新型コロナウイルスの感染拡大で半導体業界も一時的な市場縮小が避けられないなか、シリコンウエハー市場は300mmを中心に需要が安定している。メモリー分野は一部でウエハー在庫の調整が続いているものの、先端ロジック向けなどで多用されるエピタキシャルウエハーは高水準の需要が続いている。一方で、自動車や産業機器向けのミックスが高い200mmウエハーは一部の顧客で在庫積み増しの動きは出ているものの、最終需要の低迷から不確実性が高まっている。
出荷面積は6四半期ぶりのプラス成長
業界団体SEMIの統計によると、2020年1~3月期のシリコンウエハー出荷面積は前四半期比2.7%増の29.2億平方インチとなり、6四半期ぶりのプラス成長を記録した。新型コロナの影響からマクロ環境が悪化しているにもかかわらず、出荷面積が伸びたのは先端ロジック向けの300mmウエハーの需要が好調だったことに加え、顧客側で供給不安の心理が働き、在庫積み増しの動きを強めたことが背景にあると考えられる。
もともと、300mmウエハーの分野は16年末以降、安定的な確保のために顧客とウエハーサプライヤーの間で長期供給契約が結ばれるケースが相次いでおり、300mm生産数量のうち、信越化学工業は9割以上、SUMCOは8割以上が長期契約分で占められている。
そのため、市況が下降局面になった場合でも、基本的にはこの契約が履行され、顧客は生産調整時でも一定の数量を購入しなければならない(数量の繰延は一部あり)。19年以降もウエハーサプライヤーの業績が崩れなかったのは、この部分が大きい。
国内主要2社の業績も安定
国内主要2社の直近の業績も安定している。SUMCOの20年1~3月期業績は、売上高が前四半期比2%増の722億円、営業利益が同41%増の116億円の増収増益となり、当初予想も上回る結果となった。同社は相対的に先端ロジック顧客の構成比が高く、業績のドライバーとなったもよう。台湾子会社のFST(Formosa SUMCO Technology)がスポット契約中心であるため、価格下落の影響は受けたものの、数量の回復を増益要因の一部に挙げている。
信越化学も顧客・製品ミックスの影響から20年1~3月期の半導体シリコン部門の業績は前四半期比で減収減益となったが、19年度(20年3月期)では増収増益を記録している。同社でも3月から需要が急増したとしており、生産調整が続いていたメモリー分野でも、新型コロナによるサプライチェーンでの在庫積み増しも一部で影響しているという。
自動車・産機向け多い200mmは不安要素多く
先端ロジックで実需ベースでの伸びが見込めるなか、300mmウエハーは今後も安定した需要環境が続くと見られているが、200mmは不安要素がつきまとう。足元では備蓄需要によって、それほど減速感は出ていないが、自動車分野では完成車生産台数が2割以上のマイナス成長となるほか、産業機器向けも工作機械やFAの需要減によって、当面は厳しい環境が続くことが予想されている。信越化学も「どこかで調整局面が来る」と見ているほか、SUMCOも「先行き不透明であることから予測が困難」だして、今後の不安材料である点を認めている。
ただ、新型コロナによって広まったテレワークやオンライン学習などは今後ウエハー需要を喚起する材料としても期待されている。SUMCOではパソコン向けウエハーで19年から20年にかけて最大44万枚、サーバー向けウエハーで20年から22年にかけて最大50万枚の新規需要が生み出されると試算している。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳