キュレーターから読者に伝えたいポイント
英国ショックから2週目の今週は、再び世界の金融市場は軟調となりました。“取るに足らぬ出来事”という表現は、やや言い過ぎかもしれませんが、足元の世界景気が冴えないことを考慮すれば、仮に国民投票の結果がEU残留であったとしても、その後の相場は軟調な状態が続いた可能性もあります。
いずれにせよ、想定外の結果が起ったことだけを捉えて、2007年のパリバショックや2008年のリーマンショックと重ねて過度に危機感を煽る動きには注意が必要です。
欧州の不良債権問題が世界に拡散する可能性は低い
英国ショック後、第1週目の日経平均は上昇で引けましたが、2週目は軟調な相場が続いています。この背景には、欧州の一部金融機関で不良債権問題が再燃し欧州の銀行株が大きく売られていることや、英国不動産ファンドの解約停止などのニュースで、市場センチメントが再び悪化したことがあります。
欧州銀行問題の一例が、この記事で紹介されているイタリアのモンテパスキ銀行です。同銀行は、欧州中央銀行(ECB)から不良債権比率の引き下げなどを要請されたと2016年7月4日に発表しています。
ただし、不良債権一気に処理してしまうと、同銀行の債権を保有している個人投資家が大きなダメージを受けてしまうことや、イタリアでは選挙を控え、大胆な政治的な決断を下しにくいため、この問題は、時間をかけて処理される可能性が高いと見られています。
ここで重要なことは、この不良債権問題と英国のEU離脱問題とは直接的な関連性がないこと(欧州の銀行部門はそれ以前から不良債権問題を抱えていました)、また、イタリアの銀行の流動性は高く、信用力の著しい低下は現段階では回避されていることです。
こうしたことを踏まえると、イタリアの銀行問題がリーマンショック時のように、世界中に拡散する可能性は現時点では非常に限定的と考えられます。
何を恐れているか? もう1つの国民投票とイタリア不良債権
出所:投信1
「パリバショック」とは中身が違う英国の不動産ファンド解約停止
市場センチメントを悪化させたもう1つの要因は、英国の不動産ファンドが顧客からの解約を一時停止したというニュースです。その理由は、この出来事がリーマンショックの起こる約1年前の2007年8月のパリバショックの再来を思い出せるからです。その時も「ファンドの解約停止」という言葉が頻繁に使われていました。
ただし、この記事にあるように、中身は大きく異なることには注意が必要です。パリバショックやリーマンショックの時は、サブプライムローンなど得体の知れない証券に投資されていましたが、英国の不動産ファンドは英国の商業不動産市場という実体を把握しやすい資産へ投資を行っています。
このため、今回の解約停止騒動は、単に流動性が相対的に低い不動産市場でファンドが償還請求に応じられなかっただけとも言えます。解約の要求に応じて不動産を売却し現金化するまでに時間差があるため、一時的な解約停止は不動産ファンドでは必要な処置と見られます。
また、この記事の筆者が指摘しているように、マクロ的に考えれば、英国で不動産が売られてもビジネスの移転先である欧州大陸で不動産が買われれば、トータルでは相殺される可能性もあるのです。
もちろん、欧州は英国ショック以前から失業問題、難民問題などを抱えた不安定な市場であり、今後、急速にこうした構造問題が解消されて回復する可能性はほとんどないと言ってよいでしょう。とはいえ、「解約停止⇒パリバショック⇒リーマンショック」という単純な連想ゲームに惑わされることなく、冷静に欧州で起こっていることを注視していきたいと思います。
英国不動産ファンド、解約停止は響きがよくない
出所:ピクテ投信投資顧問
”リーマン狼少年”に踊らされてはいけない
この記事の筆者によると、「リーマンショック」は和製英語であり、アメリカではこうした表現はほとんど使われないとのことです。
漠然とした不透明感を、日本の新聞等のメディアでは「リーマンショック級」と表現しがちです。しかし、この記事の筆者が指摘するように、過去アメリカ議会が一時的に政府機関を閉鎖した時も「リーマンショック級」、ギリシャ危機が起こった際も「リーマンショック級」、中国経済の減速も「リーマンショック級」、アメリカで車が売れれば「自動車ローンが次のリーマンショックに」と、「リーマンショック」はあらゆる所で引用され比較されてきましたが、実際には2008年のリーマンショックの再来にはなりませんでした。
こうした過去の反省を踏まえて、今回の英国ショックを冷静に捉えたいと思います。
英国のEU離脱と「リーマンショック」
出所:楽天証券
LIMO編集部