新型コロナウイルスの感染拡大の封じ込めが峠を越え始めましたが、自らの利害を顧みず公益のために多大な犠牲を払っている何百万人もの人々に報いる確かな方法は、健康的で強靭な、より持続的な未来を実現することです。そのためには、環境にやさしい形(グリーン)に経済を再起動することが必要です。

HSBCはエネルギー、鉱工業、金融、市民社会セクターの同志とともに、低炭素、炭素排出量実質ゼロ経済への転換に向けた経済刺激策への投資を求めるエネルギー移行委員会(ETC)に参加しています。

世界の景気回復は前途多難ですが、同時に歴史的なチャンスでもあります。経済成長を最短で成し遂げられるような景気刺激策に傾きがちですが、それでは新興国市場を中心に、高炭素産業と二酸化炭素の排出削減が困難なセクターに多額の短期投資を行うことになりかねません。パリ協定で定められた目標達成が遠のき、人類が将来より深刻な気候変動の危機にさらされる恐れがあります。

そうではなく、景気回復に向けて各国政府が約束した何兆ドルもの財政支援を賢く使い低炭素経済への移行を加速すれば、より持続的で包摂的な長期の経済成長という未来を創り出すことが可能です。

景気回復プランの優先課題は将来の突発事に対するレジリエンスの向上

環境に関するテクノロジーの進歩に大規模に資金を提供し、再生可能な低炭素エネルギーを主流にするのに必要とされる多額の初期費用をカバーすることに取り組む好機です。こうすることにより、実体経済の安定にとって最大の脅威である気候変動リスクを軽減して、世界経済のレジリエンス(強靭性)を高めることにもなります。将来の突発事に対してレジリエンスを養うことを景気回復プランの優先課題にしなくてはいけません。

私は傍観者としてこの課題を取り上げているわけではありません。HSBCはその規模とネットワーク、影響力を活かしてより持続的でより包摂的な経済成長を打ち立てるリーダーの役目を果たしていきます。道筋をつけるための答えは出揃っていませんが、寄与を最大にする唯一の方法は「当事者になる」ことです。

HSBCは低炭素への移行を経済回復に採り入れようとするETCの7つの優先事項を支援します。グリーン経済を促進する最も効果的な方法は、環境的に持続可能なプロジェクトへの資金提供コストを大幅に削減し、再生可能な電力システム、グリーン・インフラストラクチャー、革新的な低炭素活動など低炭素への移行に最大のインパクトを与える分野に投資を集中させることにあるとHSBCも考えています。

高炭素セクターが低炭素へスムーズに移行するための支援の重要性も認識しています。そこで、ETCが打ち出した優先課題と足並みを揃える形で、自動車や化石燃料など二酸化炭素排出削減がより困難な産業の移行を支援し促進する取り組みに力を注いでいきます。各国政府や他の銀行と連携して低炭素への移行に焦点を当てた景気回復のため最も有効な機会を特定し、成功を加速するために資金を補助します。

グローバルな貿易とサプライチェーン・ソリューションを利用して、世界中からの資金提供の流れを持続可能なプロジェクトにつなげ、現地の金融センターをグリーンな資金提供のハブとして育成します。移行が最も困難な新興国市場においては、世界が受けるメリットが最も大きな分野に注力します。さらに法人顧客に対しては、低炭素に移行する道程の策定や魅力的なレートでの持続可能な投資機会の特定をお手伝いします。

個人のお客様にもHSBCを、自らが低炭素経済への移行に貢献するためのファシリテーターと見なしていただきたいと思います。個人のお客様を支援し、環境にやさしい未来を築きつつ、お客様が資産を成長させ幸福度を高めるのに役立つ新しい方法を模索していきます。

新型コロナウイルスの感染拡大は多大な犠牲を強いていますが、人類に立ち止まって選択肢を検討する機会を与えました。人類が将来、社会的、経済的繁栄を享受できるかどうかは健全な環境次第ですが、それには多額の投資と長期の展望が求められます。銀行業ではリスクとリターンを考慮しますが、この投資がクリーンで公平かつより豊かで持続可能な未来という究極のリターンをもたらすことは明らかです。

新型コロナ後の経済をグリーンに再起動すれば、新たな成長の足がかりになるだけでなく、持続的な成長の足がかりにもなります。当事者は私たちです。

HSBCグループ グローバル・サステイナブル・ファイナンス統括責任者
ダニエル・クリアー(Daniel Klier)

HSBCグループ グループ・ジェネラル・マネジャー ダニエル・クリアー(Daniel Klier)