米国で失業者3500万人超の衝撃。「安全」をとるか「経済」をとるか

失業保険の新規申請件数資料に見る州ごとの失業状況

新型コロナウイルスの感染拡大への対応として、日本では「緊急事態宣言」により、個人だけではなく企業の経済活動も、止まるか低調になっています。その状況は、米国ではどうなのでしょうか?

日本よりも雇用を調整しやすい米国では、「失業保険の新規申請件数」を見ることで、その状況を理解しやすいのです。米国の労働省(DOL)が毎週公開する資料[※1]を見ていきましょう。

※1 https://www.dol.gov/ui/data.pdf

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3月中旬からの失業保険の申請件数はどう動いたか

3月14日時点(16日に開示)での季節調整済みの新規申請件数は28万1000件でした[※2]。それが、21日時点での件数が328万3000件にまで拡大[※3]。これは前週の実に10倍以上の件数に拡大するという緊急事態です。そして28日時点では664万8000件に達します[※4]。ちなみにこれはたった1週間の数値です。

※2 https://oui.doleta.gov/press/2020/031920.pdf
※3 https://oui.doleta.gov/press/2020/032620.pdf
※4 https://oui.doleta.gov/press/2020/040220.pdf

4月に入り、4日時点で660万6000件[※5]、11日時点では524万5000件[※6]、18日時点では442万7000件と、2週間で200万件以上も減ってきており[※7]、4月25日時点では、383万9000件となっています[※8]

※5 https://oui.doleta.gov/press/2020/040920.pdf
※6 https://oui.doleta.gov/press/2020/041620.pdf
※7 https://oui.doleta.gov/press/2020/042320.pdf
※8 https://oui.doleta.gov/press/2020/043020.pdf

5月に入ってからは、5月2日時点で316万9000件[※9]、5月7日時点では298万1000件と[※10]、週ごとに申請件数自体は減少傾向にありますが、引き続き300万件前後で推移しているという状態です。各時点での数字を以下に一覧としてまとめておきます。

※9 https://oui.doleta.gov/press/2020/050720.pdf
※10  https://oui.doleta.gov/press/2020/051420.pdf

3月14日時点:28万1000件
3月21日時点:328万3000件
3月28日時点:664万8000件
4月4日時点:660万6000件
4月11日時点:524万5000件
4月18日時点:442万7000件
4月25日時点:383万9000件
5月2日時点:316万9000件
5月9日時点:298万1000件

4月の失業者数は2000万人超に!

5月8日に開示された雇用統計[※11]でも、4月の非農業部門の雇用者数減が2050万人とされており、申請件数の規模とおおむね一致しているのが確認できます。また失業率も14.7%とされています。

※11 https://www.bls.gov/news.release/empsit.nr0.htm

米国の失業保険の新規申請件数について、新型コロナウイルスの影響が大きくなった3月21日からの過去8週間を合計すると、3647万9000件です。累計に過ぎませんが、3500万件を超えているのは驚きです。

日本の就業者数で考えてみると、製造業と卸売業、小売業のすべての就業者数を合計した数が約2200万人ですから、米国ではそれを圧倒的に上回る雇用がこの短期間に失われてしまったということを表しています。

カリフォルニア州では3月17日から、またニューヨーク州では3月22日からはロックダウンが始まっています。そうした影響もあり、以降の新規申請件数が爆増しているのが分かります。3月28日時点の新規申請件数でピークは打ったものの、引き続き数百万単位での件数が記録されており、米国全土での失業者数は確実に増加しています。

雇用状況はニューヨーク州よりカリフォルニア州のほうがひどい

ここまで全米の失業保険の新規申請件数の推移を見てきましたが、実は週ごとにその状況が異なることがわかります。

州ごとで見ると、ニューヨーク州における新型コロナウイルスの感染者と死亡者数が最も多く、状況が厳しいことが報道されているのは、多くの方がご存じかと思います。

人口100万人当たりの死亡者数では、日本時間の5月18日時点でニューヨーク州が1456人となっている一方、カリフォルニア州は83人となっています[※12]。カリフォルニア州は、「感染被害を食い止める」という観点では、ニューヨーク州よりも成功したといえます。

※12 https://www.worldometers.info/coronavirus/country/us/

こうして見てみると、雇用状況もニューヨーク州のほうが厳しそうに見えますが、失業保険の新規申請件数の状況に関しては、カリフォルニア州がニューヨーク州よりもひどいのです。

カリフォルニア州とニューヨーク州の新規失業保険申請件数について、カリフォルニア州でのロックダウン影響が含まれる3月21日以降の推移を見ていきましょう(各州の季節調整なしベースの数字)。

▼カリフォルニア州(人口:約3950万人)

 3月21日時点:18万6809件
 3月28日時点:87万8727件
 4月4日時点:92万5450件
 4月11日時点:66万966件
 4月18日時点:53万3568件
 4月25日時点:32万8042件
 5月2日時点:31万8064件
 5月9日時点:21万4028件

 累計……345万1654件

▼ニューヨーク州(人口:約1945万人)

 3月21日時点:8万334件
 3月28日時点:36万6403件
 4月4日時点:34万5246件
 4月11日時点:39万5949件
 4月18日時点:20万4716件
 4月25日時点:21万8912件
 5月2日時点:19万5242件
 5月9日時点:20万375件

 累計……175万5177件

州民の安全優先か、それとも経済優先か

もともとの人口の違いはありますが、このように見ると、ニューヨーク州の申請件数はカリフォルニア州より少ないということがわかるかと思います。

カリフォルニア州は、州民の安全性を確保することはできたものの、雇用は大きく悪化してしまっています。

一方、ニューヨーク州は、雇用保険申請件数の数字自体はカリフォルニア州よりも抑えられているものの、先に見たように、人口当たりの死亡者数はカリフォルニア州よりも多くなっています。

為政者からすれば、「州民の安全」を確保するのが最も大事だというのは誰しも納得がいくかと思いますが、一方で、経済活動を止めてしまうことで、州民の「生活のお金の不安」が増してしまうということもあります。

倫理学の思考実験として有名なものに「トロッコ問題」というものがあります。これは、線路を走るトロッコ(トロリー)がコントロール不能になり、そのまま進むと作業員5人が確実に死ぬが、ポイントを切り替えると作業員1人が確実に死ぬ、という状況で、いまポイントのところにいる自分はどうすべきかというもの。これは「ある人を助けるために、ほかの人を犠牲にすることは許されるか」という悩ましい問題です。

経済への影響を考えてロックダウンを慎重に決めたニューヨーク州でのコロナ感染の拡大と、安全優先でいち早くロックダウンを決定したカリフォルニア州での大量の失業。いずれも直接あるいは間接に生死にかかわってくるような大きな問題です。結果論ではありますが、安全を取るか、経済を取るか、ということになってしまったこの状況は、現代の「トロッコ問題」ともいえるのではないでしょうか。

泉田 良輔

参考記事

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泉田 良輔
  • 泉田 良輔
  • ナビゲータープラットフォーム 編集委員長

2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(ナビプラ)を共同創業。ナビプラでは個人投資家のための金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。大学卒業後、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネジャー、その後フィデリティ投信・調査部や運用部にてテクノロジーセクターの証券アナリストや小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー。慶応義塾大学商学部及び同大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。著書に『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』、『銀行はこれからどうなるのか』、『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』、『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』。ネットメディアにおいては「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」「東洋経済オンライン」「プレジデント」などへの寄稿も行う。東京工業大学大学院非常勤講師。産業技術大学院大学講師。