新型コロナウイルスの感染拡大の封じ込めと急速に冷え込む世界景気
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的感染拡大)がきっかけとなり、世界経済は、少なくとも過去100年間に経験したことのない「突然の停止状態」に陥った。
各国政府による感染拡大抑制に向けた対策(経済、社会活動の制限)により、経済面では最初に供給量が急減し、次いで、失業の拡大や先行き不透明感から景況感が悪化する中で需要が大きく冷え込んだ。こうして、世界経済は深刻な景気後退に陥っている。
今後の世界経済の展開では、「新型感染症の封じ込め策が経済へ与える打撃」と「マクロ経済支援(安定化)策による景気の下支え効果」との間のせめぎ合いとなるだろう。新型感染症の封じ込め策の内容は、新型ウイルスの感染拡大状況と、その封じ込めの見通し(つまり、パンデミックがどの程度広がり、治療薬やワクチンがどれだけ早急に開発できるか)により、大きく左右される。
「封じ込め策」と「マクロ経済支援策」のそれぞれが経済に与える影響を判断するのは非常に困難である。我々は海図のない海洋を進んでいるといえる。実際、各国政府は現代の経済システムの中で、現状行われているような厳格な「ロックダウン」(都市封鎖や外出禁止措置)を導入したことがなく、また、これまでに打ち出された景気支援のためのマクロ経済政策のいくつかも過去に例をみないものである。
シナリオの設定
HSBC投信では、今後見込まれる世界経済の方向性について、3つのシナリオ ・・・景気の下振れシナリオ、メイン(中立)シナリオ、景気の上振れシナリオ・・・ を設定した(図表1)。
HSBC投信のこれら3つシナリオで共通しているのは、経済活動に対する当初の衝撃は非常に大きく、経済に対してある程度の長期的な打撃、または傷痕を残すということである。最近の経済データもこの予想を支持している。
たとえば、米国では雇用者数は4月中に約2,000万人減少し、ユーロ圏の小売売上高は3月に前月比で11%減少した。また、欧州の新車登録台数は、3月に前年同月比で55%を超える落ち込みとなった。英国では、イングランド銀行が「4-6月期のGDPは2019年の最終四半期の水準を30%下回る可能性がある」と示唆している。