個人消費の伸びには2015年10月に導入された小型車に対する購入税率の引下げが寄与したと見られます。ただし、小型車に対する購入税減税は、中国では過去2009年から2010年にかけても導入されており、今回の減税策は単なる焼き直しとも見られます。

2009~10年の減税では小売売上の明確な底上げが確認されましたが、今回の減税効果は当時に比べると自動車の普及が進んだこともあり、前回ほどの効果が期待できない可能性も考えられます。

なお、2016年の個人消費は別の要因として、年初の住宅市場の回復を受けた家具の購入も下支え要因となっていたと見られますが、足元、住宅市場の勢い低下に伴い、家具の伸びが先行き低下する懸念もあると見ています。

金融緩和姿勢が維持されていることから、個人消費の勢いは、ある程度維持されるものと見られますが、個別の政策の中には注意すべき点も見られます。

2点目は成長を支える投資がインフラ投資に偏っている点です。

「投資」を見ても、固定資産投資の勢いが低下する一方、インフラ投資が伸びているという現象が見られます。大雑把に背景を述べるならば、インフラ投資を支える公的投資は好調な一方、民間投資が軟調であることを示唆しているためと見られます。

2016年後半は復興投資の増加が期待される面はあるものの、投資主体のバランスが偏っている点については、今後の投資の持続性という観点からやや気になります。

3点目は資金調達の内容です。

まず、中国当局は2013年からシャドーバンキング(銀行以外の金融仲介など)を取り締まってきました。しかしながらシャドーバンキングに概ね相当するオフバランス融資は増えてはいないものの、当局の取り締りにもかかわらず、明確なマイナス傾向は見られない状況です。

一方で、インフラ投資などに財源が必要なことから、地方政府による債券発行は急増しています。債券発行による調達であれば、透明性の面での改善は期待できるなどの成果は期待されます。しかし、過剰債務削減の成果について前向きな評価をするのは時期尚早と見ています。

なお、7月19日に国際通貨基金は、英国の欧州連合(EU)離脱の影響を加味した世界経済見通しを公表しました。中国を見ると2016年の経済成長率は6.6%と4月時点の予想(6.5%)から0.1%引き上げています。中国当局による政策の下支えを上方修正の主な理由としています。

ただ、2017年については成長率を4月時点の予想と同じく6.2%としています。今年6.5%を越える成長を期待しているものの、来年にかけて6.5%を超える成長率を中国が維持することについては荷が重いとIMFも見ている模様です。

中国の2016年のGDP成長率は数字の上では順調で、今年の目標水準を維持する可能性も考えられます。ただし、質の面で気になる点もあり、注意は必要と思われます。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文