使い捨て手袋を渋る理由は「経費がかさむから」
順子さんが勤務しているコンビニでも現在はレジ前にはビニールシートが取り付けられ、接客時は使い捨ての手袋を着用することがルールになっています。しかし、そうした対策がルール化される前にもオーナーと従業員の間で、ひと悶着あったそう。
「オーナーはマスクだけでなく、使い捨て手袋を使用することも最初は渋っていました。その理由は経費がかさむからだと。」順子さんはその時も渋るオーナーに従業員たちの想いを訴え、なんとか手袋を着用させてもらえるように頼み続けました。
「結局、手袋の着用が認められたのは政府からの自粛要請が出て、数週間後のことでした。私たち従業員の意見をいくら言っても聞いてもらえなかったのに、国が動いた途端に焦り始めて。なんだか悔しかったですね。」
たしかに経営者の視点に立つと、お客さんが少ない中、経費が以前よりかさむ状況は厳しいものですが、だからといって命を守る対策を取らない理由にはならないはず。今回の件で順子さんはオーナーに対して心底失望しましたが、こんな風潮では新しい仕事を見つけることも困難なため、現在もコンビニ店員として週6日勤務する生活を送っています。「今回のことで、経営者の行動ひとつで従業員の命が危険にさらされることがあるんだということが身に染みました。次は従業員を思いやってくれる職場を探します。」
そう語る順子さんが感じた「見えない恐怖」は、とても大きかったはず。未曾有の危機から自分たちを守ろうとしてくれない経営者のもとで働き続けなければならない時、自分なら一体どうすればいいのだろうか。順子さんの体験を知ると、そんな思いも芽生え、職選びの難しさが身に染みます。
古川 諭香